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目指す会 2312 AJパーマネント千葉200 ⑥206/206

鹿野山。千葉の僻地にある山の名前。
草ロードレーサー界隈ではそこそこ有名な山で、数年前に目指す会でもこの山を越えるルートのイベントを行った。その時はライトユーザーの心を根こそぎ折り、ライダーをチャリを押す登山家へとジョブチェンジさせた程の破壊力をもつ峠だ。

幼児を持つ千葉県民の9割が行くとされるマザー牧場が近くにあって、時折可愛い子牛が目印の看板が立っているんだけど、コースは全く可愛くない。それが鹿野山。

そんな山に我々は挑む、180キロを走ったあとに。
パワプロならピッチャーかスタミナ切れで肩で息をし、肘(膝)に爆弾を抱え、今すぐにでも降板させないと選手生命の危機! という状況というなのに続投を強いられているようなもの。

太陽はすでに落ちかけている、ライトを点滅させ満身創痍のおっさん3人ヒルクライムスタート。

3人とも余分な体力の消費を抑えるため無言で登る、聞こえるのは自分の呼吸だけ、当たり前だがペースが上がらない。

序盤は比較的緩やか、それでも早々にばらける。膝が痛い筆者、いつもの元気が無く別人みたいなE原さん、体重を増やし登り坂×になったS水氏という順。

途中、幾人もの挑戦者をはねのけてきた急勾配が立ちはだかる。すでにギアは最軽の状態、座ったままでは登れる気がせず尻を持ち上げる、悲鳴を上げる膝。
一漕ぎしても数十センチしか進まない。ふとサイクルコンピューターがチャリが止まったしたと認識して停止音を放った。バカ野郎! ご主人様は必死に戦ってるんだぞ、とペダルを強く踏みまだ膝が鳴く。

難所を乗り越え引き続き黙々と登る。20~30分程度だろうか、夜の帳が訪れたと同時にようやっと鹿野山を登り切る。
疲れていてもしっかり味わう達成感。

テールライトがはっきり見えるくらいに夜

夜景的なライトアップなど微塵もない千葉の僻地につき、せっかく登ったのに暗くて景色がよく分からないから昼間に登った時の写真も貼ってみる。この景色が見たかった…

鹿野山を登った者が見られる本来の景色

ふたりの到着を待つ孤高の筆者。しんと静まった峠の独特な雰囲気に浸ろうと思ったのだが、どうやら車で登ってきた中年カップルの先客がいて、なんか微妙にイチャイチャしてるのが無性に腹立たかった。そのせいで居心地も悪く、せっかくの峠制覇が台無しである、早く来てくれE原さん! そして奴らに場末のラブホにでも行けと罵声を浴びせてくれ!

程なくして死にかけのE原さんとすでに死んでるかのようなテンションのS水が到着した。2人ともナイスライド。

疲労困憊と顔に書いてあるS水

頂上で一呼吸おく。残りは峠を下って少し街中を走ってゴール。10キロちょっと。ただ、ここからは命の危険を感じながらのライドになる。

すでにあたりは真っ暗、まじで街灯がない。自転車のピカピカ点滅するライトだけが頼り。
そして日が落ちた途端にグンと気温が下がった。ドラクエの凍える吹雪って多分こんな感じ、寒くて両肩があがってしまう。山から下りれば多少は暖かくなるだろうという一縷の望みを胸にだく。

1つ先のコーナーも見えない中、ブレーキを強く握り地面の凸凹に細心の注意を払いながら進む、シンプルに恐怖だ。下りにつき体は動かさない上に冷たい大気が容赦なく襲いかかる。カチカチと震える奥歯。指は痛いを通り越して取れちゃいそう、感覚がなくなりまともに動かない。それでもブレーキを握らないと本当に死ぬかもしれない。

こんなときでも下りはめっぽう強いE原さんはサーっと降りていく。とてもじゃないが正気の沙汰じゃない、寒さにご乱心されたのだろう。故に筆者とS水は、コーナーの度に曲がりきれずに朽ち果てたE原さんの遺体を探しながら降りていくことに。結構マジで倒れてるんじゃないかと心配した。

途中にいくつかのオフロードと家畜の匂いに泣きそうになりながらもなんとか下山に成功、幸いE原さんも無事。やった、これで極寒の地から解放される…というぬか喜びをあざ笑うかのように麓も雪女が泣いて喜ぶくらいくそ寒さ絶賛継続中だった。体は芯まで冷え切ってた。
E原さんも「マジで死ぬかも」を連呼していた、結構元気じゃねーか…

多分絶望ってあの体験をさすんだと思う。あと7キロほどが永遠に感じられまともな思考が出来なくなる。既に200キロ走った達成感や、鹿野山を登った満足感なんてモノは全て吹き飛び、今この場でチャリにまたがっていることをただただ後悔する。

なんでこんな所にいるんだ? なんでこんなイベントに参加するって言ったんだ? 誰だこんなイベントを企画して誘ったのは…信号に捕まってもイライラし、青になってもイライラ。
冗談ではなく死ぬかもしれない、そう思うくらいに体は危険信号を出していた、ただただ寒い。先日ラーゲリより愛を込めてを見たが、ソ連の冬に負けず劣らずこの日の木更津は寒かった。

頂上で遭遇した中年カップルが入ったであろう場末のラブホの前を通る。ホテル名を煌々と照らすネオンの熱を求めて飛びつきたくなる。街中に現れる地味な登り坂、消えてくれ。

一向に進まないサイクルコンピュータの走行距離を何度も見て、なんとかゴールまでに意識を保とうとする。

三途の川のあっち側にいるじーちゃんとばーちゃんにこっちおいでーと34回言われた時、ついに、ようやくゴールのローソン木更津富士見三丁目店(スタート地点と同じ場所)に辿り着いた。時刻は18:13。

ゴール時に写真を撮らないといけないのがスーパー億劫。動かなくなった手からグローブを外すのが非常に大変で痛いからだ。そんな手で撮ったもんだから写真はブレブレ。
お疲れー、頑張ったねー、ナイスラン、なんて励まし合いの言葉もなくひたすら体を震わせ体温を上げようとするおっさん3人。

ゴールの時の写真、ピントとか合わせる余裕無し
スタート時の写真、このときは寒い寒いとはいえまだ元気だったなー

体を温めるために買った缶コーヒーは、冷えすぎた手には熱すぎてまともに持てない。それくらいに表面温度が低下していた。

普段ならゴール後、そそくさと帰り支度(チャリばらしたり)するんだけど、この日ばかりはまずは車に飛び乗り風を遮断、暖房のマックスに上げ体を温めることに専念、さみーさみーとうずくまるおっさん3人。

20分ほどそうしてただろうか、体温を少し取り戻した我々は引き続きかじかむ手にむち打ち片付けをはじめる。そして近くにある風呂屋に逃げるように向かう。
本当ならさっさと湯船にダイブしたかったのだが、40℃程度のお湯を熱湯に感じてしまうくらいに冷えた手足を、シャワーで徐々に温めるなくては火傷してしまう、そんな状況。
湯船につかった瞬間、言葉通り生き返った。日本の風呂文化に心底感謝した1日となった。

総走行距離206キロ。
6:00スタートの18:13ゴール。日の出前スタート日没後ゴール。
マジで死ぬかと思った地獄イベント、デスレース。初めてのトレランで30キロ連れ回された時もしんどかったが、それに負けず劣らず終盤はもう半泣き状態だった。

完走した感想はただ一言
「冬にやるあそびではない」 
以上、千葉エンデュランスの旅でした。
2度目があるとしたら、せめて暖かいときにやりましょう。

今回の走行ログ

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