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「宅建取ったら人生変わる」は割と的を得てると思う話。

皆さんは“宅建”という言葉を聞いたことがあるでしょうか。正式名称は“宅地建物取引士(通称:宅建士)”といい、不動産取引の仕事をする際に必要な国家資格です。賃貸のアパートやマンションを借りたことがある人なら、契約を交わす前に長ったらしい説明書きを呪文のように唱えていた人と会っていると思います。その人こそが、宅建士です。

不動産取引の過程での重要事項説明(先ほど述べた長ったらしい説明書きのことです)をすることと、重要事項説明書への記名、契約書面への記名は宅建士の独占業務とされています。

宅建士になるためには、年一回実施される宅地建物取引士資格試験に合格する必要があります。合格率は約16%前後。受験資格に制限が無いため受験者は毎年20万人程度とかなり大規模な国家資格となっています。弁護士や司法書士などの8士業には含まれず、比較したら易しいレベルではありますが、それでも100人受けて16人しか受からない試験ということで個人的には難しい方だと思っています。

そんな宅建試験ですが、法学を履修していなくても市販のテキストと問題集だけで合格できる、完全独学を狙える試験でもあります。私は2022年に完全独学で勉強を始めて試験に一回落ち、翌年の試験に再受験し合格を果たしました。宅建試験対策の講師陣には「宅建試験に受かると人生変わる」などと言っている方が多いのですが、あながちそれは間違いじゃなかったなと実感しました。今回は私の経験を含めて書いていこうと思います。


Ⅰ.宅建試験を受けようと思った経緯

このままじゃまずい。

社会人になって数年が過ぎようとしていた頃、働きながら(このままでいいのか?)と自問自答する日々が続いていました。自分の希望する職種には就けたものの、その先へのビジョンが見出せず私は転職を決意します。しかしながら、学歴的な問題とジョブスキル的な問題があり、なかなか転職活動はうまくいきませんでした。

そんなある日、職場の先輩と食事をしていた時に先輩の口から言われた言葉が宅建との出会いになりました。
「俺、宅建試験受けるんだよね」

宅建が不動産に関する資格というのは知っていましたが、何に使うものなのかはよく理解しておらず、「へぇ、頑張ってください」と返答してその場は終わりました。

しかし、その後も宅建というワードがなかなか頭から離れられずネットで詳細を調べてみることに。すると、合格率約16%という数字であるものの法学初学者でも受かるし、独学でも目指せるという記述を見つけます。

これなら自分でも出来るかも?という僅かな期待と、不動産の知識は少しは持っておいて損はないだろうという気持ちによって動かされ、気づいたら書店で宅建士のテキストと問題集を買っていたのでした。

勉強は必要最低限にしたい。

いざ受験を志したものの、私は全くと言っていいほど法学初心者。民法もろくに理解できていません。そんな状況で独学なんて本当に出来るのか?

それに加えて私は大の勉強嫌い。極力手を抜いて今まで生きてきました。それで希望の職種にも就けたので、何不自由ない生活をしてきたわけです。だからこそ勉強の仕方が分からない。勉強時間は減らしたい。

ひとまずテキストを開いてみます。分野別なので最初は権利関係から。
ふむふむ。へー。なるほどね。

一単元終わって確認のために問題集へ。流石に学習したばかりなのでスラスラ解けます。しかし、一週間後に再び解いてみると、先週解けたはずの問題が解けない。全然理解できていない。

当然勉強量を増やそうと試みたわけですが、元々勉強嫌いな私が継続できるわけも無く、もはや宅建試験を受けることを諦めかけるようになりました。

Ⅱ.大量記憶法との出会い

(※特定のYoutubeチャンネルを取り上げていますが、アフィリエイト絡みは一切ございません。全て純粋なご紹介です。)

転機は再び、自分にキッカケをくれた先輩からでした。
棚田先生のYouTubeは分かりやすくて良いぞ」

これには驚かされました。今の時代、YouTubeには色んなジャンルの動画が上がっていますが、宅建試験に関しては様々な講義の動画が多数のチャンネルから上げられています。その動画のクオリティも、資格学校の講義動画に匹敵するレベル。図解が入るなどして大変分かりやすい。

独学のメリットは費用が大幅に削減できることですが、デメリットは孤独であることと疑問点の解消に時間がかかること。TACやLECだったら講師に質問できますが、独学では自力で解決しなくてはならず時間のロスにも繋がります。
しかし、先述の棚田先生のチャンネルでは毎日18時に動画が公開され、過去問を取り上げて図解で説明、コメント欄の質問にも答えてくれるというもの。コメント欄を見ていると、他にも独学で合格を目指している人が居るということに気づかされ、とても勇気づけられました。

そんな数ある動画の中で「大量記憶法」という勉強法が、大変参考になりました。

(大量記憶法についてはここでは割愛します。
詳しくは棚田先生の当該動画をぜひご覧ください。)

Ⅲ.1回目の受験

やがて自己流に…

大量記憶法によって効率よく勉強を進めていけるようになりましたが、徐々に大量記憶法のスタイルが面倒になってきました。
私は復習が大嫌いで、学生時代に試験の答案が返ってきても見直しなど殆どしたことがありません。復習するくらいなら、どんどん新しい知識を入れていった方が時間的効率が良い。試験日までには試験範囲全てを学習することができましたが、復習はほぼ行っていない状況で試験当日を迎えることになります。

大雨の2021年度宅建試験

雨。寒かった。

朝から冷たい雨が降っていました。家では勉強できないから、という理由で試験二日前からアパホテルに泊まって籠って追い込みをしていました。朝は優雅に食事を取り、試験会場である早稲田大学理工キャンパスへ向かいます。

副都心線の西早稲田駅を降りると、同じ受験者と思われる人が多く居て皆同じ方向へと進んでいきます。会場前では資格学校が「これだけは読め!重要知識まとめ」的なパンフレットを配っていましたが、試験前に動揺するのも良くないと思い無視して会場へ入りました。

大学特有の雰囲気、そして斜めってるテーブルに慣れない。試験開始が近づくにつれて緊張感はMAXに。アパホテルで貰った水に写るアパ社長からパワーを貰おうとしましたが、いまいち効果は無かった。
気が付くと試験は終わっていました。外は相変わらず雨が降っているにも関わらず、持参した折り畳み傘は都合の悪いことに壊れる始末。

出来なかった。解けなかった。それは、心の内を天候が表しているようで。

帰宅して、ユーキャンの解答速報で自己採点。32点という結果が出ました。宅建試験では相対評価方式のため合格点が変動しており、合格発表時に判明します。

一か月後の合格発表。合格点は34点。2点及ばず、無念の不合格でした。

実はこの時の宅建試験は友人と同時に受験しており、彼は見事合格を果たしていました。私と違って大学で法学を専攻していた経験があり、行政書士試験に受かっているとはいえ仕事が多忙を極めている生活環境では私より著しく勉強時間は無く、ただただ努力が実を結んだ結果だと思います。

私との明確な差は努力をし続けたかどうか。思い残すことは無かったか。せっかくの大量記憶法が確立されず、やがて自己流になり知識の定着が疎かになった。そんな甘さを宅建試験に見抜かれていたのではないでしょうか。

Ⅳ.2回目の受験

分析

冷静に考えてみると、法学初心者で自己流で進めて試験に落ちたとはいえ合格点まであと2点という惜しいところまでは到達しているのです。先述の棚田先生は動画内で「過去問の周回だけでは合格点にギリギリ到達できない。試験では、過去問と過去問の間の隙間が出題されるので周辺知識を完璧にする必要がある。」と仰っています。つまり、雑な仕事を丁寧にすれば合格点に届くのではないか。

面倒くさいからと放棄していた、大量記憶法を徹底的にやり込むことにしました。

意識の変化

大量記憶法を活用した実際の私の手帳。
項目ごとに学習した日付を記録することで、学習量の多い少ないが一目で分かる優れもの。

まず、手帳を購入して問題集の項目ごとに記録できるページを作りました。手帳は仕事のほかプライベートのスケジュールも書き入れており、常に持ち運ぶもの。であれば、学習記録も一緒に記しておけば直ぐに見返せると思ったのです。

右ページがモザイクなのは、裏面に仕事の予定が書いてあるから。
下の家系図みたいなのは遺産相続の図。

日ごとに書けるページには学習したページを記載。メモ欄には過去問を解いて間違えてしまった点を記しておき、後で見返せるようにしています。

間違えたということは、この先も間違えてしまう可能性があるということ。例えば本試験の直前にここを見返すだけでも、苦手分野を潰す効果があるのでは?という私なりの考えです。

大量記憶法は基本的に別冊のノートなどを作りません。過去問を何回も解き、解説ページに周辺知識を自分で書き入れてテキスト化させていく勉強法です。本来のテキストは知識の確認程度にしか使わず、ひたすら過去問だけを使いまわすというのが特徴です。その補助的な意味合いでこの手帳を用いています。

結果的に前回は周回できなかった過去問を、今回は本試験までに3回も周回させることが出来ました。

唯一作成したノート的なもの。

不動産取得税や固定資産税などの税務関係や、法律の改正点などは例外的に先ほどの手帳にノートとしてまとめました。これらは範囲が限定的で、要点を覚えた方が効率が良いからです。特に所得税や固定資産税は数字が多く、一気に覚えるよりは定期的に眺めて頭に入れた方が覚えられそうな気がしました。税務は全50問のうち2問出題。出来れば落としたくない項目です。

息抜きをご褒美に

試験一か月くらい前に息抜きで訪れた鳥取。
ふとベンチの鳩のマークが目に入り一気に現実に戻された。

家では勉強ができないタイプだったので、普段は会社で休憩時間に勉強していました。というか、会社の休憩時間だけで合格を目指していました。だいたい一日一時間くらいの休憩時間はあったので、その時間で大量記憶法を用いた勉強に限ることでモチベーションを維持する作戦です。

とはいえ、試験が近づく九月くらいになると焦りも出てくるので、自ずと勉強時間を増やさねばなりません。しかし、私は旅行が趣味で休みの日はよく飛んでいます。家に籠って勉強なんて捗るわけがない。そこで生み出したのが勉強合宿です。

勉強合宿先の城崎温泉。めちゃくちゃ広い部屋にリゾートっぽい立地。
しかし旅行割で一泊1500円相当になってしまった。バグ。

試験一か月前くらいに兵庫県の城崎温泉に行きました。普段と違った環境に身を置いてリフレッシュしながら勉強に励もうというものです。決してサイコロきっぷの城崎温泉の消化のためではありません。

チェックインしたら丁度同じくサイコロきっぷを使った女の子と部屋が隣同士になり、羽目はずしちゃう???と一瞬思ったものの城崎に来た目的を思い出し踏みとどまる。去年の結果発表時の感情を忘れたわけではあるまい。

一人で泊まるには勿体ないお部屋。決して旅行割クーポンをどう消費しようとか考えていない。

正直、勉強合宿は賛否あると思います。旅行がメインになってしまっては意味が無いし、移動などの時間分を自宅で勉強すれば学習量も増える。確かにそうです。
しかし、勉強はやらされるものではなく自らするもの。勉強したい!という気にさせるには、いい塩梅にご褒美を出してあげるべきだと思うのです。ここで言うご褒美とは、今まで勉強頑張ってきたね、だからリフレッシュして来な!的な意味合い。無論、試験はまだ終わっていません。

再び会場へ

試験会場は神田の会議室。やっぱり会議室の机とパイプ椅子が落ち着く。

そしていよいよリベンジの時。前回と違って、今回は会議室を会場に選びました。これは完全に自分の好みなのですが、前回の早大理工キャンパスの机は斜めっていて椅子も固定されていて違和感が凄く、よくある会議室の机とパイプ椅子の方が違和感無く問題に集中できると思ったのです。

しかし、ここでトラブル。なんと腕時計を持参するのを失念。
会場内は貸会議室ということで壁掛けの時計などは無く、完全に詰み。試験時間は120分。模試を何回か受けて時間配分は身に付いていたので、己の感覚を信じることにしました。なんとしても焦ってはいけない。

やがて120分が終わり、受験者がぞろぞろ退出していきます。

(終わった…)

手ごたえが殆ど無かったのです。特に前半の権利関係(民法)は難解すぎて、9割くらい落としているだろうという自信さえありました。この一年は無駄だったのか、去年の教訓は得られなかったのか──。
会場近くのラーメン店に入りやけ食いをして、神田の地を後にしました。

帰宅。ちょうどTACやLECなどで解答速報をやっている頃でした。大手の資格学校では講師陣が本試験を受け、受験後に学校へ帰ってすぐに問題を分析。その日の夕方には生中継で問題の解説が始まります。ユーキャンでは、動画の代わりに解答を入力するとユーキャン基準で採点してくれるシステムがあるので、昨年同様自己採点をしてみることにしました。結果は分かり切っています。

『あなたの点数は 41点 です』

ん?解答入力を間違えたか?もう一度問1から入れ直してみます。

『あなたの点数は 41点 です』


気が付くと涙が出てきました。何度手元の問題用紙のチェックと見返しても41点のまま。過去10年間の宅建試験の合格点で40点を超えた点数はありません。マークシートのチェックミスなどが無ければ、ほぼ合格と見て間違いないでしょう。本当に受かってしまった。


結果発表

結局、資格学校の予想と異なる部分がありましたが試験結果としては40点。私が今回受験した令和4年度試験の合格点は36点となり、正式に合格が決まりました。9割落としたと思っていた権利関係はむしろ7割正解しており、もう少し自信を持っても良かったかな?と思いました。

正式に宅建士登録された証。ゆりこたんの名前が入っている。

宅建士になるには試験に合格したら終わりではなく、その後実務経験を補うための講習に二日間参加してまた試験を受け、その後に東京法務局へ行って欠格事由に当てはまらないことを証明する登記されていない証明書、役所で書類を貰うといった沢山の手続きを踏みます。面倒ではありますが、不動産取引は一生に一度の大きな買い物が絡む重要な仕事。それだけ責任も重いということですね。

そして試験合格から約3カ月経って、ようやく宅地建物取引士として名乗れるようになりました。宅地建物取引士証を手にした時の感動はなかなかのものです。


Ⅴ.その後

宅建士になった直後、自分の希望する業界の企業を受けたところ内定を頂きました。自分でもびっくりするスピードでした。宅建士を即座に活かす仕事ではありませんが、選考担当者によれば働きながら宅建士を取得したことが評価の一つに繋がったということでした。将来的には宅建士を活用したポジションに就く予定であります。

あまりにもスピード感が凄すぎて実感が湧かなかったのですが、「宅建取ったら人生変わる」という言葉が証明された瞬間でもありました。



Ⅵ.この記事の目的

この記事を公開した2023年11月21日は、令和5年度宅地建物取引士資格試験の合格発表日です。これを読んでいただいている方の中にも受験された方がいらっしゃるかもしれません。
もし、一歩及ばず試験に受からなかったのだとしたら選択肢はこの時点で二つ残されています。
一つは「来年の試験を目指す」。もう一つは「諦める」

私は資格学校の講師でも何でもないので、どちらの選択肢も尊重します。年一回の試験のために、また来年まで頑張るというのはとてもメンタルに影響する行為です。自分には合わないと判断して去るのも選択肢としてはアリだと思います。

しかし、今年の時点で合格圏まであと一歩というレベルに居たとしたら来年は十分合格圏内に入っている可能性があります。もちろん可能性の話なので保証はできません。でも、既にある程度の知識は頭に入っているのですから仮にあと一年勉強を続けるにしても、今までよりは大分楽になっているはずです。

実際私は1回目の受験で不合格を食らった後は、翌年の春まで勉強しませんでした。モチベーションを維持できなかったからです。中には合格発表日のその日から勉強を始めるストイックな方もいるでしょうが、私は勉強を極力したくない性格。そんなことは出来るはずもない。
だからこそ、4月から10月までの半年間に絞って再び勉強をするようにしました。期間を定めていた方が大量記憶法も活用しやすく、効率良い勉強ができると思うからです。確かに翌年春になったら知識は大分飛んでしまっています。しかし、一度覚えた内容なので断片的にでも頭に残っていれば引き出すのもかなり早いのではないでしょうか。

先ほどは二つの選択肢の双方を尊重すると言いました。しかし、「諦める」と思っていた方が私のnoteを見て再び頑張ってみようと思ってくれたら嬉しいなと思い、今回この記事を書いて合格発表日に公開したわけです。時間はまだありますので、是非考えてみてください。
折角そこまで覚えた知識、形にして残してみませんか?

Ⅶ.あとがき

「宅建取ったら人生変わる」というのは人によって感じ方が異なると思います。私のように転職に成功する人も居れば、学ぶことの楽しさに気づいて別の資格に挑戦しようとするなど様々です。

勉強期間中よく周囲から「不動産屋に行きたいの?」と言われていました。宅建は不動産屋が持っている資格、という一般常識から来るものだと思います。もちろんその通りなのですが、私が内定した企業のように、社会人しながら資格を取るという行為に意味があると思うのです。

仕事から帰ってきて家事をして寝て翌朝また出勤… そんなライフサイクルの中で勉強に時間を割くというのは結構大変です。それも半年とか長いスパンで。だからこそ、宅建に限らず社会人での資格取得は一定の評価を受けられるものだと思っています。もちろん難易度は関係してきますが、その中でも宅建は合格率や受験資格、知名度などを踏まえても非常にバランスに優れていると考えています。

ここまで長々と上から目線で何様だと思われた方もいるかもしれません。稚拙な文章についても申し訳なく思います。しかし、ほんの少しでも気になるなとかやってみようかなという気持ちが芽生えたのだとしたら、これ程嬉しいことはありません。独学は孤独との闘いです。相談事があれば私でよければ全然お話を伺いますので、お気軽にXのアカウントにDMでもリプでも飛ばしてください。ついでに寿司でも奢ってください。

<おすすめの文献>
大量に覚えて絶対忘れない「紙1枚」勉強法 棚田健大郎/ダイヤモンド社
専門学校ゲームクリエイター科卒という経歴で宅建試験を完全独学で取り、現在は行政書士として独立。大量記憶法や日ごろの勉強、意識について詳しく書かれている。

みんなが欲しかった! 宅建士の教科書 滝澤ななみ/TAC出版
自分が大量記憶法に用いたテキスト。これと同じシリーズの問題集を使用。TACだけでも他にも宅建試験対策はあるが、個人的にはこれが分かりやすい。書店で色々見て自分に合ったものを選ぶのが良い。なお、テキストと問題集は同じシリーズで対応させておくと勉強がしやすい。


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