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ドイツ歌曲の話 詩人の恋 Dichterliebe #15 彼女が歌っていた歌は

10.
Hör ich das Liedchen klingen,
Das einst die Liebste sang,
So will mir die Brust zerspringen
Von wildem Schmerzensdrang.

彼女が歌っていた歌が聞こえる
僕の胸は苦しみで張り裂けそうだ

Es treibt mich ein dunkles Sehnen
Hinauf zur Waldeshöh,
Dort löst sich auf in Tränen
Mein übergroßes Weh.

暗い想いに駆られて森の高みに登っていくと
とてつもない大きな悲しみは涙に溶けてしまう


ト短調、4分2拍子。
ここまでアルペジオといえば1曲目といい、5曲目といい、上行型であったのに、ここで初めて下降型のアルペジオ。そしてそのトップの音を繋ぐと歌い出しのメロディーと同じになる。

だから詩人の言う「彼女が歌っていた歌」というのはきっとそのメロディーだったんでしょう。それを前奏で聞いて、自分も同じメロディを口ずさんでみる。

その後も調を変え、また形を変えそのメロディーはピアノにも歌にも現れる。青のライン。


最後の「とてつもない大きな悲しみ」と言う言葉を表すのにもやはりそのメロディーが。「とてつもない大きな悲しみ」というのにはあまりにも慎ましやかな音楽。しかしその途切れたメロディーはピアノに受け継がれ、細かいシンコペーションでこみ上げる嗚咽となり、泣き崩れる。

歌い手としては「とてつもない....」で劇的な表現がしたくてもさせてもらえず、続きはWEBで、ならぬ「続きは後奏で」な曲といえるでしょう。その分うんと内的な表現を。

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