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リバイバル&フュージョンするアフリカ音楽(ナイジェリアン・アフロポップ The Cavemen. Lady Donli Tay Iwar)

アフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキです。
皆さん、GWはいかがお過ごしでしょうか?Stay Homeな連休になってる方も多くいらっしゃるかと思いますが、こんな時こそ普段はなかなか観られない映画やドラマ、または普段聴かない音楽にアンテナを張るのはいかがでしょう?思いがけない発見があるかも知れませんね。
そこで久々のnote更新となる今回は、リバイバル&フュージョンでますます面白くなってきたナイジェリア音楽の中でも特にエッジーな3組をご紹介致します!

The Cavemen.

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20世紀初頭、「ハイライフ」と呼ばれる新しい音楽がガーナやシエラレオネなどの西アフリカで誕生しました。そして20世紀半ばには西アフリカだけでなくコンゴなど中央アフリカへも伝播して一世を風靡し、現在のアフリカ音楽/アフロポップに大きな影響を与えている音楽のひとつです。
「ハイライフ」と一言に言っても実はいくつかのジャンル分けと成り立ちがあって、そこには「パームワインミュージック」なども関わってくるんですが、この辺りについてはDuryさんの記事の中に詳しい紹介がありました。私が説明するよりもずっと分かりやすくそして丁寧に解説されていらっしゃいましたので、その記事を引用させて頂きます。Duryさん、ありがとうございます!

そんな歴史を踏まえた上でご紹介する「The Cavemen.」は新世代のナイジェリアンハイライフバンドです。2020年代の新しいハイライフは現代ジャズやネオソウル的な要素も取り入れたモダンでクールなサウンドと古き良きアフリカングルーヴを絶妙なバランスで調和させ、私達に新たな刺激を与えてくれます。

2018年に結成された「The Cavemen.」のメンバーであるKingsleyBenjamin Okorieは実の兄弟で、兄のKingsleyがベースとキーボード、弟のBenjamin Okorieがドラムを担当。そして兄弟両方がヴォーカルをとります。またライブの際はキーボードとギターをサポートメンバーが担っています。

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2019年に「Tied EP」をはじめとするいくつかのシングルをリリースしたのち、2020年夏に1stアルバム「ROOTS」をリリース。この「ROOTS」が多くの称賛を集め、2021年2月に開催された第14回Headies 2020(ナイジェリアの音楽賞)にノミネート。当日は会場でライブパフォーマンスも行い、見事「Best Alternative Album」を受賞しています。

デビューしたばかりでまだまだ動画コンテンツが少ない彼らですが、まずはアルバム「ROOTS」から3曲をピックアップしてみました。個人的な好みですが「OSUNDU」「ME YOU I」のメロウさが大好きですね。
そして彼らの最新シングルで2020年12月にリリースされた「Who No Know Go Know」は、ナイジェリアの特殊警察SARSの非人道的行為に反対する運動「 #EndSARS 」で国中が揺れ動いていた真っ只中に制作された曲で、やはりアーティストとしてこの事件から多大な影響を受けたことを「DJBOOTH」のインタビュー記事で語っています。


西アフリカの上流階級者たちが集まるダンスホールで演奏された音楽がその語源となっている「ハイライフ」。その後の西アフリカでは新しいジャンルの音楽が次々と生まれ、現在ではWizkid達を代表とする「Afrobeats」が全盛を迎えて「ハイライフ」は後部座席へと追いやられてしまいました。
しかし、自身の音楽を「ハイライフ・フュージョン」と呼び、アンダートーンのノスタルジーとモダンさを兼ね備えて登場した新世代バンド「The Cavemen.」は、「ハイライフ」に対する再評価の機会を与えると共に更なる進化を見せてくれる存在なのかも知れませんね。

そして、私が彼らのことを知るきっかけになったのが続いてご紹介する「Lady Donli」です。


Lady Donli

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彼女はいわゆる「Alté(オルテ)」と呼ばれるナイジェリアの若手アーティスト達による新しいシーンで最も注目されている1人で、その他にもCruel SantinoOdunsiらが「Alté」の代表格です。SantiOdunsiについては以前の記事で取り上げていますので詳しくはぜひチェックしてみてください。

また、尊敬するアフリカ音楽ライターの吉本秀純さんが2020年7月にTBSラジオ『荻上チキ・Session-22』に出演された際の内容を書き起こした「かきおこしラボ」さんのサイトでも、この「Alté」とLady Donliのバイオグラフィーついて触れていらっしゃいますので、ぜひそちらもお読み頂けるとより詳しくご理解頂けるかと思います。

例えばBurna Boyが「Afro Fusion」、Kojo Fundsが「Afroswing」、Afro Bが「Afrowave」など、それぞれのアーティストが自身の音楽性を他と差別化する上で独自のタグ付けをするのとのは違い、「Alté」の場合は彼らが属するコミュニティもしくはコレクティブ、そしてそこで共有するマインドやクリエィションのことをそう呼んでいます。ちなみに「Alté」はオルタナティブのことですね。

Lady Donliが2019年にリリースした1stフルアルバム「Enjoy Your Life」は、非常に斬新でユニークな印象を受けたことを覚えています。自身のバックグラウンド(教会音楽、アフリカ音楽、Angélique Kidjo、Erykah Baduなど)に対するリスペクトと、現在のAfrobeatsのフォーマットに縛られない自由さが混じり合い、ある意味で「アフロ〇〇」という括りすら不要な独自性を持つ洗練されたポップスとして完成しているところが興味深く感じられました。

この「Cash」のPVでベースを弾いてる「KNOTE」とドラムの「Benjamin」が、前述の「The Cavemen.」の2人ですね。
アルバム9曲目の「Corner」でVanJessと共にThe Cavemen.というクレジットを見たのが最初で、その時はむしろ「わっ、VanJessが参加してる!」のほうがインパクトとして大きかったです。VanJessというのはナイジェリア生まれLA育ちの姉妹デュオで、アメリカで今もっとも注目すべきR&Bアーティストのうちの1組だと思ってます。ちなみに姉のIvanaと妹Jessicaを名前をドッキングさせてVanJessです。彼女たちについては次回の記事で取り上げたいと思ってます。
Alté系としては珍しく生音でオーガニックだなと思い調べてみたら、「The Cavemen.Lady Donliのアルバムのうち10曲をプロデュースした」いう記述があったので、彼らにも興味を持つようになったわけです。


アブジャで育った後に中学から大学までロンドンで学び、今もナイジェリアとUKを行き来する彼女は自由にジャンルホッピングしながら音楽を探求する旅を続けています。今回のアルバムコンセプトのソースとしてOby Onyiohaの「Enjoy Your Life」やSahara All Stars Band Josの「Enjoy Yourself」、そしてフェラ・クティがアーティストとしての自分に与えた影響についてFADERのインタビューで詳しく語っているのですが、

そのインタビューの中で特に興味深かったのは、

「周りはみんなお金の話をよくするけど私は嫌い。なぜならもし自分が誰かに影響を与えていなかったら、もし自分のコミュニティや周りの人々や仲間のアフリカ人を助けることをしていなかったら、自分は社会の役に立っていない。いくらお金を稼いだって私の遺産は私にとっては全く無意味で、次世代の人々が私の音楽を聴いて、それが一体どこから来たのか、そして私たちが何を経験しているのかを理解できるような、そんな永続的なインパクトを与えることに価値があると思っているし、それが私の信念です。」

というコメントでした。彼女は前の世代から自身が受けとった音楽という恩恵を次の世代へと繋ぎながら、周囲の仲間や社会をエンパワーし変化を起こしていくことをミッションとして捉えていることが伝わってきますし、自身のそうしたありのままの生き方がすでに「Enjoy Your Life」というメッセージ性を備えているように感じました。


Tay Iwar

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今回3人目に取り上げるのはTay Iwar(ティ・イヴァル)です。
Tay Iwarといえば昨年リリースされたWizkidの最新作「Made in Lagos」の収録曲「True Love」でフィーチャーされ話題となりました。

また、前述のLady Donliとも共演しています。Sound CloudとAmazon Musicのみでの配信のようですが「Candy」という曲がリリースされています。

1997年生まれのTay Iwarはラゴス生まれのアブジャ育ちで、最初10歳で弁護士を目指すことを決める(凄い)もその後音楽の才能があることに気づき、13歳でギターを弾き始め15~16歳ぐらいからFruity Roop(現FL Studio アフリカのアーティスト定番の音楽制作ソフト)を使い作曲を開始。と同時に高校生のうちにレコーディング技術なども学んだそうです。幼い当時は両親からクラシック音楽学校への進学を進められるもそれを拒否し、 その後はジャズ、ソウル、ブルース、レゲエ、ヒップホップと様々な音楽を吸収していきます。
2014年に最初のアルバム「Passport」、2016年に「Renascentia」をリリース(おそらく当時はSound Cloud等での個人リリースと思われます)し、一部の早耳な層の間で話題になったようです。そして彼の最初の転機は2017年、ナイジェリアとフランスで活躍していたAsa(アシャ)のナイジェリアでのライブツアーでオープニングアクトに抜擢されたことでした。


そして2019年にはLAを拠点とするインディーレーベル「Soulection」から「GEMINI」をグローバルリリースすることになります。

前述のCruel SantinoOdunsi、そして実兄でラッパー/シンガーのSuté Iwarをフィーチャーしたこの3曲をはじめ、Tay Iwarの才能とセンスが余すことなくあらわれたアーバンポップかつR&B/ネオソウルの濃密さを感じる最強アルバムだと思います。

そしてこの「GEMINI」よりもAfrobeatsサウンドに寄った仕上がりになってるのが、ニューカマーのトラックメイカーLe Mavとの共同プロジェクトとなるEP「GOLD」で、これもまたエッジの効いたトラックとTay Iwarのヴォーカルワークが冴える進化系Afrobeatsと言えますね。

ちなみにこのLe Mavですが、今年2021年3月にリリースされたケニアのR&BシンガーKarunの新曲「I Know」でプロデュースに携わっていますね。


そしてそして、2021年4月にリリースされたTay Iwarの最新EP「Love & Isolation」では同じくケニア系R&BシンガーのXenia Manassehがゲストボーカルで参加。

KarunXenia Manassehについては、以前のケニア音楽特集記事で詳しく触れていますので、ご興味あれば是非こちらもお読みください。


というわけで今回は「リバイバル&フュージョン」というテーマで3組のナイジェリアンアーティストを紹介しました。売れ線のアフロポップがナイジェリアエンタメシーンの中心であるのは間違いない中で、カウンター側でエッジの効いた音を鳴らす彼らのことをより分かりやすくお伝えするため、語弊を恐れず90年代の日本の音楽シーンに例えるのであれば、
The Cavemen. → キリンジ
Lady Donli → UA
Tay Iwar → 小山田圭吾(コーネリアス)
のような感じではないかと思ってます。ちなみに今回紹介していないAmaaraeという女性シンガーが「Alté」のメンバーにいるんですが、彼女を例えるならCHARAですね。非常に特徴的な声の持ち主です。


また今回紹介したアーティストは下記の配信サービスでもお聴き頂けます。

The Cavemen.  Spotify  Apple Music  Youtube Music
Lady Donli  Spotify  Apple Music  Youtube Music
Tay Iwar  Spotify  Apple Music  Youtube Music


今回も最後までお読み頂きありがとうございました!金属製蝶ネクタイ「Metal Butterfly」プロデューサーのアオキシゲユキでした。

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【今回参考にした記事はこちら】
https://nataal.com/the-cavemen
https://www.pulse.ng/entertainment/music/the-cavemen-tells-pulse-about-roots-freeme-music-fela-oliver-de-coq-religion-and-more/0npks1z
https://www.okayafrica.com/lady-donli-new-song-cash-alte-nigerian-music-video/
https://www.thefader.com/2019/10/31/lady-donli-enjoy-your-life-interview
https://dnbstories.com/2020/11/full-biography-of-nigerian-singer-tay-iwar.html
https://www.okayafrica.com/tay-iwar-nigeria-gemini-interview/

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