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『カルトローレ』

長野まゆみさんの小説『カルトローレ』が好きです。

盛っているように聞こえるかもしれませんが、本当に何十回と読んだ本です。長野まゆみさんは初期の作品が好みでいくつか読んでいるのですが、この作品は別格レベルで大大大好き。

ジャンルはSF……? でも、出てくる舞台は砂漠や古い街。見知らぬ砂漠の地へ越してきた主人公と、彼を取り巻く人々の生活を描いていて、謎めいたストーリーはあるものの、劇中に出てきた謎が解決されないままにエンディングを迎えたりします。
物語にカタルシスを求めるよりも、世界観と雰囲気を楽しみたい方におすすめです。

おそらく、多くのカルトローレのレビューに書かれていると思うのですが、食べ物の描写がとにかく素敵です。とっても美味しそう。食事をメインにしたお話ではないのですが、描写としては多めで、物語のエッセンスとして効いています。
たとえばこんな感じ。

彼はインカムをつかってやりとりをしながらキッチンにたち、ナイフをとりだしてフルーツケーキを切りわける。通信をおえ、果実の断面が鮮やかなケーキと冷たいクロテッドクリームを盛りつけた皿をもって、外のテーブルにやってきた。

7章 楽譜 より
また私たちだけとなったコンパートメントには、昼食として注文しておいたランチバスケットがはこびこまれた。香草を練りこんだパンと半熟のゆで玉子、辛いソーセージ、小魚のマリネなどが、組立式の紙の箱におさまっている。給仕がタピオカいりのミネストラをくばった。

12章 乗客 より

大抵はメニューの紹介や食事を作っているところでいずれもあっさりした描写ですが、これだけで美味しそうだと感じるのだから不思議です。

食事以外にも素敵なモチーフであふれていて、砂漠・刺繍・布・料理・旧市街……こんなワードに惹かれた方にはぜひ読んでみてほしいです。

今まで、旅行には必ずこの文庫本を持って行っており、外でこれを読みながら寝落ちしてしまって雨に降られて……だとか、鞄に入れていたらやっぱり雨に降られて……を繰り返してボロボロになっています。
そんなに好きな作品ならこんなにボロボロにするなよ、と本が好きな方に怒られてしまいますね。まだあと何回も読み返す本になるので、これ以上ひどくならないように大切に扱います。

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