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『イコール』創刊の報告


 私は中学生の時にビートルズに出会い、高校一年生の時に来日した時、武道館に行きました。とはいえ、当時はライブやコンサートに行く若者はほとんどいなかったので、チケットの取り方も分からず、とにかく武道館に行って、門のところでガードマンに排除されました。

 それまでのクラッシックやJAZZは、天才的アーティストが個体の肉体能力をフルに使って演奏技術を磨き上げるのに対して、ロックはエレクトロニクスの力を借りて表現を増幅し、オーディオや通信機器の発達に合わせて世界中に広がった。

 産業革命以後に発生した「余暇=暇」の中で生まれた近代的自我によって誕生した様々な近代アートや新しい人間関係の深化が、エレキギターとアンプが象徴するテクノロジーと融合して、次の次元の世界へ突入したのだと思う。その音楽は新しい時代の号砲となり、グローバルな世界観を若い世代に焼き付けた。

 レコード、CD、インターネットと、テクロジーと融合した音楽は世界に広がった。そういう新しい時代の号砲と一緒に走る仲間(ロックファン)たちと一緒に1972年「ロッキング・オン」を創刊した。

 その時代の渦の中で私はさまざまな思考をしてきた。私は近代に生まれ、近代に育ち、ずっぼりと近代人であるが、その近代の先に何かがあることを感じていた。近代テクノロジーの推進は私たちに理想的な世界をもたらすかもしれないし、絶望的な管理社会を生み出すかも知れない。多くの先達たちが感じた希望と不安を私も持った。林雄二郎が「情報化社会の光と闇」と語ったことだ。

 ロッキング・オンを発行するために写植を覚え、写植というある限られた文字フォントだけで文章を組みたてることと、原稿用紙に鉛筆で文章を書くことの違いに気づき、近代テクノロジーに行くつく先にあるコンピュータ社会は、既存の情報の組み合わせの社会になるだろうと感じた。

 そして、その組み合わせの圧力をすり抜けて、若い新しい世代は、上手にオリジナルな新しい文化を作り続けるだろうということを1984年に「メディアが何をしたか?」で書いた。

 私は、近代の都市が故郷であり、近代の文化が育ての親たちである。未来を感じるためには、子は親を超えていかなければならない。

 近代が産み育てた近代的自我、それが私の本体である。そしてこの本体が成長すればするほど、全体からは孤立し、疎外されていく。個体として頑張れば頑張るほど、寂しくなっていく。その痛みをロックは叫んだ。

 ロックとともに現れてきたのがコンピュータである。ChatGPTをなぜ多くの人が「新しい」と感じるのだろうか。それは、コンピュータの誕生、そして、コンピュータの結合によって生まれたインターネットを母体として生まれた、新しい生命体であるからだ。

 近代は近代的自我を誕生させ、近代的自我がさまざまな技術を開発しコンピュータに結実した。そのコンピュータがつながり、共同性を持ちはじめ、その中で、新しい「思考する機械」が生まれた。個人と対応するパーソナル・コンピュータではなく、集合知としてパブリック・コンピュータがChatGPTなのである。

 私たちは、自分たちの生活動によって発見したこと、知覚したこと、思考したことなどを、このパブリック・コンピュータに入力する。そして、そこで生まれる新しい思考は、近代的自我の次に人類が獲得した「超近代的自我」になるのであろう。そのことを多くの人たちが潜在的に感じているからこそ、ChatGPTを使わない人たちでも、関心を持たざるを得ないのだと思う。いよいよ近代的自我を超えるシーンに入ってきたのだ。

 私は、ChatGPTそのものにはあまり関心はない。それは得意な人たちに任せたい。むしろ人類全体を考えた時に、ChatGPTそのものの構造よりも、そこに情報を集めていくことの重要性を感じる。

 図書館がいくら資金を投入して巨大化したりデータベース管理化しても、新刊が出てこなければ、やがて、時代に取り残される。

 ということで『イコール』を創刊します。
 創刊0号は、本日が締め切りです。クラファン支援者には、あとになりますが、橘川の『イコール』に対する思いと構想を語った冊子を提供します。

 なお『イコール』では、ロッキング・オンの仲間であり、私が一番大事な時期に、文体でも思考でも、もっとも影響を受けた岩谷宏の連載を開始します。彼が1975年に書いた「関係性の視坐」という原稿はいまでも輝きを持っていると思います。

『イコール』サイト

『イコール』クラファン

追伸1
私がなぜクラファンにこだわるかというと、Amazonでの購入者は数字でしかありませんが、クラファンの支援者は固有名詞であり、そのあとも連絡がとれるからです。

追伸2
なお、第二次深呼吸学部は「講義」と「編集会議」で構成しますが、本日書いた原稿の講義は、第一回目の講義(1月14日)で、背景の考え方を含めて講義します。塾生の皆さんはなるべく参加してください。

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