見出し画像

虫について

畝に張られたマルチに穴を開け、苗を植えているとその上に、細かい土が飛び散っているのが目に映る。時間が限られているので、そのまま手は止めずにそれを見つめてみる。するとしばらくしてからその土と思っていた、一ミリに満たないような細かい粒子が、少しずつ動き出すのが分かる。顔を近づけてみると、それはアブラムシだった。

ハウスの中に何も植えてないとき(例えば冬など)は、そこに生える雑草に、もしくはハウス周辺にいて、こうして人が植え出すと、どこからともなく移動してくる。虫は賢い。当たり前か。生存子孫を残すために必死なのだから。こちらもそれを食い止めるべく必死に頭を使わなくてはならない。

今は植える前に穴に微量、粒状の農薬を混ぜることで対抗する。これがないと、まだ若く、虫にとっては柔らかくて美味しいであろう苗を守れない。一匹は本当に小さく、見過ごしてしまいがちなのに、それが何千、何万と集まってこられたら、苗はあっという間にやられてしまい、見るも無惨になってしまう。少しも侮れない。

少し遠くに目をやると、畝はちょっと前に作られたばかりなのに、アリがもう巣を作って動き出していた。昔からここらへんでは、アブラムシは「アリゴ(蟻子だと思われる)」と言うそうだ(別の地域でも言うのかもしれないが)。アリとアブラムシは共生関係にあり、アブラムシがいるところにアリが現れる。そのことを昔の人はよく知っていたのだろう。



—自身の防御力が弱いアブラムシ類には、アリに外敵から守ってもらう種があり、これがアブラムシがアリマキと呼ばれる所以になっている。食物である師管液には大量の糖分が含まれ、甘露と呼ばれる肛門からの排泄物には余剰な糖分が多く含まれるため、アリ達はこの甘露を求めて集まってくる。中には、はっきりとアリとの共生関係を持ち、アリに守られて暮らすものもある。また、アブラムシの中には1齢幼虫と2齢幼虫の一部が兵隊アブラムシに分化して積極的に外敵に攻撃する真社会性のものもいる。この幼虫は成長せずに死ぬ。虫えいを形成するものでは、排出された甘露を幼虫が虫えい外に押しだして「掃除」を行うなどの社会性が見られる。ーWikipediaより



もう少ししたら、アブラムシを食べる(アブラムシとアリにとっては天敵になる)テントウムシが飛んで来るだろう。自分達からすれば益虫だ。

有機栽培をするといった人が化学農薬がまけないので、草むらからテントウムシをたくさん探して、ハウスの中に放ってやると言っていた人もいた。だいぶ原始的だなあと思うが。

そうすると、アブラムシ、アリは害虫ということになる。まあ実際被害を被っているのでその通りではあるのだけれど。
でも虫からすればどうだろうか。

突如、人間によって自然とは隔離された空間に、自然界で産まれた訳ではない掛け合わされた品種の、私たちにとっても、(多分)虫にとっても、雑草よりかは美味しいものが大量に植えてあるのだ。食べ放題が出来てるようなもの。私なら一年中生えてて固い雑草よりも、危険を犯してもやわらかい新しい葉を食べたいなと考える。

虫からすれば一番生きるためによいと思われるものをターゲットにしたにすぎない。

まだハウスに植える前、ポットで芽を出したばかりの時、小さい双葉が食べられていたあとがあり、いったい何が食べたのだろうかと近くに食べている虫かなんかがいないかと探した時があった。そのときは、アオムシ系はおらず、そもそも食害痕を見ると、ギザギザとしていて、アオムシなどの幼虫が食べるような感じではない、これはバッタかなんかのアゴが鋭いというか、しっかりした虫だと思われた。

そう思い、もうしばらくそこを観察して見た。が、バッタはおらず、そこでポットの周りを徘徊しているのは、ダンゴムシしか見当たらない。

ダンゴムシは森の分解者と呼ばれています。と、遠い昔に読んだ図鑑には書いてあった。益虫であると。落ち葉なんかを分解して、畑に必要な堆肥に変えてくれるのだと、そういう良いイメージがあった。が、実際そこにはそのダンゴムシしかいないのだ。

実際、ダンゴムシは害虫と言われたりもする。各都道府県が作成する、栽培指針にも害虫として記載しているところもある。

主な被害は食害だ。バリバリと葉を食べていってしまう。それは年から年中というわけではないのだが、冬が過ぎ暖かくなり始めた頃くらいに被害が目立つ。丁度育苗の時期だ。苗が小さい頃だと結構のちの生育に関わるような大きな被害をもたらすことも多い。

森の分解者であるはずのダンゴムシがなぜ、害を及ぼすのか?

答えは単純だと思う。ただ、そこにあるものを食べてるだけだ。寒い冬を越す為にハウスに入ってきて、しばらくは落ち葉やら食べていたりするのだろう。そして暖かくなり始めて、人間がなんかわざわざ種を蒔き、たくさんの芽が出る。幼苗は柔らかく、食べるにはさぞかし丁度良いだろう。

アブラムシもそう。ダンゴムシも同じだ。自分達が生きるために食べている。そこに人間の都合なんざ関係がない。


農業は自然との共生なんて言ったりするが、どうだろう。私たちは自然を壊して、そこから隔離された空間を作って、ものを作っている。

自然に生えないものを人工的に、かつ大量に作りだして育てている。そこは人間以外から見れば突然爆発的に発生していて、しかも自然より暮らしやすい環境だ。そんな環境であれば、虫も大量に繁殖する。そうして増えた虫から被害を受ける。

もともとの原因は自分達が作っているのだ。それなのに、害虫だ益虫だと、自分の見える範囲で決めているなんて、なんておごがましいんだろう。


じゃあ自分は虫は殺しません!とかそういう流れに乗る人もいるが、そういうのはまた違うかなと思う。私たちがなんもしなかったら、こんなことにはならないだろう。けど、それでは生きていけない。虫たちと同じように、生きていくために食べなくてはならないのだから。

私は食害など、植えたものに被害を与える虫を見つけたら、極力自分の手で外に出すか、その場で潰すかの二択をとる。お互い生きるための戦いだから、そこは躊躇しない。人には驚かれる(し、まあ良い印象は与えないだろう)。

生きるために必要なことをしていく。それ以上もそれ以下も必要ない。今日もお互い必死こいて生きてやるのみ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?