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インタラクティブミュージックは民主化たりえるのか?


■序論

インタラクティブミュージック。

ゲーム制作者なら耳にしたことがある単語だと思います。
インタラクティブ(対話的)にミュージック(音楽)するやつです。

聞いたことはだけなら多くの人があるでしょうが、より詳しいところまで掘り下げてみた、あるいは自分のゲームに導入してみたことがあるか、となると意外と少数派になるのではないでしょうか。

今回は最低限の知識がある個人、ないしは小規模チームのゲーム開発者が、インタラクティブミュージックを導入する、検討するという状況下に着目した記事となります。(なので企業規模のプロダクトに関しては基本的に言及の対象外とします。ご了承ください)

■本論 そもそもインタラクティブミュージックとはなんぞや

まじで長いな"インタラクティブミュージック"。

こんな見出しをつけておいてアレですが、ここでインタラクティブミュージック(以下、めんどうくさいのでIMと略す)について、改めて事細やかに説明する気はありません。

IMそのものについては、岩本翔(じーくどらむす)氏がnoteに多く記事を執筆しています(業界で「IMの第一人者は誰か?」といえば多くの方がこの方を挙げると思います、たぶん)。
(※3/16追記:「『IMの第一人者』ではないです(エヴァンジェリストとでも呼んでいただければ)」 御本人より なのでエヴァンジェリストと呼びましょう!)

IMそのものについては、このマガジンを読めば大枠はわかると思います。

結構な分量があり、全部読もうとするとそこそこの時間がかかると思いうので、まず1記事読むとするとこの記事でしょうか。


つい最近では、ゲームメーカーズスクランブルにてIMの歴史を語る講演もあったようです。自分は残念ながらイベント自体に行っていないので講演内容の詳細は知りませんが……。

■個人開発者のIM実装の壁

さて本題に移ります。個人、あるいはそれに近しい規模のゲーム開発者が
自分のゲームにIMを取り入れようとするとき、どのような課題がそこに起こりうるでしょうか。

◆IMの導入は技術的に難しい?

技術的に難しいかと言えば、全然そんなことはないと個人的には思います。波形単位でプロシージャルに生成する、みたいなよっぽど変態的IMをやろうとしない限りは、基本的に「適切なタイミングで適切な音声を再生する」に処理は集約されるので、高度な専門技術が必要なわけではありません。

・音楽周りの最低限の理解
・ある程度のアルゴリズム構築力
・時間周りのある程度の計算力
・適切なデータのフォーマット化

このあたりができれば技術的には無理なく実装できます。……あれ、こう列挙すると意外と要求する知識が広いな……まあ一つ一つは決して難しくはない、はず。

◆IMの為の音楽はどうやって手に入れればいい?

おそらく個人開発者がIMを導入するにあたり、
立ちはだかる壁はこちらでしょう。

普通のゲームを作って普通にBGMを入れる、ならばインターネット上にBGMの素材サイトが有償無償問わず山ほどあるので、困ることは無い筈です。しかし、それらのサイトはほぼ全て一つの(あるいはループ対応程度の)BGM素材であり、そのままIMに導入することはできません。
(BGMに合わせてSEをクオンタイズ、に関しては可能ですが)

■個人開発者のIMリソース入手方法

ではそんなIM対応BGMを、個人ないしは小規模のインディーのチームが調達するにはどうしたらよいのでしょうか。いくつか方法は考えられます。

◆1.自分で曲も作る

もっとも確実な方法はこれでしょう。自分が全てやるので、そのゲームのIMの仕様も把握しているし、修正も簡単に行えます。事実、今のインディー規模のゲームでIMを採用しているゲームの多くはこれだと思います。

ただまあ、だからといって「IMやりたいなら曲作れるようになればいい」
はあまりに暴論なわけで……。

◆2.フリーの作曲者に発注する

自分で曲を作れる術を持たない、あるいは作れても品質面で見劣りする場合、フリーの作曲者に発注するのも現実的な手です。

ただし、その作曲者が必ずしもIM周りを十分に理解しているとは限りません。ひとくちにIMといってもゲームの仕様によりそのフォーマットは無数に変幻するわけで、単純なBGM発注とは異なり何度もフィードバックを行う可能性も高いでしょう。いわゆる「縦の遷移」は割とどうにでもなりますが、「横の遷移」が関わってくると作曲者側の負担も相応に増える印象です。

逆に、作曲者目線で見た時、このようなIMの手法を理解しそのようなオーダーに応じれる事は、十分なアピール要素になるとも言えます。

◆3.IMに対応した素材を起用する

さて、これが問題となるわけです。先程も書いた通り、既存のBGM素材サイトは基本的にIMにそのまま起用するのは難しいです。これに関して、次の項で詳しく書いていこうと思います。

◆4.〇〇〇を使う

とある裏技があります。これはこの記事の最後の方の補足で書きます。

■IMができる楽曲素材はありうるのか?

しかしゲーム開発者側からはIMはやはり一種の魅力があるようで、今年に入ってからIMの民主化に触れた記事が2つ出ています。ぶっちゃけると今回のこの記事の主題はこの部分(IMデータの民主化の可能性)であり、また、この記事自体も以下に挙げる2つの記事に触発して書いたものとなります。

◆記事1

ひとつめは、taro氏による、既存の音楽素材サイトに対して音楽存在のIM化に関して働きかけ、そして(結果として)芳しい反響は得られなかったという趣旨の記事です。

該当記事内でも当人が十分に言及されていますが、「IM対応楽曲素材が欲しい、対応してほしい!」というのはゲーム開発者側側の都合(要望)でしかなく、作曲側からすれば何の益もない無償労働に他ならないので芳しい反響を得られないのもむべなるかな、といった所でしょう……。

◆記事2

そしてもうひとつ、IMの民主化について言及した記事(とツイート)があります。こちらはフォーマット化についても言及しています。

(3/16)追記 御本人より、ADAの構想は楽曲の構成や意味合いを文書(おそらくjson)の形で記録する事であり、IMの実現そのものではないとの指摘をいただきました。なのでこの項の内容は企画者の意を正確に汲んだものではなくなりました。ただ当記事の趣旨(流れ)には必要な文章なので、文章自体は残します。参考程度に読んでください。

https://twitter.com/C_plire/status/1618579630721581058

技術的な部分に関しては十分実現可能の範疇だとは思いますが、しかしやはり1つ目のnoteにもあったように、企画に作曲者側に"やりたい!"と思わせる求心力がない限りは、芳しい結果は得られなさそう、というのが個人的な感想ですね……。

↑のツイートの画像ではこのフォーマットを採用する事による各ポジションに対してのメリットについても言及されていますが、それも作曲者サイドの説明が苦しい印象は否めません。……いやだって、どう考えてもタグ付けの手間よりIM用の楽曲データを作る手間の方が大きいだろう……。

厳しい見方ですが、この企画書を見て「面白そう! そういう形式での楽曲素材を作ってみます!!」となる作曲者はまず現れない気がします。


◆では他にやり方はあるのか(提案)

ある。

結論から書きますと、最初は「有料のIM型音楽素材集」を作りそれを販売する、というのが現実的な落としどころだと思っています。ゲーム制作者側からしてはIMは魅力があるものなので、それを(楽曲付きで)導入できるセットはそれなりに需要があるでしょう。

楽曲制作者も、有償依頼としてなら問題なく引き受けてくれる人はいると思います。あるいはレベニューシェア。そもそも↑の記事のお二方はどちらも作曲もできる方なので、自前で作れることも可能でしょうし。

ある程度素材集がまとまった形になり、それとともにIMの一般化フォーマットが広まれば、いずれは自主的にそのフォーマットに沿った楽曲リソースを作る人が現れるかも……というのは希望的観測ですが、いきなり無償のIM対応素材の普及を目指すよりは、まず有償素材集としてのアーカイブを販売し、そこを基点としてフォーマットの普及を目指した方が堅実かなと。

■ひとまずまとめ

・IMは技術的にはそこまで難しくない
・どちらかといえばIM用のBGMを如何にして手に入れるのが課題
・作曲者の無償奉仕に期待するのは厳しい
・有料素材集とか作ってみるのが良いんじゃね?

以下は自分がIM周りで思ってたりやってたりするアレコレです。

■補足するアレコレ

以下はメインの記事には入らなかった補足的なアレコレとなります。

■補足1:IMは銀の弾丸なのか?(否)

ここまで再三IMの民主化について書き散らして置いてアレですが、そもそもIMが銀の弾丸であるか、て聞かれると全然そうじゃないんですよね。最近の任天堂の作品でもIMがよく導入されていたりしますが、あれってゲームの体験性を向上させる手段であり、IMそのものが目的ではない。まあよく考えれば当たり前の話なんですけど。

まあつまるところ、IMを導入したい場合って、IMを手段として用いることで何がしたいのかという目的をしっかり明瞭化したうえでやらないと、あまり意味がないんですよね。少なくとも、導入するだけでゲームのクオリティが上がる、みたいな銀の弾丸ではないです。「このゲームはIMを取り入れてるんですよ!」て喧伝してもユーザからしたら「それで?」てなる話です。最悪物理演算を使用したこと自体を喧伝した聖剣伝説4……この話はこのへんにしておこう。

ちなみに私自身に関しては、どちらかといえば任天堂がやってるような体験性主導ではなく、Rezを代表的とする水口さんがプロデュースするタイプの「音と光が炸裂して超気持ちいいいいいいイイイイイィィィィ」ていう
ゲームが好きな輩でして、その手の作品には大抵食いつきます。

ここまで書いて気づいたけど、この2つのタイプのゲーム、あくまで手段としてIMの技術が導入されているって部分が共通しているだけで、目的としている部分が大分別物なので、IMっていう一括りで扱わない方がいい気もしてきました。IMのジャンル細分化が必要なのか!?!?

◆補足2:そもそもIMってフォーマット化できるのか?

△だと思います。

IMとは、メインの文章でも書いたように、本質的には対話的であり、つまり、ゲームの仕様によって音楽側の仕様も変わる、変幻的なものです。なので、「あらゆるIMの可能性を網羅したフォーマットを作れるか」というと、それは間違いなく×です。

ただし、IMの代表的手法である「縦の遷移」「横の遷移」、そして「効果音の同期再生(クオンタイズ)」……これらの手法に関してはおおよその運用法が決まっている為、これらの用法に限定すれば規格の一般化は十分可能だと考えられます。

この記事の冒頭でも取り上げた、じーくどらむす氏によるunityでIMを実現するためのオーディオエンジンです。自分も軽く触ってみましたが、これら代表的手法は概ねカバーしている感触です。

◆補足3:自分的なIM用パーツ構成

 自分もIMを組み込んだゲームを作っているのですが、横の遷移を採用する場合に、1つのセクションをこのような形で構成しています、という例。

◆パターンA:Y字構築

1つのセクションをfirst phrase/second phraseに、second phraseがchange phraseに分岐するパターンです。

スプシ製

通常はfirst phraseとsecond phraseを繰り返します。first phraseからsecond phraseに移行するタイミングで「次のセクションに移行するか」の判定を行い、移行する場合はsecond phraseの代わりにchange phraseを再生し、次のセクションに移行する、という処理を取ります。

change phraseに「次のセクションにスムーズに移行するフレーズ」を埋め込むことで、自然な横の遷移を行えます。

尚、first phrase又は、second+change phraseを省略することも可能です。

◆パターンB:並列構築

1つのセクションの中に、任意数のphraseをつなぐ構成です。

こっちも

こちらはシンプルで、phraseのつなぎ目に毎回「次のセクションに移行するか」の判定を行い、行う場合はすぐに次のセクションに移行します。

長いメロディフレーズを伴うセクションの時に有効です。といっても大体は「8小節ループで、4小節のタイミングでも移行できる」くらいの区切りになると思います。その場合も4小節のタイミングで次のセクションに移行しても音楽的に不自然にならないようにする事は意識する必要があります。

◆パターンC:つなぎ

これは構成というよりは補助ですが、「無条件で次のセクションに移行する」というセクションを設けることで、2つのループするセクションの移行を無理なくできるケースがあります。

横の遷移における1つのセクションをこの3つのパターンを組み合わせて構成する事で、だいたいの音楽的可能性をカバーできる感触です。

ちなみにやろうと思えばこの横の遷移の中に縦の遷移に機能を組み込み、2つの遷移を同時に行うことも可能……だと思いますが、自作ライブラリでは実装していません。これも個人的な感触ですが、「横の遷移と縦の遷移が同時に行われる」ケースは結構珍しいと思います。まあそりゃまともにやろうとすると音声ファイルのパターンが組み合わせで膨れ上がるし……

◆補足4:4.BMSというものがある

メインで「IM用の楽曲データを用意する時に考えられる3つの方法」を
説明しました。実は隠された第四の選択肢があります。


なんと、インターネット上のとある界隈には、
「楽曲を構成する音がバラバラになって収録されているフォーマット」
がいっぱい作られているのです。


そう、BMS(Be Music Script)です。 

詳細は↑の記事に書いてありますが、一言で言えば
beatmania(現行機種はIIDX)のクローンゲーム です。

クローンゲームって事は権利的にまずいものなのかと知らない人は思うかもしれませんが、まあ実際法的には黒だったりしますが、音ゲー業界全体の様々な実情を踏まえると黒と断じることができない複雑な内部事情があります。まあ今回はあくまでIMの記事なのでそれを掘り下げはしませんが。

話を戻します。BMSとIMがどのようにつながるかですね。まずはBMSというアーカイブの構造を説明するところからでしょうか。BMSは1つのフォルダーで構成されています。内部はこんな感じです。

だいたいのBMSはもっと大量のファイルがあります

.bmsファイルにこの大量のwavを一つの音ゲーとして構成するデータが記述されています。

BMSを編集するツールはいくつかあります。
BMSEというツールで覗くとこんな感じです。
※BMSEはちょっと古い。今はiBMSCが主流かな?

キー音を実現するため、ひとつひとつのwavファイルを配置します

これ、IMとして再構成するのにものすごく都合がよいという事が
ここまで記事を読んだ方ならうっすらわかるのではないかと思います。

自分はかつてBMSとBMS界隈にどっぷり漬かっていた人間であり、故にBMSフォーマットに関しても熟知しているので、それをIMのフォーマットに加工するのは容易いことです。加えて個人的に親交が深いBMS作家が何人かいることと(何人かのBMS作者から「フリーゲームなら自分の曲使っていいよ」という確約まで取っている)、そしてかつてのBMS界隈での功績を盾にすることで、治外法権の如く、unity1weekの作品にBMS楽曲をIM化したものを採用しまくっています(無法者)。

(まあ殆どのBMS作者は「使っていいですか?」と聞けば(非商用なら)
95%良いですよっていってくれると思います そういう文化の界隈です)

このBMSを

IMにしてゲームに起用した例(自分の10年以上前のゲーム)

https://www.youtube.com/watch?v=kAQJsmjN6PY

直近のunity1weekのIMを導入した拙作ゲーム ※以上自作宣伝タイムでした

……まあ、その、IMを導入してみたい! と考えるゲーム開発者がいるなら、BMS界隈を覗いてみて損はないんじゃないかと……思いますね。

■おわりに

IMの民主化についてつらつらと語りました。
IMはできると とっても たのしいですよ(小並感)

あと、インタラクティブミュージックの通りの良い略称ってないの????

◆定型句

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