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参加型メディアの新しい構造

『イコール』編集長日記

淵上・『イコール』は参加型メディアなんですか?

橘川・そうだよ。ただし、『ポンプ』とは違うんだ。70年代に『ポンプ』を創刊して、毎日何十何百の原稿が送られてきた。『ポンプ』というはメディアの広場をイメージして創刊したので、遊びたい人が遊べる場所であればよいと思った。それまでの編集というのは、出版社の思想とか思惑で掲載される原稿が決まっていたけど、なるべく多様な意見や感覚で時代を表したかったので、原稿の分量は一律にした。

淵上・えこひいきしないかったわけですね。

橘川・まあ、出版の倫理規定に反するものは排除したが、基本的な態度は『ぴあ』みたいな情報誌の方法だな。私も人間なので、自分の感覚のバイアスが入ってしまうが、なるべく多様な原稿を平等に掲載するようにした。ほんとは、1頁でも2頁でも頁を渡したい原稿があっても、他と同じように扱った。えこひいきしたいような投稿があった場合は、個別に手紙書いて文通したりしていた。

淵上・編集長と読者が文通してたんですか(笑)

橘川・3年編集長やって、300人ぐらいの人たちとやってたな。ノートを郵送で回送させて、駒沢通信という、今のメーリングリストみたいなこともやっていた。マンガ家になった岡崎京子もそのメンバーだった。

淵上・まさにP2Pの通信メディアをやっていたんですね。

橘川・ある時、問題が起きた。自分から見てすごく良質な原稿だと思ったが、原稿用紙の束で長いものだった。私は、その文章の一番良いと思った部分をカットして『ポンプ』に掲載したのだが、投稿者が怒ってしまった。「載せるなら全部載せろ、載せないなら全部載せるな」と。もっともだと思った。それ以来『ポンプ』の投稿は、あきらかな誤字以外は基本、送られてきたままで掲載した。

淵上・今のインターネットの書き込みと同じですね。

橘川・そー、ノー編集。整理だけ。

淵上・それが今回の『イコール』は編集を入れている。

橘川・『ポンプ』の考え方や方式はインターネットが吸収していると思う。その部分はインターネットに任せて、私は『ポンプ』の第二段階に進みたい。

淵上・インターネットの体験を通過してからの新しい参加型雑誌なんですね。

橘川・そうだね。まず、何かを書きたい衝動のある人はインターネットで書いてくれ。ここはある意味、自主トレーニングの場だ。文章というのは、はっきり言ってたくさん書かないと成熟しない。もちろん10代で凄い文章を書く天才もいるけど、それは限られた人たち。私たちは、たくさん文章を書く必要がある。

淵上・そういう意味では、現代ほど、文章書く時代はないですよね。

橘川・昔は、社会に出た普通の人は、稟議書とか年賀状ぐらいしか文章書かなかったよ。今ではメールでもラインでも、書くことが日常になっているよね。文章において、基礎的環境は出来ているのだから、あとは、その中からステップアップした才能が登場してきてもおかしくない。若い世代は本なんか読まないよ、という声があるけど、私は、本格的に言葉の時代がやってくるような気がする。

淵上・言葉の時代が来るにはどうしたらよいですかね。

橘川・これは個人的な体験だが、私の場合は20代の時に『ロッキング・オン』という自分のメディアがあったことが良かったと思っている。今もNoteなどで好きなことを書けるが、やはり他人の部屋の感じなんだよね。自分で発行しているメディアがあって、そこにコーナーがあって自由に書ける体験が貴重だった。それは、雑誌からの依頼原稿とは全然違う。そういう雑誌をみんなが持てばよいのだと思う。

淵上・なるほど『イコール』はそういう場なんですか。

橘川・『イコール』は新しい文章学校だと思っている。『ポンプ』やインターネットと違うのは、書きたいことを書く場所ではなく、伝えたいことを伝える場所にしたい。そのためには、書いた原稿を公開する前に周囲に読んでもらい感想を語りあって、そうしたプロセスを経て原稿化したものを掲載していく。あるいは、テーマ単位で4人ぐらいでチームを組んで、取材したり調査したりして原稿にしていく。編集バンドといってるが、そうしたプロセスを経て公開していく文章にしたい。

淵上・『ポンプ』の場合は書いた原稿やイラストを投稿すればよかったけど、『イコール』では学校に入らなければいけないわけですね。

橘川・そうです。イコールは、コミュニティ参加型マガジンです。これまで「リアルテキスト塾」「深呼吸学部」という私塾をやってきたけど、2024年からは「イコール編集塾」としてスタートしようと思う。参加費は毎月1000円。

淵上・安いですね。

橘川・コミュニティビジネスをやるわけではないので、高額の参加費を取るつもりはない。1000円とタダとでは、参加意識が変わるので、1000円払った人が、イコール編集のコミュニティに参加してもらう。

詳しくはこちらね。

淵上・「イコール編集塾」のカリキュラムはどうなっていますか。

橘川・最初は、橘川の体験的なメディアの知識とか経験を教えながら、文章の訓練をしてもらう。その上で、編集バンドに参加してもらい、取材や調査を実施していく。ある程度、基礎体力がついたら、希望すれば以下のコースを選択してもらい、『イコール』の編集チームに参加してもらう。

1.編集者コース
企画・原稿依頼・進行・校正など。

2.著者コース
調査・取材・執筆など。

3.デサイン・DTPオペレーターコース
デザイン・レイアウト・サイト制作・DTP作業など。

4.販売者コース
販売流通管理・書店棚管理・イベント販売・宣伝など。

淵上・僕も、新しい塾生たちと編集バンドを組むのが楽しみです。

橘川・周平は「リアルテキスト塾」「深呼吸学部」と知ってるわけだけど、今度のは凄いよ(笑)。例えば、深呼吸学部というのはコロナ・バンデミックの閉塞状況でスタートして、Zoomの威力を最大限活用した私塾だった。ただ、参加してきた人は、関係者の友人だったりとリンクでつながっている人たちばかりだったが、『イコール』は書店などで出会う、純粋の個人なので、まったく脈略のない人たちが参加してくることになる。このダイナミズムが紙の雑誌の醍醐味(笑)。『ロッキング・オン』はロックファンというフィルターがあったが、それでも普通に生きていれば絶対に出会うことのない人たちと日本中で友だちになれた。

淵上・楽しみです。

橘川・面倒くさいが楽しいぞ(笑)


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