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俳優演出-俳優の読解力とイマジネーション力

さて、ここで詳しく読解力とイマジネーションの話しをしたいのですが、これは高度なテキスト分析能力が必要となります。映画のメトダでは以下の記事で分析の方法を説明してきました。これはシナリオの書き方とも密接に関係してきます。ですので、詳しい解説や説明は【中級編】のシナリオ講座の後にします。

ここでは触りとして、俳優演出における読解力とイマジネーション力、そしてコミュニケーション能力の意味について説明していきます。

皆さん、そもそも読解力とは何の事だと思いますか?

辞書には【読解:文章を読んでその内容を理解する事】と書かれています。
役者における読解力とはシナリオから演じる為に必要な情報を読み取る力の事を言います。

以前にも書いたように、映画には【テーマ=観客に伝えたい事】が必要です。

これは監督がきちんと把握しておかなければならない事です。そもそも、大前提としてシナリオはテーマが伝わるように書かれている必要がある事も覚えておきましょう。

俳優がオーディションで渡される課題には、こちらの意図が伝わるよう最小限の情報が書かれています。(逆に言うと、意図が伝わるように書かれてなければなりません

俳優は以下のことを読み取っていきます。

・脚本の要約→ 映画のテーマ、登場人物の目的、映画における役の役割など
・役の設定→ 登場人物の目的、性質、生活環境など
・台本→ そのシーンでの登場人物の目的、性質、感情のバロメーターなど

もちろん、俳優さんも100%こちらの意図を読み取れる訳ではありません。しかし、自分なりの分析の結果、どの様なアプローチが出来ているかを見ているのです。

イマジネーション

前回、俳優の演技の仕方について話しました。ここで言う所のイマジネーションとは『やった事も無い事を想像する』能力ではなく『自分の経験に当てはめる事が出来る能力』の事です。

必要な感情を設定した後、自分の経験、時には台本とは全く違う経験から感情探し出して再現できるかどうかを見ています。
この能力を俳優に必要なイマジネーションと言います。
これが出来る人は、常に複数のアプローチの方法を提出できます。なぜなら、自身の経験を引き出しに、考える事が出来る人だからです。

コミュニケーション能力

俳優に必要なコミュニケーション能力とはどんな物でしょうか?
監督と仲良くなる事?滑舌??スタッフとの会話????
まあ、それもある程度必要でしょう。

しかし、全く違います。

俳優に必要なコミュニケーション能力とは常にコミュニケーションをとろうとする能力の事です。これだけでは意味が分からないと思います。

まず、俳優が役を演じるまでの過程を振返ってみましょう。

台本を読み、監督と話し合い、映画の中での役割を考え、役を作り込みます。

そう、俳優は映画の中で起こる事を全て知っているのです。
しかし、ここで大事なのは “映画の中の役達は何が起こるのか全く知らない” のです。いえ、知っていてはいけないのです。知らないからこそ、登場人物は考え、行動し、傷つき、葛藤するのです

観客に “あ、こいつ次に起こる事を知ってるな” などと思われたら終わりなのです。

では、そう思われない為にはどうするのか?
良い俳優は、目の前の役者と常にコミュニケーションをとろうとするのです

そもそも、人間は常に何かを考えor想像して生活しています。
疲れて電車の中で座っているときだって、時間つぶしでゲームをしたり、頭の中では次の日の予定を考えたり…そう、常に何かをして、考えて生活しているのです。

誰かと話しをする時も、人間は相手の反応を常に伺って、その反応を見て次の会話や行動を決めています

演じるとは、特殊な環境で、既に相手の反応や行動意図が台本に書かれています。なので、悪い役者は "その通りの行動" をします。"その通りの行動" をするので、相手の役者の事をきちんと観察していません観察しないと云うことは “コミュニケーション”を放棄していることに他なりません

『こう言えば、こう反応するだろう』
『なぜ何も言わないのだろう?』

我々は常に誰かと話す時、考えます。そう、良い演技とは、きちんと相手の役者の反応を見て、常に相手が何を言おうとしているのか、何をしようとしているのかを考えて反応出来る事を言います。

既に知っている事を、知らないフリをして行動するのは大変難しいです。しかし、上記の様に常に相手とコミュニケーションをとろうとしない俳優は、ただ段取りだけを考えて行動してしまいます。段取りだけで行動していると、相手の役者がうっかり間違った時、何の反応も出来ません。ただ相手の反応を待つだけで ”何もしてない空白“ が生まれます。良い役者はそんな時でも、常に次のアクションに出ます。まるで普通の生活でもしているように。それは常に、相手の反応を観察し、その反応からきちんと考え、行動で来ているからです。

あと、段取り俳優はよく相手のセリフを飛ばして自分のセリフを言ってしまいます。これは、自分のセリフ=段取りだけを考え、シーンの意味、セリフの意義を認識せず、相手の反応を見てない典型的な行動です。

さて、オーディションの演技課題に話しを戻します。
この3つがある俳優は明らかに他者とは違う演技をします。
映画監督は “セリフが上手く言えるか” など見ていません。良い役者はセリフの間違い等、気にしません。その役とそのシーンの意味を伝えようと行動するので、セリフを間違ったとしても、その間違えはその意味に沿った物になります。セリフは物語のディテールを語る為にもとても大事です。大事ですが、それ以上に大切なのは、そのディテールによって表現したい事です。(実際の撮影でのセリフ間違いはNGです。

演技は訓練で上達で来ます。
分析能力も繰り返す事で能力を上げる事が出来ます。
イマジネーションも経験を重ねる事によって出来るようになります。
演技の間や話し方も、訓練で改善できる事はたくさんあります。

しかし、この “コミュニケーション能力”というのは、一朝一夕では手に入りません。一生手に入れられない役者さんもいます。
もし俳優に才能と云う物があるとすれば、この能力をもっている人です。
これをもっている役者は観客に "次に起こる事" を想像させません。想像させないから "一瞬足りても見逃せない" と釘付けにされるのです。

さて、良い俳優の条件として以上の3つの点を上げました。
しかし、この条件を3つ共合わせ持った人は大変少ないです。
ここで重要になって来るのが ”自分が俳優に何を求めるか“ と言う事です。
それを、きちんと把握する事で、プロじゃない役者を使う時でも "何が必要なのか" が見えてくると思います。

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