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タネまきから始めるコノフィツムの栽培

 コノフィツムは挿し木や株分けで簡単に増やすことが出来るし、必要となるテクニックは難易度が高いため、わざわざタネを播く人は極めて少ない。しかし、ブルゲリやRラツムのように滅多に分頭しない種は実生繁殖するしかないし、実生苗の中には意図しなかった美しい個体が現れることもあるので、栽培に慣れたらタネまきに挑戦してみるのも楽しいだろう。一般的にタネまきから開花までは最低でも3年から4年はかかるが、それだけに開花したときの達成感や喜びは格別だ。

ブルゲリ芽生え2週目

 ↑ 発芽後2週間経ったブルゲリの実生。球体の直径は1 mm程度という小ささで、乾燥地に生きる植物とは思えないほど弱々しく見える。中央の苗の真ん中に付着している薄茶色のものは、発芽によって脱ぎ捨てられた種子の殻(種皮)だ。自生地では砂礫等に埋もれたところで発芽するので、強い陽射しや強風、そして乾燥から守られながら幼苗期の数年を過ごすのだろう。自生地の環境を想像することが、ひょっとしたら実生技術の上達に役立つかも知れない。

タネまきの適期

 種(しゅ)によっても異なるが、タネまきの平均的な適期は8月下旬〜10月いっぱいだ。播種時期が遅くなると気温の低下により発芽に日数がかかるようになり、さらに生長も遅れるため夏越しが難しくなる。また、春に播いても発芽するが総じて成績は良くなく夏の間に消えてしまうことが多いという。

タネの入手ー1(購入)

 現時点でコノフィツムの種子を販売するナーセリーは国内には無い。ブルゲリなどごく限られた種についてはネット通販等で入手可能だが、大多数の種についてはアメリカのメサ・ガーデンが唯一の供給源と言って良い状況にある。eBayやネットオークションやネットフリマでも販売があるが、出品者によっては偽物の種子を販売していることもあり、初心者には見極めが難しいだろう。
 にくたま屋(2021年9月4日現在、サイトはメンテナンス中で、メルカリやヤフオクでブルゲリの種子を販売している)の種子は品質・価格ともに良心的でおすすめしたい。

タネの入手−2(自家採種)

 種子の購入が難しいこともあり、親株を入手しての自家採種に頼らざるを得ないのが現状だ。しかし、一部の例外種を除いて同じ株に咲いた花同士を交配しても結実しないため、遺伝的に異なる2株以上の開花株を用意する必要がある。
 交配には、ティッシュペーパーで作ったコヨリやペイント用ハケの毛を切り取って使う。雌しべには受精に適した時期があるため、日を開けて何度か授粉を繰り返す。 昆虫による意図せぬ交配を防ぐため、用いる株は開花前と交配後しばらくは、鉢を網で覆うなどして隔離しておく。翌年の初夏以降、カプセル(果実)が茶色く乾いたら完熟したものとみなし、小さなハサミで切り取って保存するか、中からタネを取り出して保存する。密封容器に入れて冷蔵庫(4℃程度)で保存すれば少なくとも10年は発芽能力を維持できる。密封容器は室温に戻してから蓋を開けるようにしないと種子に結露して発芽能力が低下することがあるので注意したい。室温保存でも3年間ほどなら発芽能を維持するが5年くらいで急速に発芽能を失う。ハマー氏はカプセル(果実)のまま保存すればもっと長く発芽能を維持すると言うが私は実験したことがない。

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↑ マウガニーのカプセル(果実)が熟して乾燥したので、小さなハサミで切り取る。

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↑ 収穫したカプセルを小皿に入れた水に漬けると数分で裂開して中から種子が零れ出てくる。ピンセット等で良く揉みほぐして種子を水中に出す。

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↑ 注意深く小皿を傾けて水を流し去り、日陰でよく風乾して採種完了。薬包紙などで包んで播種適期まで保管する。

培養土と苗床の準備

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↑ 播種用土の一例だが、12時の方向から時計回りに、蝦夷砂(細粒)、鹿沼土(細粒)、籾殻くん炭、赤玉土(細粒)、バーク堆肥(篩を通したもの)で、おおよそこの配合比で混合している。蝦夷砂と鹿沼土は他の軽石系の培養土、例えば日向土に置き換えても良いし、乾きやすいようならバーミキュライトを1割程度混合しても良い。混合するのが面倒ならガーデンセンター等で販売されている「タネまき用土」を使っても良いだろう。但し、使用前に予め裏漉し用等の細かい篩(100円均一ショップのキッチン用品コーナーでも販売されいてる)に掛けて微塵を除去しておいた方が良い。なぜなら、どんな植物であっても培養土の土粒の間隙(たっぷりと湿気を含んでいる)に根を伸ばすからだ。微塵が多く詰まっていると根が伸びる余地が無いのだ。特にコノフィツムの芽生えは根が極めて細く、微塵で目詰まりした固い培養土には自ら潜って行けないので、根張りが悪くなり生育も悪くなる。また、底面潅水により毛管現象で吸い上がった水が土粒の間に常時停滞しているようでも、細根の生長が著しく阻害される。あるいは折角伸びてもすぐに窒息死してしまう。要するに根腐れ状態になる。だからと言って土粒があまりに粗いのも乾きすぎて良くない。適度な粒径の土粒や有機質を用いて、フカフカとしていて適度な湿気を維持できる培養土作りを心がける。
 いずれにしても新しい清潔な培養土を使用すべきで、使用済み培養土の再利用はしない方が良いだろう。熱湯や蒸し器等による加熱消毒はしなくても構わない。有機質を配合した場合、中途半端な加熱消毒は特定の菌類・キノコが蔓延る原因になることもある。
 鉢はあまり小さいものは培養土が乾きやすく使いにくいので、2号ポット以上のサイズを勧めたい。ここではプレステラポット90を使っている。このサイズで100粒程度の種子を播き、50〜80本程度の苗を育てると丁度良い。栽培密度は発芽直後はスカスカに見えるくらいが丁度良く、このサイズのポットで100本を超えるような状態だと、お互いに肥料やスペースの奪い合いになるようで、全体が平均して生育不良になってしまう。

タネまきの方法

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↑ ポットに培養土を入れ適量の元肥を入れたら、鹿沼土に日が当たると苔が発生しやすいこともあり表面だけ赤玉土の細粒で覆う(厚さ3 mm程度)。細かめのジョウロで上面から潅水して培養土の粉を洗い流したら、適当な受け皿に置いて底面吸水とする。
 種子は非常に細かく、種(しゅ)によって大小の差があるが大凡0.3 mmである。従って、指で摘んでというような播き方は出来ないので、適当な大きさの紙片を2つ折りにしてタネを置き、指でトントンと軽く叩いて少しずつタネを培養土の上に落とす。慣れないと一箇所に密集してしまうことが多いので極力均等に散らばるようにする。タネが少量なら、先端を水で湿らせた楊枝でタネを数粒ずつピックアップして表土に押し付けるように播いても良いだろう。同じくらいの粒径の少量の砂に均一に混ぜて播くという古典的な方法もある。タネを播き終わったら立ち枯れ病予防のためベンレート1,000倍液を軽くスプレーしておくと安心だ。このスプレーで播かれたタネが赤玉土の土粒の間に僅かに落ちて発芽までの湿度を適度に保つ。
 タネまきが済んだポットは60%程度の遮光下に置く。また、適度の通風が必要で、密閉したりすると発芽間もない芽生えが次々に溶けてしまうことがある。サボテンの播種ではがラス板等で覆いをするのが定法のようだが、コノフィツムの播種では全く必要ない。発芽に光が必要かどうかは不明だが、発芽したばかりの芽生えは徒長しやすいため、最初から明所に置いておいた方が良い。また柔らかな芽生えはナメクジの格好の餌になるため、置き場所等には十分注意したい。

タネまき後から1年間の管理

 タネまき後は水深5 mm〜1 cm程度の底面吸水とする。この時、水深が深すぎる(1 cm以上)と培養土が湿りすぎて生育が悪くなるようだ。数日で発芽が始まることが多いが、新しい種子は休眠状態にあることがあり、発芽が始まるまで1ヶ月以上かかることもある。種類によっては数ヶ月の休眠の後に発芽することもある。
 最初の1年間は、日照、培養土の乾湿、風通しなど、成球のそれに比べてマイルドな環境や管理を心がける。自生地では親株の株元、小石の陰、岩の割れ目などに隠れるように幼苗期を過ごしている様子を想像してみれば良いだろう。球体が大きくなって初めて厳しい環境に身を晒すのだと思われる。
 3ヶ月程度は底面吸水を続けるが、表土が吸い上がった水分で湿りすぎていると芽生えの幼根が窒息するようで生育不良となったり、苔が大量に発生してコノフィツムの芽生えを覆ってしまうこともある。かといって培養土を乾燥させてしまうと根が大きなダメージを受けるためそこで生育がストップして二度と回復しなくなる。最初の1年間は適度な土壌水分量を保つことが重要だ。

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↑ タネまき後3ヶ月経ったマウガニーの幼苗(11月下旬)
 発芽後2ヶ月が過ぎれば根もある程度張って安定するので、受け皿による底面潅水からジョウロ等による上面潅水に切り替えると培養土の湿気をコントロールしやすい。
 実生1年未満の苗は夏の間も潅水が必要なので、表土の乾き具合を見ながら丁寧に潅水する。但し、5月頃に遮光が始まると、水分量を減らさないと徒長してしまう。表土の赤玉土が乾き始めてやや明るい色に変化したらジョウロで潅水するくらいが丁度良いようだ。

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↑ タネまき後14ヶ月経ったマウガニー(11月下旬)
 根も十分に張っているので最初の植替えを行う。種類にもよるが、株間2 cm程度に植え付けると良いだろう。

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↑ 植え替えた直後のブルゲリ
 このポットで球体同士が触れ合うようになるまでの1〜2年間栽培する。培養土は、播種用土(細粒主体)よりも土粒のやや大きなもの(小粒)を混ぜて使うのが良いだろう。

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