【小説】あなたが今立っている場所

訊かれたから答えるんですけどね、
あらかじめ言っておくと、これは作り話、フィクションですよ。

私がここでじっと立ったまま数十分何をやっているかって?
私が立っている所、つまりあなたが今立っている場所はね、少し前までは湿地だったんですよ。この辺は水が溜まりやすい場所で、一年中池みたいに水が溜まっていて、がまの穂やら、背の高い草が生えていてね。
ここらへん、空き地だったんですが、宅地が整備されて新しい家がポツポツ建つようになって、小さい子供がいる家族が引っ越してくるようになったんですよ。
ああ、あなたも最近引っ越してきたクチですか、そうですか。
この場所もね、そういう感じで宅地用に整備されたんでしょうね。

でね、まだ湿地だった時に近所の子供が水溜まりに入って泥遊びをしていたらしいんですよ。遊んでいるうちに足を泥に取られたのか、転んで水の中に頭をつっこんじゃってね、そのまま溺れて亡くなったらしいんですよ。
人づてに聞いた話なんですけどね。
まあ、そんなことがあった場所なんで、通りがかった時に立ち止まってお祈りをしてると、そういうわけでして。

ここに建つ家に住む人は、そんなこと知らないで生活するんでしょうね。
そしてそのうち、家の中に幼い子供の気配がするって、訝しむかもしれないですね。

私がここに立ち止まっているわけが、わかってもらえましたか。
そんなに深刻そうな顔しなくてもいいですよ。
最初に言った通り、これは作り話ですから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?