酸欠少女さユり『ミカヅキ』を紫吹蘭に重ねた
最近、ふと思い立って『ミカヅキ』を聴き直したら、「これは紫吹蘭の曲だ」という風になりました。
アイカツ!シリーズにおいて月というモチーフがあてられるのは白鳥ひめもとい神崎美月であることは誰も異論は挟まないと思います。
では、何故『ミカヅキ』が紫吹蘭の曲であるか。それは、この曲がタイトルである「月」以上に「蝶」をモチーフにあてた楽曲であると私は解釈しているからです。
一番:トライスター編、「ソレイユ」は紫吹蘭のためのもの
こちらについては良記事があるので説明を譲るとして。
アイカツ!をトライスター編という題材で語ってみる|あや (note.com)
ミカヅキの一番はこのように始まります。
幸せそうに優雅に世界、もといアイカツ界を照らしているのは間違いなく神崎美月でしょう。アニメ本編では「トライスターに所属する紫吹蘭」に対しての美月の葛藤も少なからず描かれていますが、紫吹蘭はそんなこと知るはずもない。葛藤も苦悩も何も知らないかのように、常に凄まじい努力を重ね、ステージで観客を魅了する美月。
オーディションを勝ち抜いて、実力とそのマインドを見染められて加入したはいいものの、相手は神崎美月と当時はアメリカから突如やってきた黒船・一ノ瀬かえで。オーディションの舞台となったスターライト学園の中では有数の実力者のはずの蘭も、この二人を前にしては夜空どころか「地べた」に転がっている存在だと自分を卑下するほどになってしまいます。
夜空に輝く星のはずの蘭は、夜明け、朝。いつしか昇る「太陽」に戻ることを夢見て。
それでも、努力を続けていれば、トライスターの一員として恥の無い姿を見せていれば、きっと「頑張って」を送り合う親友たち二人に見つけてもらえる。
そしてその「誰か」はかつて学園を去ったルームメイトなのかもしれない。
ミューズになりたいと願い、敬愛しているデザイナーかもしれない。
「いつも地下から見ているわよ」とげきを飛ばしてくるライバルかもしれない。
寮も去って、動かぬ「帰る場所」はもう存在しない。
逃げ出したくても休みたくても、数年先まで埋まっているトライスターの分刻みのスケジュールから逃れられるはずもない。
自分の精神の体力もボロボロにしながらも、今日も「Take me higher」の舞台に立たないといけない。
「絶望に彷徨って真っ暗で孤独でいると思わないで?」………ごめんて、、
でもきっと、当時の蘭はこの歌詞に似合わず誰よりも孤独だったのかもしれない。
二番:紫吹蘭と「スパイシーアゲハ」
神崎美月が月なら、紫吹蘭は蝶。
そしてそこに欠かせない存在となるのが「スパイシーアゲハ」の存在。
さらには前述したように同じブランドを着こなす三ノ輪ヒカリと、近藤真子も彼女のアイデンティティを作り上げるのに欠かすことはできないでしょう。
紫吹蘭が初等部にいたときに、彗星の如くスターライト学園に現れ、フレッシュガールズカップで当時のクイーンを撃破した神崎美月。
裏で文字通り身も床も削る努力をしていたとしても、その姿は決して人に見せられることはなかったでしょう。
彼女は弱冠13歳のときから、優雅に惑うことなく玉座に座っていました。
美しく白い鳥は、泳ぐために痛めた脚すら忘れて泳ぐからね。
同じく中学生になった紫吹蘭は、「一緒に上っていこう」と誓い合った親友、近藤真子が学園を去ります。この経験が蘭の心に深い影を残し、本編第5話での「一緒に消えていかないようにな」というセリフに繋がるわけです。蘭ちゃん………………
誰よりも「失うこと」を恐怖するようになり、ひとりでいることを選んだはいいけれど、やっぱり絶望感はいつまでも拭い去れなかったのではないでしょう。
そんな蘭を、いちごとあおいが編入してくるまで鼓舞し続けたのはライバル、三ノ輪ヒカリではないでしょうか。
地下の太陽と互角に渡り合えるようになるきっかけが後に「ソレイユ」を組む二人という事実に私は大変にっこりしてしまいますが…
「変わったわね。いいんじゃない?」
というあたりヒカリちゃんもなんやかんやで気にかけていたんだなぁと思うと…
「追いつきたいや、追い越したい」という歌詞は、23話の「あたしを追いかけちゃダメ」という橘杏奈の台詞を彷彿とさせます。
新城絵麻や橘杏奈といった他人を追いかけることでは無く、唯一無二の「紫吹蘭」を体現することによって、無事彼女はミューズの座を勝ち取ることになります。
さらにストイックな彼女は、自分にすら負けたくない。
「紫吹蘭、あんたは………あんたはこんなもんか」と自主練中に鏡の中の自分に向かって吐き捨てていた姿が印象的です。
絵麻やトライスターメンバーとの比較、いなくなった真子、ないしはクイーンカップを終えて学園を去っていったいちごや美月といった「欠けたもの」の影を探してしまう…
こういった葛藤を一つ一つ乗り越えて、紫吹蘭は絵麻とかつて交わした「必ず上がっていく」約束を果たしていくのです。紫吹~~~!!!!
落ちサビ:紫吹蘭と神崎美月の交差する場所
ソレイユに合流し、スパイシーアゲハのミューズを勝ち取って…
時系列はどこでもなんでもいいのですが、紫吹蘭はきっと神崎美月との「ステージ上」での再会を望んでいたと思います。おんなじ景色。
だってあのとき神崎美月が蘭をソレイユへの合流を促さなかったら、紫吹蘭のそのあとのアイカツ!は原型すらなくなっていたでしょう。ドリームアカデミーの面々との交流すら消滅していたでしょうし。
自分の本来のアイカツを取り戻し、神崎美月と同じステージに並ぶに相応しくなった自分を見てほしいという願いはあったはず。
蘭はSTAR☆ANISで再び美月とユニットを組んで共演し、ソレイユとして当時夏樹みくるとWMを組んでいた美月と対決し、惜敗します。その後146話「もういちど三人で」ではソレイユが揃ってのアイカツ8が強調されていますがしれっと美月との共演も果たしています。
そして、「大スターライト学園祭」にて対トライスターという形ではありますがユニットとして「美月越え」を達成。
それにしたって、星宮いちごがアイカツ界の太陽になって神崎美月に対しての存在になる。
夏樹みくると神崎美月のユニットデビュー曲が笑顔のサンキャッチャー。
極めつけは「ソレイユ」に触発されてトライスター再結成……。
美月さん、本当に太陽から離れられないんですね(にっこり)
紫吹蘭にはアイカツを続けるにあたって、手放したものも失った存在もいるけれど、それすら自分の輝きにしていくんだな~~~~………………
そして、この蘭との別れやそこまでの葛藤は美月はドリームアカデミーへの転身の大きなきっかけといっても差し支えないでしょう。
アニメ63話でいちごに打ち明けた、「後輩たちが持つ輝きを、もっともっと強くすることができたのではないか」「アイドルを導きだけじゃなく作ること」という悩みと目標。トライスターやスタアニの経験を通して生まれてきた自問自答の答えとして最終的に辿り着くのが、ミラクル・夏樹みくるなんだ………………。
ラスサビ:「泣きたい今日が いつかの笑顔に」紫吹蘭のこれから
決してソレイユを結成したからって、いちごがアメリカから帰って来たからと言って、この三人にもう一生離別が無いということは有り得ません。
現に「STARWAY」ではトライスター編よりも長く濃い離別と「それぞれ」が描かれている訳ですし。
「MY STARWAY」の歌詞割で、「泣きたい今日がいつかの笑顔に」、「眠れない夜は空を思ってる 目覚めたあの日の夢を思ってる」という部分が蘭にあてられているのは、もうそういうことでいいでしょう(何が)
「一瞬の表現」を突き詰めるために役者としての活動に打ち込み始めた蘭。そこで葛藤がないことは決してないけれど、後戻りなんでできるはずがないし、したくない。
だってまたいつか「さんにんで」頑張る時に、輝きが増していない紫吹蘭なんて有り得ないから。
未来の中に思い出を少しずつ経験していくことで、過去に負った心の傷も埋めていって、翼は欠けたものではなくなっているはず。紫吹蘭が一番綺麗だ。
「ミカヅキ」:神崎美月も完全体ではなかったのではないか
お月様の完全体は、満月でしょう。何一つ欠けていないお月様。
それが三日月という形まで大きく削られているのは、トライスター編当時の神崎美月はまだ「覚醒前」だったのではないか。
神崎美月と紫吹蘭の共通点は、「一人でアイカツしなければならない孤独に悩んでいた」ことが一番大きいものでは無いでしょうか。
ついていけなくてごめんと謝られた神崎美月
くじけてごめんと言われ、自分の前から去っていかれた紫吹蘭
孤高を極めていたけれど、「誰かとするアイカツ」に魅了され、そこに夢を託すという点で二人は完全に一致しています。
美月は夏樹みくるとユニットを組み、2WingSと競うことで「私の夢が今日叶いました」と99話で締めている。きっと、美月の夢は自分の見出した運命のパートナーと一緒に最高のステージを創り上げることだったのでしょう。かつてのマスカレードのように。
トライスターからの脱退を蘭に告げるメールでは、
「私の夢で あなたの夢を振り回してしまってごめんなさい」
と美月は蘭に謝っています。
神崎美月が運命を感じる相手を見つける前に、蘭は「一緒に走っていきたい仲間」に夢をみていた。いちごとあおいと「頑張ろう」とやっていくことで、蘭にとっての「世界」は動き始めるんですね………………
ユニットを組む意味、後継のプロデュースに目が覚めた神崎美月は、ここから拠点を変えながら勢いを止めることなく自分の夢を叶えにいきます。アイドルとして、プロデューサーとしての努力は惜しまないまま。
そして、同じようにユニットを組むことや自分の「ミューズ」という目標に向かう蘭に向かって、今度こそ謝罪といったなんのわだかまりもなくゆるりと笑えるのでしょう。
神崎美月は決して、星宮いちごにだけに「次」を託したのではない。
時系列がめちゃくちゃですが、私なりの考察を一旦ここまで書いて眠らせておこうと思います。アイカツ!はいいぞ!
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