GAW ~Game of Another World~  第3話

3:想いを言葉に

3.1.1

場所:大森林内
時刻:昼

 森がひらけ、光が差し込む。
 小川が流れ、動物が水を飲んでいる。

キリ「着いたぞ ココだ」
テル「ここだけ別世界みたいですね」
キリ「だろ アレが師匠の家だ 行くぞ」

 キリ、扉の前に立ちノック。

キリ「師匠 キリです いますかー」

 扉が勢いよく開けられる。
 出てきた子供がキリに飛びつく。
 
キジナ「キリィ~ 元気してたか?」
キリ「おかげさまで 今回はお願いがあって来ました」
キジナ「わかった! ちょっと待ってて!」

 子供、家の中に走って行く。

テル「ずいぶん気に入られてますね」
キリ「だろ あの人が師匠だ」
テル「えっ?」

 キジナ、ヒマワリのような笑顔で出てくる。
 テルを見て「コホン」と咳払いをする。

キジナ「そちらは?」
キリ「テルです 師匠に預かってもらいたくて」
キジナ「なるほど まずは中に入ってくれ」

 キジナ、家に入る。
 尻尾が嬉しそうに揺れている。

3.1.2

キリ「散らかってますね 何を作ってるんです?」
キジナ「カメラだ」
キリ「へぇ~ スゴいですね」
キジナ「だろう 適当に座ってくれ」
キジナ「それにしても 可愛らしいツレだな」

 テル、頭を下げる。
 キジナ、笑顔を返す。

キジナ「来て早々で悪いが キリ お使いを頼めるか?」
キジナ「客人のもてなしに 食料調達を頼みたい」
キリ「私は客じゃないんですか?」
キジナ「キリは愛弟子だよ だからこそ頼みたいんだ」
キリ「はいはい 貸し1つですよ」

 キジナ、メモを書いてキリに渡す。
 キリ、部屋を出て行く。
 
キジナ「さてと 自己紹介でもしようか」
キジナ「私はキジナレイ 種族は竜人ドラゴニュートだ」
テル「シンドウテルです 種族は幼獣人シャルカです」
キジナ「では2人だけの 内緒話をしようか」

 キジナ、両手を組み、あごをのせる。

キジナ「聞きたいことがあるんだろう」
テル「ボスを倒すために必要なものを 聞きたいです」
キジナ「わかった だがその前に 私からも頼み事がある」
テル「なんですか?」
キジナ「チューターのことだ 私ではなく別のヤツに預けたい」
キジナ「美人 ベテラン ツンデレ」
キジナ「三拍子そろった超優良チューターだ 絶対気に入るぞ」
キジナ「ただ 1つ問題があってな キリは絶対に文句をいう」
キジナ「だから キリの説得を手伝ってもらいたいんだ」
テル「それだけですか?」
キジナ「それだけだ」
キジナ「キリは頑固だが テルの口添くちぞえがあれば」
キジナ「きっとわかってくれる」
キジナ「テルにしか出来ないお願いだよ」

 テル、キジナの目を見る。
 迷い、考え、決める。

テル「わかりました」
キジナ「交渉成立だな」

 キジナ、グラスを2つ出し赤い液体を注ぐ。
 片方を、テルの目の前に置く。

キジナ「この世界では 偽りなき誓いは血に誓う」
キジナ「本当なら血でやるんだがな 私はコレだ」

 キジナ、グラスをテルのグラスに当てる。
 口をつけ、一気に飲み干す。
 テルを見て、ウィンク。
 テル、グラスを取って一気に飲み込む。

キジナ「では 今度はこちらだ」
キジナ「ボス攻略に必要なのは 準備と観察だ」
キジナ「準備は武器と防具 それにちょっとの勇気」
キジナ「防具はないが 武器は渡せる」
キジナ「次に観察だ ボスは必ず弱点を補う行動をする」
キジナ「行動から弱点を推測するんだ」
キジナ「こんなところだな」
テル「分かりました 最後にもうひとつだけ」
テル「ボクは勝てますか?」
キジナ「安心していい それができるように」
キジナ「新しいチューターは手助けしてくれるよ」

 キジナ、ウィンクをしてみせる。

2.2.1

 夕食後。
 キジナ、話を切り出す。

キジナ「チューターの話だが」
キジナ「私よりも適任がいる そっちに回すことにした」
キリ「師匠より適任? 誰ですか?」
キジナ「キリ・・だよ お前がテルのチューターをするんだ」

 キリ、体を固くする。

キリ「冗談はやめてくださいよ 師匠」
キジナ「お前以上の適任はいない」
キリ「無理ですよ」
キジナ「できるさ 現にこうしてテルを導いてきた」
キリ「それは簡単な道案内だったから」
キジナ「嘘だ」

 キジナ、キリの傷跡を指差す。

キジナ「それと同じ噛み傷がテルにもあったな」
キジナ「レンジャーの心得は 遠距離からの一撃必殺」
キジナ「しくじれば逃げる それが鉄則だ」
キジナ「それが どうしてそんな傷を?」
キジナ「選んだから だろ」
キジナ「死亡ロストの危険よりも テルを」
キジナ「だったらそれに従えばいい それだけの話だ」 
キリ「――やめてくれよ」

 キリ、下を向く。
 キジナ、テルに目配せする。

テル「ボクは キリさんに感謝して」
キリ「もういいっ!!」
キリ「最悪だよ師匠 それにテルも」

 キリ、部屋を出る。
 外へ走る。
 キジナ、溜め息。

キジナ「頼みがある 少しだけ待ってから」
キジナ「探しに 行ってくれないか」
テル「キリさんはなんで あんなに?」
キジナ「それは 直接聞いた方が良い」
キジナ「その方が キリのためだ」
キジナ「それに テルのためにもな」

2.3.1

テルN(家を出る時に 武器を渡された)
テルN(キリさんが行きそうな場所を教えられ)
テルN(『頼むぞ』と 送り出された)
 
 テル、キリを見つける。
 キリの目に涙が光る。
 テル、出ていくのを迷う。

キリ「テルだろ 出てこいよ」
キリ「それとも覗き見が趣味なのか?」
テル「違います 断じて」
キリ「見苦しい所をみせたな」

 テル、当たりさわりのない言葉を飲み込む。
 勇気を出して聞く。

テル「何があったんですか?」
キリ「ちょっとしたトラウマだよ」
テル「聞いても いいですか?」

 キリ、鋭い目。
 無言で「教えない」。

テル「キジナさんに聞いたんです」
テル「そうしたら本人に聞けって」
テル「その方がキリさんとボクのためになるって」

 キリ、諦めるような溜め息。

キリ「仲間がいた そいつは私をかばって死んだ」
キリ「最後の瞬間 目があった」
キリ「わかるだろ そんなことはもう嫌なんだ」
キリ「だから 一人でいるんだ」
キリ「悪かったな チューターの件はなんとかするよ」

 キリ、立ち上がる。

キリ「家の前まで送ってやる」
テル「送るって どういう事ですか?」
キリ「私は戻らない そのまま旅に戻るよ」
キリ「私がいなけなれば 師匠はテルを見てくれる」
キリ「後味は悪いが 時間が洗い流してくれる」

 キリ、テルの肩に手を置く。

キリ「楽しかったよ 攻略 頑張れよ」

 テル、とっさにキリの手を握る。

テル「キリさん言ってたじゃないですか」
テル「大切なのは 挑戦する意志と折れない心だって」
キリ「その意志と心が仲間を殺した」
テル「影と戦った時 1人だったら死んでいました」
テル「キリさんのお陰です だからこれからも一緒に」
キリ「ずいぶん 気に入られたものだな」

 キリ、諦めたような溜め息。

キリ「わかった 本当の理由を教えてやる」
キリ「私は 死にたくないんだ」
キリ「今の自分を失うのが 一番怖いんだ」
キリ「クズだよな でも そうなんだ」
キリ「もういいだろ 最後は笑顔にしようぜ」
テル「ーーボクが強くなればいいんですよね」
テル「キリさんから信用して貰えるくらい」
キリ「口では どうとでもいえる」
テル「だからこうします」

 テル、ダガーの刃を握り引く。

テル「血に誓います」

 キリ、テルの喉元に短剣を当てる。
 短剣よりも冷たい視線をテルに向ける。

キリ「取り消せ」
テル「ボクも本気です」

 テル、半歩前に踏み出す。
 短剣が喉に浅く入る。
 キリ、苦々しげに目を細める。
 テル、もう半歩。
 キリ、短剣を引く。
 目を閉じ、息を止め、奥歯を噛む。

キリN(折れない心 挑戦する意思 か)
キリ「違えるなよ」

 キリ、短剣の刃を握り引く。

キリ「共に歩む テルが目的を果たすまで」

 キリ、血を流す手のひらをテルに向ける。

キリ「合わせろ」

 手と手が合わさる。
 互いの手を握る。
 2人の手に証が浮かぶ。
 キリ、手を離す。
 テルと手の証を見て目を細める。

キリ「早速だが最初のレッスンだ テルの熱烈な追っかけ」
キリ「前と後に1匹ずつ」

 草むらから、狼の姿をした影が出てくる。

キリ「使い方は大丈夫か?」
テル「キジナさんから教わっています」
キリ「上等 準備しな」

 テル、武器を手に取る。
 キジナの言葉が浮かぶ。

キジナN(そいつは特別製だ)
キジナN(この世界で 想いは力になる)
キジナN(その武器は 力を銃弾に込めて発射する)
キジナN(想いを力に変えるのは 初めは難しいだろう)
キジナN(だから言葉をつかえ)
キジナN(想いを言葉にして 銃弾に込めろ)
キジナN(そうすれば弾丸は お前の想いに従う)
キジナN(それがこの みんな大好き種子島 の使い方だ)

キリ「弾は?」
テル「2発」
キリ「1匹は私が貰う その間に1匹を仕留めろ」
テル「はい」
キリ「それじゃあ戦闘レッスンの開始だ」

2.3.2

キリ「一丁上がり」
テル「楽勝でしたね」
キリ「じゃあ 帰るぞ」

キリ「ただいま」
キジナ「おかえり」
キリ「師匠 私の負けです テルは私が引き受けます」
キリ「これで 貸し2つですよ」
キジナ「やれやれ じゃあ2つ分の餞別だ」

 キジナ、キリに赤く輝く石を渡す。
 キリ、表情が変わる。

キリ「コイツは受け取れませんって!」
キジナ「お前が遠慮してどうする?」
キジナ「それが正しく使えるように 助けてやれよ」

 キリ、伏し目がちで「師匠 ありがとう」
 キジナ、四角い機械のボタンを押す。
 強い光とシャッター音。

キジナ「貴重なデレシーンゲットォォォ! フゥゥゥ!!」

 キリ、恥ずかしさに赤くなる。
 それから、怒りで八重歯を剥く。

キリ「それを よこせっ!」
キジナ「じゃあその石返せよ」
キリ「知るかっ!」

 キジナの家に写真が飾られる。
 そこには3人が笑顔で写っている。

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