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4匹の猫と暮らすということ

多頭飼いって奥が深い世界だ。私は4匹ってかなり多い部類だろうなと思っていたが世の中には上には上がいる。結構7匹8匹飼ってる人がいる。すごい。誰にでもできることじゃない。

こういうことを書くと怒られるかもしれないけど、多頭飼いを始めたのは私の自分勝手に他ならない。猫ってひとりの時間を大事にしてる。私のそばで寝てる時もあるけど、離れた場所に隠れて寝てる時もある。最初の1匹から2匹に増やした時、私は1匹目の噛み癖の強さにストレスを感じていた。多頭飼いだと加減を覚えやすいと聞いたし、いつか私も仕事をするようになって家を開けるかもしれないから、もう1匹いた方が遊び相手になってくれるだろうと思って2匹に増やした。

本当は、最初の子にとっては単頭飼いの方がよかったのではないかと今でも思っている。最初の子、ラグドールの女の子レイシーは、一人でいる時間が好きで、静かな方が好きで、邪魔されない時間が好きで、他の子が割り込んでくると遊ぶのをやめて逃げてしまう。本当は繊細な子だったのだ。

2匹に増やした時、私は幸せだった。レイシーは女の子だったので自立心が強く、一人でいたい時はこちらに寄ってこない。寂しくて猫を飼い始めた私はその一人にされる時間が寂しくなってしまっていた。だからもう1匹、同じラグドールの男の子、ウィールが私にとても甘えてくれるので満たされていた。クルルッと鳴いてそばに寄ってきて、撫で始めるとこてんっとその場に横になり、喉をゴロゴロ鳴らすウィールが可愛くて仕方ない。レイシーも鈴が鳴るような声で私を呼び、お気に入りのクッションでふみふみをすると気持ちよくなるのか必ず私の唇を吸っていた。唇がヒリヒリしたけど可愛くて仕方なかった。

ウィールは人間にも甘えん坊だが猫にも甘えん坊で(ペットショップでも良く他の子と遊ぼうとして威嚇されてしょんぼりしていたと聞く)、レイシーに「おねえちゃん、おねえちゃん」とよく懐いているように見えた。実際この2匹は仲が良くて、一緒に寝ているのを何度も見た。ウィールは多分今でもレイシーのことが大好きで、あれから2年経った今もたまに2匹で寄り添って眠っているのを見るとほっとする。……頻度は格段に減ったけれど。

減ったきっかけはやっぱり3匹目を迎えた頃だと思う。その時もやっぱり私の寂しがりの悪癖が出たのだ。6月になった頃、猫たちが涼むために土間にばかりいって私にあまり構ってくれなくなった。その頃住んでいた部屋は階段があって、私は二階に寝ていた。うつ病の症状がひどくて、猫にご飯をあげたり、家の掃除をしたり、猫と遊ぶ以外はずっと布団の中で寝転んでいた。頻繁に起き上がれるわけじゃなかったので猫から来て欲しいのだけれど、レイシーもウィールも2匹で落ち着いちゃって一日中構ってもらえないことがざらにあった。

保護猫や保護犬のサイトを回るようになったのは、ほとんど趣味だった。レイシーを迎えた頃からよく見ていた。譲渡のあれこれが面倒だなと思って(うつ病がひどかったので保護主と何度も会ったり家に来てもらうというのがとても億劫だった)ただ見るだけだった。でも6月の二週目頃、私は自分のいる県内で黒猫の里親が募集されているのを見た。見つけてしまった。

「2匹育ててるんだから3匹めもいけるだろう」なぜかそんなことを考えた。その時募集されてたのは別々の募集主から2件。問い合わせをして、1件はもうすぐ決まりそうということだった。もう1件の人が、ぜひと言ってきて、たしか19日にやりとりしたのに21日には譲られることになった。JRで30分くらいかけて移動した。

「うちの庭で雨の日にうずくまってたんですよ」「先住猫がこの子がいると怖がって出てこなくなっちゃって、頭にハゲもできちゃったから…」

そうなんですか、と答えながら、うちの子たちは大丈夫かなと急にここで怖くなった。考えている間に渡されたのは小さなダンボールの箱だった。テープで封がされていた。えっ。

テープを剥がして蓋を開けたら、私の手の大きさも歩かないかのような小さなボロボロの黒猫が出てきた。あまりに小さくてびっくりした。そういえば里親募集の写真でミルクを飲ませていたっけ。

「あの…キャリーバッグ持ってきてるのでうつしていいですか」「あ、その方がいいと思いますよ!この子こうしてないと出てきちゃうからこうしてただけなので」

保護猫譲渡の時、色々書類を書かされると思っていた。なのにその人は私を駅まで車で送り届けてそれきりだった。あれ?と思った。私としては、面倒な手続きがなくて助かったけれど、こんなものでいいの、って。

黒猫は本当に小さくて、やせ細っていた。お尻に肉がなさ過ぎて肛門が飛び出して見えるほどだった。足は棒のようで太ももなんてなかった。毛の生え方も不揃いで、身体中にかさぶたがあった。この頃はまだ猫カビについて知らず、他の猫と喧嘩して傷がかさぶたになったのだろうかと思っていた。

そういえば、募集には寄生虫の確認をしたかどうかも書いてなかったけど、どうなんだろう。

黒猫は夜鳴きが多かった。2時間ごとに起こしてきた。何だろうと最初はわからなくて、どうやらお腹が空いているのだと気づいて、起こされるたびにミルクや離乳食を与えた。母親とはぐれて間もないせいかレイシーの時より噛み癖が強く、爪も立てる。痛かったけど我慢した。今思うと、この子は必死で生きようとしていたのだ。お腹が空いて空いていたのだ。

たった3日で明らかに肉が増えた。ルルと名前をつけた。ルルに乞われるままにご飯をあげていただけなのだけれど、確実に肉がついた。それでもまだ痩せていた。ルルは教えなくてもトイレで用を足したし、力の加減がわかってないだけでいい子だった。レイシーはずっと警戒していたが2日目にはウィールが慣れて、ルルと遊んでいた。

3日目に、寄生虫とカビを調べに動物病院に連れて行った。かさぶたが多すぎるなと思って調べていたら猫カビの情報に行き当たったのである。寄生虫にしろ、本当はもっと早く連れて行くべきだったのだけれど。案の定寄生虫はいた。そしてやっぱりカビだった。改めてトイレを分けてケージに入れていた。でもケージに入れるとルルが構ってほしがって鳴くのである。その後レイシーとウィールに寄生虫とカビはうつっていないことがわかってほっとした。ルルの寄生虫もすぐになくなった。かさぶたも目に見えてなくなり、みすぼらしいほどはげていた毛がきれいに生えるようになって、やっとふさふさの毛並みになった。でも2週間くらいケージにルルを隔離するうちに私がノイローゼになってきた。他の2匹と接触させないので噛み癖や爪の加減のなさは相変わらずで私も傷だらけ、ケージに入れてる間ずっとルルはほんとうに延々と鳴き続けていた。その声が聞いててかわいそうでどうにもできなかった。もうちょっと隔離の必要があったけれど、耐えきれなくなって私はルルをケージから出した。ルルは私の枕元で眠った。それからやっとノイローゼがなくなった。

その後、さらに一週間経って同居人の腕と私のお腹・背中にカビが生えた。まずルルを連れて行って、「薬がなくなったままサボってこなかったでしょ、カビは癖になるから完全に治療しないとダメなんだよ」と先生に言われた。薬がなくなったしなくなる前にカビが消えてたからいいと思い込んでいた。素人判断。うつを言い訳にして「薬がなくなる頃またきてね」と言われてたのに一週間行かなかったのである。飼い主失格。その後また薬をもらい、自分も皮膚科に通った。同居人はなぜか自力でカビを直した。免疫が強い。私は薬をしばらく塗ってやっと治った。

ウィールはルルを家族に迎え入れようとしていた。しょっちゅうルルを舐めてあげていたし、身を張って噛み方の加減を教えてくれていた。その結果ルルは加減を覚えた。ルルの子育てに関して、ウィールの協力がなければきっとやりとげられなかった。やりながら何度も泣いた。ウィールが優しくて泣いた。ウィールにカビがうつらないかだけが心配だったが、その後もウィールにカビは生えなかった。本当にホッとした。もっとうまくできればよかったのだけれど。

レイシーは最初からずっとルルに近づかなかった。だからカビの心配とかもなかった。ただレイシーが私の口を吸わなくなったのが寂しかった。衛生面を考えると吸われない方がいいのだけど、あれはレイシーの愛情表現だったから。とはいえ最近はもう大人になったのでしなくなった。それもちょっとさみしい。

ともあれ、そうしてレイシーが全然ルルに寄り付かない日が続いた二ヶ月後くらいに、レイシーがまた私の口を吸ってきた。その後レイシーがルルをグルーミングしてあげた。私はまた泣いた。嬉しくて。優しくて。

それから3匹で仲良くなった。ウィールとルル、ルルとレイシー、レイシーとウィールで一緒に寝ている。ルルは赤ちゃんの頃からお世話したせいかずっと私の側で眠る。ウィールもレイシーも側で眠らなくなってしまったので寂しさが癒された。3匹が三者三様に私を癒してくれるのだった。1匹や2匹では足りなかった心の空洞が3匹でやっと満たされた。

それでも、3匹もいるとよく考えた。私は1人しかいないので、この子たちはもしかしたら1匹で飼ってくれる飼い主のところにいた方がずっと幸せだったのかもしれない。全員に愛情をかけているけど、特にレイシーへの愛情は格別だし、ウィールもルルも1匹で飼ってくれる人の方がよかったかな、ルルは私のところに来てよかったかもしれないけど、ウィールはさみしいんじゃないかな。レイシーは本当はひとりのほうが好きだったかな、ごめんね、ごめんねと毎日思っていた。

なので、4匹目を飼うとは正直私だって思ってなかった。

アメリカンカールという種類を可愛いと思ったことはそれまでなかった。レイシーやウィールを迎えたペットショップでも何度か見かけてはいたが、耳が不思議な形をしているなと思っただけで、猫っぽくないように見えてあまり興味を持たなかった。立ち耳の方が可愛い気がするって。

たまたま読んでいた漫画にアメリカンカールの擬人化の男の子が出ていて、その子のお耳が可愛く見えた。それで、「あれ、アメリカンカールって可愛いんだっけ?」と思って出来心で検索したのである。

そこで、ミニーマウスみたいな子猫を見つけた。

えっ。なに。この子かわいい。ミニーちゃんみたい。

耳がクルンとしてて、丸まって本当にディズニーのミニーちゃんのようだった。可愛さに度肝を抜かれた。思わず写真からリンクに飛んだら、4月に生まれたばかりの女の子だった。愛知県のブリーダーさんの猫だった。そのブリーダーさんは他にも色んな子を育てていて、他にもかわいい子はたくさんいたのだけれど、私はそのミニーマウスみたいな子に釘付けだった。
その子は写真で笑っているように見えた。飛び跳ねてる写真でも目がキラキラして笑っているようだった。猫の写真って大概、不機嫌そうな顔や緊張している顔、怯えているような顔が多い。そうじゃなかったとしても目線が大体明後日を向いている。それはペットショップのHPでも、他のブリーダーさんのページでも、里親募集のページでも、そのブリーダーさんのページすらもれなくそうだった。
なのにその子は、笑っていた。私にはそうとしか見えなかった。実際今あの頃の写真を見てもやっぱり「この時ごきげんだったんだろうなあ」と感じる。
そのブリーダーさんの猫は多分人気だったのだろう。出されていた子のほとんどが売約済みだった。でもその子はたまたま、同じブリーダーさんのアメリカンカールではその子だけがまだ売れていなかった。
どうしようとか考える間も無く、その時私はもう反射的に問い合わせをして、7月半ばの猛暑だった。愛知から長崎まで猛暑を移動させたくなかったから、9月以降に引き取るということで契約した。

3匹で満足していたはずなのだけれど、その子に関してはなぜか何も考えず迷いすらなかった。ペットショップでその半年前、昨年の12月にレイシーを見つけて「この子だ!」と思った時と似ていたか、それ以上の衝撃だった。また新しく迎えるとなると大変なのに、何も思わなかった。

その子を引き取って、最初はマロンと呼んでいたのだけれどしっくりこなくて、最終的にシャーリーと名付けることにした。シャーリーは会った時からいい子だった。福岡の駅で引き取るはずだったのに、私がお金を家に置き忘れたせいで一旦帰ることになった。その時もおとなしくていい子だった。結局お金を振り込んで、航空便で送ってもらうことになって、飛行場に迎えに行った。カゴに入れられたシャーリーと再会した時も、そのままタクシーに乗った時も鳴き声一つ漏らさずいい子だった。こんな我慢強い子見たことないと思った。

家について落ち着いた途端、シャーリーははしゃぎだした。ぴょんぴょんと部屋の中を飛び回って、家具に体を擦り付けて、私の手に自分から頭をぶつけてきた。もうその時点で6ヶ月で、他の3匹と比べて迎えた時から大きかったけれど、やんちゃで無邪気なおてんばさんという感じでコロコロしてあまりに可愛かった。今までの3匹が物静かだったのに対してシャーリーは最初からおしゃまさんだった。他の3匹は私に安らぎをくれた。シャーリーは、うつで塞ぎがちで気持ちが沈みがちな私の気持ちを晴れやかにしてくれる子だった。元気をくれる、明るさをもった陽だまりのような子だったのだ。

シャーリーは、ルルとウィールともすぐに仲良くなった。自分からグルーミングをして、またされていた。ただ、シャーリーはレイシーとは今でも仲が良くない。引き合わせ方がまずかったのか、ただの相性なのかが今でもわからず悩んでいる。動物病院の先生に相談したら、「相性ってどうしてもあるよ」と言われた。ウィールとルルに関しては最初から我関せずだったレイシーが初めて攻撃的になった相手がシャーリーだった。すでに一歳になっていたレイシーに追いかけ回されたりパンチされたりし続けた結果、シャーリーはレイシーが大嫌いになってしまった。結果的に今でもレイシーが視界に入るだけで警戒モードになるし、そうやって警戒されるとレイシーが負けん気で追いかけるというようなことが日常的に繰り返されている。どうにかならないものかとふたりの目があったらサザンの「TSUNAMI」を熱唱したり、手拍子をとって気を反らせたり、どちらかを抱き上げたりおもちゃを使ったりしているがなかなかふたりの仲は改善しない。

なんというか、シャーリーとレイシーは少し似たところがあって、でも性格が根本的に合わないのだろうなあというのは見ていてわかる。どちらも特別扱いされたい子なのだ。ウィールとルルが私に可愛がられていても別に嫉妬しないけど、お互いのことだと明らかに嫉妬心と対抗心を燃やしているのが見ていてわかる。女の子同士だからなのかな。一回だけレイシーとシャーリーが添い寝してる奇跡を見たんですけどその後はまたなしのつぶて。あの日はなんだったんですか。

話を戻すと、シャーリーは本当にどこにだしても誰とでも仲良くなれるだろう、コミュニケーション能力の高い、そして人なつこいおりこうさんだ。私はシャーリーがレイシーを警戒している姿を見るたびに思う。やっぱり本当は、すでに3匹もいる私の家じゃなくて他の1匹で飼ってくれる人のところにいた方がこの子は幸せだっただろうか、ごめんね、と。相変わらず毎日そう思う。それでもシャーリーとは特に運命だったと思ってしまう。猫を既に飼っていなければ、私はブリーダーのサイトになんて気づかなかっただろうし、あのタイミングで出会うこともなかっただろう。後日同じブリーダーさんのサイトに猫がまた増えていたがすぐに売約済みになった。シャーリーがたまたまあの時まだ売れていなかった、それだけの、でも出会うには充分なタイミングだった。

毎日ごめんねとありがとうを心の中で思いながら、今日も4匹に救われている。4匹いると、同じ部屋でそれぞれが寝ているだけでもなんだか守られている心地がする。今日もレイシーは私を呼んで室内をお散歩したがるし、ウィールは話しかけてきて、時々撫でられに来る。ルルは常に私のそばにいて、時々抱っこを所望する。シャーリーは私を呼んで、たくさん構ってもらって満足そうに目を細める。そしてめいめいに好きな場所ですこやかに眠っている。私はそんな優しい部屋の中で今の自分にできることをする。そういえば最近またレイシーが添い寝してくれるので嬉しいです。二歳になってまた甘えん坊になったから時期があるのかもしれない。

1匹でも欠けたら心が死ぬと思う。毎日今からいつか来るお別れが怖くてたまらないけど、最後の日まで愛してあげたいなと思っている。それまで頑張って生きる。


ところで生まれた順で言えばシャーリーよりルルの方が年下なんだけど、シャーリーの方が末っ子感あるのはやっぱり家に来た順のせいなのかな。


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