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新婚旅行で別行動した話〜サントリーニとドブロブニクへ新婚旅行日記3〜

※2014年6月の新婚旅行を懐かしんで公開してます

朝ごはんを前に少し散歩をする。中心街であるフィラの町まで行ってみようと思い立った。
道路をてくてく歩いて行くと、バギーと言えばいいのか、四輪のバイクのような乗り物に乗っている人たちが目立った。
おそらく旅行者だろうな。国際免許取っておけばよかったかなあと少し思った。


道路沿いにパン屋があった。24hoursと書かれているところをみると24時間営業だろうか。お客さん来るのかなあ。
そこでアイスが1ユーロで売られていたので妻が買う。
包装されていないむき出しの棒アイスだった。
祭り屋台のカットパイナップルとか、冷やしきゅうりのような。

朝ごはんはバイキング形式で、テラスで食べることが出来る。
オーナーらしき背の高い白髪交じりの男性がジョージだというので名前を言うと、「おお、アンタか、メールしたな。俺だ」と言った。
こういった小さな宿では、この「おお、アンタか」があるから嬉しいよね。

4. 妻を見送る

白のベンツが、妻を乗せてった。
ベンツ、というとどうもセダンタイプばっかり頭に浮かぶが、
妻が乗ったのはステップワゴンのようなワゴン車である。

さて、午後三時まで暇である。
そもそも、サントリーニは妻が希望した目的地。妻が長年恋焦がれてきた島である。
俺は、妻が旅行を楽しむために必要な下調べをしてきた。島における観光地や繁華街、お土産や名物、交通機関、その他気を付けるべきこと。
暇になって気付いた。まったくもって、俺は俺のための下調べをしてこなかった。
自分が興味あるような遺跡、自然、音楽、食べものなど。

ぽっと自由にされてもどう楽しんでいいかわからん。
とりあえず適当に歩いてみるか、知らない街を歩くのは好きだし。

改めて町を見ると、建物の壁は見事に真っ白である。
その真っ白は、かつては建材の都合上白くなってしまうだとか、敵に見つからないように島の地質の色と同じにしたとか色々あったようだが、
近年においてはみんな白にしようぜという根性とたゆまぬ努力の結晶である。
ペンキ屋は町のど真ん中にあり、塗装作業をしている人をそこかしこに見る。


ピンクのビルとか建てようとしたら条例ではじかれるのだろうか。
建築申請が通らないのだろうか。
審査会にかけられて白くしろとか言われるんだろか。
白だと困る建物って何だろう。
日本って色が決まってる建物ってあったっけ。
強いて言えば食べ物屋だろうか。白いステーキハウスとかあまり食欲をそそられない。
白いお化け屋敷。壁から内装からお化けから真っ白。マリリン・マンソンとミスフィッツ出てきそう。気が狂いそうな空間だな。

まずはケーブルカーの駅まで行ってみる。なるほど、ここにトイレがあるのだな。無料かな、うん無料だな。
メインのショッピング街をうろうろすると、マンドリンを売っている店を見つけた。
ギリシャの音楽ってマンドリン盛んなんだろうか。

ツアー客でごった返している広場までついたので、少し引き返して路地のカフェへ。
グリークコーヒーを頼んでみる。2ユーロ。


甘くするか?ミルクは?と聞かれたので、ブラックでOKだ、と言ったらカフェのおばちゃんに怪訝な顔をされた。


何でそんな表情したんだろうと不思議に思いながら、出されたものを飲んだら俺が怪訝な顔になった。なんだこれ。
タンポポコーヒーとか、大豆コーヒーとか、そういった類のものが凝縮した味。
エスプレッソとはまた違う、ざらざらした感じ。
あとで調べたら極細挽きの豆を使っていて、そのままお湯を注いで作っているので上澄みだけを飲むようだ。
トルココーヒーのようなものか。そしてブラックで飲むやつはほとんどいないとのこと。
カフェそのものの大きさは本当に四畳半ぐらいで、外のベンチで適当に飲むスタイルらしい。

バス乗り場まで行って、今日の宿があるイア行きのバスを調べてみる。
ふむふむふむ、あれか。あれに乗ればいいのだな、どういうチケットシステムなのだろう。売店で聞いてみるとバスの中で払うとのことなので、
まあ、暇だし別のバスに乗ってみっかとペリッサビーチ行きに乗る。

のどかな畑の間を通過し、高校生くらいの男の子がささっと駆け降りていく。
我々観光客が駆け降りることはないので、地元住民なのだなあと思う。
レンガや土の温かみのある家々を見ると、超観光地という雰囲気はあまりないなあと感じる。

横の座席に座った女性二人組が何語を話しているのかわからない。ギリシャ語だろうか。
ギリシャ本土から、休みを利用して観光に来ているとか。
ほどなくして色黒の男性がチケットを売りに来た。
片手に筒状の容器が横につながったプラスチック製のコインケースを持っていて、
硬貨ごとに筒に入って、筒の底が硬貨一枚分少し空いていて親指ではじき出せるようになっていた。
2ユーロ50出すと、ぴしぴしと20セント硬貨と10セント硬貨をはじき出して紙切れとともに渡された。
ギリシャ人だと思った女性二人組は、車掌(と言ってもTシャツ短パン)と英語で会話をしていた。
実に、いろんなところから来ているようである。

着いたところがあまりにも普通の駐車場だったので、
「帰りのバス停はどこ?」「同じところだよ」「ホントにここ?」というやり取りをした。

ペリッサビーチに到着すると、デッキチェアとパラソルがずらりと並んでいた。
砂浜との境界線にカフェがあり、カフェでドリンクを頼まないとデッキチェアゾーンにいけない感じがなんとなく漂う。
お店に関係のないスペースもあるにはあるようだけど、イスだけあってパラソルないとか、その逆とか。
周りの人が水着なのに、全く普通の格好の俺が一人思いっきり浮く。そして俺は写真を撮りまくっているのである。あやしい。
テレビでやっている「海水浴客を狙う卑劣な犯罪者、ライフセーバーと男の攻防戦!」のような特集で逮捕されるあやしいおっさんだよね。

ペリッサビーチはブラックビーチとして名高く、野球やサッカーグラウンド、というよりは校庭の砂場くらい黒い。黒とブルーのコントラスト、そしてビッカビッカの太陽光。
左右には切り立った崖があることで隠れたリゾートというお得感もある。
どうもぐっと来ない。何故だ。こんなにキレイなのに。

新婚旅行で海の綺麗なリゾートを俺が全く選ばなかったのは、沖縄の離島で生活していた8か月があったから、だと思う。
窓を開けると海、軽トラで少し走ると反対側の海。とにかく全てが綺麗で、色鮮やかで。
それ以来どの海を見てもなんだかなあ、と思ってしまうのである。
みんなそうなのかもしれないけれど、自分が見てきた海が、一番好きなのである。

5. 三平方のピタ

さて、ほどよく散策したところで、トイレと昼飯どころを探すことにした。
出来ればトイレは単独のものがいい。カフェのトイレを使うと、もうそこが昼飯どころになってしまう。
この旅唯一の一人めし。腰を据えて探したい。新婚旅行で一人めしがあるってすごいよなあ。
ビーチからかなり離れたところに公衆トイレがあり、海水浴場によくあるシャワー付きで広いタイプだった。
それで目の前がピタ屋だったので、あっさりギロピタを食べることにした。
ギロは焼いた肉の塊からそぎ落としたもの、いわゆるドネルケバブである。ピタはやる気のないナンみたいなやつ。

「ピタ ギロス」というそれはそれは三平方の定理を供してきそうな名前のカフェだった。
ピタをひとつくれ、というと、

「チキンか、ポークか?」

すごく迷った。普通はどっちを食べるんだ。
初めての店では最も普通のメニューを頼む主義の俺は、
目の前のビニール手袋をして、早く作りたい症候群男の前にたじたじであった。俺は普通が食べたいのだ。

「・・・チキンで」
「他には?」
「グリークサラダを。あとコカ・コーラゼロ」
「OK、コーラはその冷蔵庫から自分で取ってくれ」

田舎の中華屋みたいな接客だな。まあいいか。もう手袋してるしやる気はマンマンなんだな。
もう一人の店員はウェイターのようで食器の上げ下げをしている。
レジの前に五歳ぐらいの男の子がイスに座ってガタガタ揺らして遊んでいる。
しきりにカウンター内に声をかけているところを見るとどちらかの息子なんだろうな。

グリークサラダ、つまるところギリシャ風サラダは、
輪切りにしたピーマン、キュウリ、トマトに玉ねぎとレタスとオリーブを散らせ、最後にどどんとフェタチーズという薄い豆腐のようなものをのせたサラダである。
各材料が一口サイズになっているのに対し、フェタチーズは普通に名刺サイズのでかさである。
それが二枚というか二片というか、乗っている。びびる。
ドレッシングはオリーブオイルとハーブを使った何かがかかっている。

フェタチーズはクセがある、と事前に聞いてはいたが、
それほど強烈な香りがあるわけでもなく、ドレッシングとハーブのおかげで
おいしく食べることができた。むしろオリーブが多すぎてちょっときつい。
ピタにはレタスとトマトと玉ねぎとチキン、そしてビックリなことにフライドポテトが入っていた。不思議。ソースはツァジキのようなヨーグルトソースで、これは本当に肉に合う。

レジで注文している女性客がWi-Fiのパスワードを聞くと奥から手袋男が大声で叫んで返事していた。
Wi-Fiを使って写真をFacebookにUPする。新婚旅行で別行動なう、と。
隣の白人老夫婦が山盛りのチキンサラダにあんぐりしているのを尻目に、バス停へ戻った。

三時にホテルに戻ると妻はまだ来ていなかった。
待たせていたら嫌だなあと思っていたので安心した。
先ほど投稿したFacebookに「別行動とかウケる」とコメントついたのをにやにやしながら眺めていたら40分ほどして妻がきた。やや酔っ払っている。

イアの停留所につき、さて、ホテルに行くかと地図を開いたが、
どうもデフォルメされた地図しかない。
手元にあるシティマップも、携帯のスクリーンショットでとっておいた予約時の地図も、なんだか心もとない感じである。
日本で飲食店やホテルに行くのとはわけが違うのである。
住所から目的地周辺のわかりやすい目印から、すべて用意しておくべきなのだ。
自分のあまりの手際の悪さにイライラした。なおWi-Fiはレンタルしていない。大事な新婚旅行でなんとまあ、かっこ悪いことか。

つたない地図でもバスターミナルからホテルへは少し歩くことぐらいはわかる。前に広がる道が石畳で、出発前の会話を思い出した。
荷物を少なくして薄いピンクのスーツケースに詰めている妻にこんなことを言ったのだ。

「ヨーロッパは石畳だろうから、スーツケースだと転がせなくて大変だよ」
「でもこれしか持ってないし」
「俺持ちたくないよ」
「いいよ私持つから」

優しくない夫である。書くのも恥ずかしいのだが、実際に石畳を見てイライラが増した。

「ほら言ったじゃん。石畳じゃん」
「転がすから大丈夫だよ」

そう言って妻はスーツケースを引っ張って転がしていく。
がたんがったんと車輪が跳ねて、壊れてしまうのではないかと心配になるほどだ。優しくない夫は早くホテルを見つけなきゃという思いで頭がいっぱいなので、妻が懸命に跳ねるスーツケースを抑えながら付いていっていることは思いもよらない。

「大丈夫か、どこのホテルだい?」

そんな声が後ろからして振り向くと、
180㎝90㎏ぐらいの白人男性が妻のスーツケースをひょいと持っている。
50手前のパワフルお父さんといった具合で、4、5名のグループで来ていた。
さすがに俺にも意地なのかプライドなのか申し訳なさなのか、なにかがあった。踵を返して「俺が持つ」とパワフルお父さんから妻のスーツケースを取った。

「おお」

ポロシャツ短パンのパワフルお父さんは仲間のほうを振り返り苦笑い。

予約時に来たホテルからのメールをよくよく見ると、「イア城のすぐ下」という記述がある。城の近くの売店まで来たが、どうもそれらしき看板はない。

「そこのお店で聞いてきてよ」
「ええー、でも忙しそうで何か悪いよ。」
「バックパックを持って、スーツケースを持って、地図まで持っている俺に行けと言うのか。こういうとき女性の方が絶対にいい」

そう言って妻に行かせる夫。
近くのレストランでディナーのための準備をしている男性店員に聞くようだ。聞いてもらっている間、荷物をおろして、ようやく周りの風景を見る余裕ができる。
やっぱりちょっとつっけんどんな態度だったな、新婚旅行なのだからもう少しハッピーな態度でないとまずいな。

「この階段降りたところにあるって」

帰ってきた妻に、

「ありがとう、ところでこの景色、映画で映ったところじゃない?」

と、もう俺イライラしてないよ、それよりもホラ、あなたの好きな映画のロケ地だよ見てみてと転換を図っているのである。みえみえのごまかしである。

映画とは「旅するジーンズ」(原題:The sisterhood of traveling pants)シリーズのことで、主人公のうちの一人の祖父母がサントリーニ島に住んでいるのである。今回サントリーニが目的地になったときに、改めて映画を借りて二人で見た。

目の前は急こう配の下り階段で、まるですぐ近くに深い青色の入江があるようだ。両側にはオレンジとピンクが混ざった岩肌が広がり、その上に真っっっっ白な建物が並ぶ。
映画でロバが登ってきたのはこの階段ではないか、どうよどうよと言うと少し妻の顔が明るくなった。

さらにホテルのレセプションを見つけ、ハイタッチ。こういうの大事。喜びを分かち合うことが出来るのも、一人旅にはないところである。
六畳ほどのエアコンの効いたレセプションでチェックインを済ませる。

後からわかったのだが、到着時刻と待ち合わせ場所を指定すればホテルの人が迎えに来てくれるそうである。


6. ひとつ2ユーロのパンをかじって一泊530ユーロの部屋に泊まる

この旅行一番の部屋、である。一泊530ユーロ、である。当時のレートで8万円強。
トリップアドバイザーで10万円とか15万円とかいう数字を見ているうちに感覚がおかしくなってしまったようで、さらりと予約していた。
ジャグジー付のハネムーンスイート。一泊で寝るだけなのに8万円って・・・。
そんなことを言うと怒られそうだが、15,000円の神戸牛だって食べるのに5分とかからないのだ。口に入れた瞬間とけてしまうのだ。

妻あこがれの天蓋つきベッド、窓から真下に群青の入江が見え、ベッドからも瀟洒な町並みが見える。
シャンパンはサービスだと案内された。

荷物を置いてイアの町を散策する。まずは先ほどの城へ。
昨日泊まったフィロステファニの町や、フィラの町が一望できる。
誰かに写真を撮ってもらおう。まあこういうときはカップルに話しかけて写真を撮ってあげて、今度はこちらも撮りますよーというお互い様を作ればよいのだ。
カメラを預けた白人女性はカメラを縦に横に撮ってくれた。
すると何故か周りの人までその女性にお願いし始めた。名カメラマン誕生。

ジャグジーで使う妻の水着と夕食を買いにバス停近くまでいく。
細い石畳の道を、台車を押していく人が多くあった。
特にビニールでぐるぐる巻きにされた水を運ぶ人が多かった。岬の先の方にあるホテルまで運ぶのだろう。
途中は食器や服、みやげ物を売る店が並ぶ。目を引く本屋があった。半地下にあって外壁には本棚の絵が描かれている。
嘘か本当かレンタルキャット5ユーロと書いてあった。
ギロピタスタンドはそこらじゅうにあると思ったがバス停近くにしかなかったみたいで、もうバス停のほうまで戻る気力がなくミニマートで夕食の買い物を済ませる。
3回しかないサントリーニでの夕飯、失敗したなあと思ったが太陽は沈むのを待ってくれない。早く戻らないとイアの夕日を体験できないのである。
シャンパンとグラス、サンドイッチにチーズ。少しのお菓子を持ってジャグジーに向かう。既に日没30分前。どの角度、どのモードで撮ればこのコンデジで綺麗に撮れるだろうと熱心になっていた。ちなみにハネムーンスイートなんちゃらは、隣にもう一部屋あり、中国系のカップルがいるようだった。
男のほうはcanonの一眼を三脚にセットし、夕陽をきっちりおさめようとしていた。女性は大きなサングラスに身体のラインがぴちっと出るワンピースを着ていて、リゾート地の広告のような二人だ。
シャンパンを開けて乾杯。やや曇った天気だったが、日没の瞬間は何故か拍手が鳴り響く。そういうものなんだろうか。


妻は億劫がっていたが、水着から着替えて夜の散歩に繰り出す。
日没後のイアはバスでフィラのほうへ戻る人が多く、ぐっと人が少なくなる。お店もゆっくり見ることが出来た。

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