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原田義也「化学熱力学」は名著

詳しい情報については、リンク先をみてみてください。詳細まで書いてしまうと、長くなってしまうため、書いていません。当記事では、個人を特定できるリンクを一切使っていません。ご安心して、リンク先の情報をいただけます。

上の続き。

わたしが一番好きな熱力学の本は

 物理の棚に置いておらず、化学棚にあるため、存在をずっと知りませんでした。

"ザク"カラーで、初版が1984年発行、修訂版2002年、と決して新しくはない本です。

名著です。

裳華房さんがずっと出版し続けるだけあります。

買ったときのことを覚えています。アマゾンで購入して、昼頃に届き、読み始め出して、気づいたら22:00を過ぎていました。

ここまで読み耽る専門書は稀です。物理の人でも愛読書になりえます。

田崎熱や清水熱とは異なった視点で、「熱力学の力」を感じられるはずです。
※  原田『化学熱力学』は清水熱でいうI.B型です。

著者の原田義也先生は、物理化学専門の方です。また、タイトルが「化学熱力学」ですが、しっかり、「物理での熱力学のこころ」を書いてくれています。

たとえば、

  1. 熱力学的帰結の一つに、$${C_p -C_v > 0}$$があります。これはどういう意味でしょうか?

  2. van der Waals 状態方程式を、天下りではなく、式の形や係数の必然性を答えられますか?

熱力学の式に追われている人には、これらの描像は見えていなかったりします。原田『化学熱力学』では、 導出だけで終えるのではなく、得られた結論の吟味をひとこと加えてくれています。

全般的に、

  • 物理の熱力学の内容は抜かりはなく、論理的に破綻なく、エレガントに展開しつつも、

  • 「化学熱力学」も漏れなく解説されている。

  • 物理の熱力学では端折られ傾向である、後半の"平衡~相"以降も詳説されている。

一般的な熱力学の教科書を三宅哲『熱力学』とすれば、原田『化学熱力学』ではその内容を完全にカバーしています。物理の人でも原田『化学熱力学』だけの所有で事足ります。
※ ただし熱力学不等式は載っていません。『統計物理学ハンドブック』を参考にしてください。

なお、「化学熱力学」とは、

  • 物理の「熱力学」に加えて、

  • 相平衡の対象として、気体だけではなく、溶液(理想液体)も扱い、

  • 束一的性質(蒸気圧降下、沸点上昇、凝固点降下、浸透圧)

も議論されます。

物理の熱力学以上に、エンタルピー(定圧過程)、ギブスの自由エネルギー(等温等圧)が多用され、化学ポテンシャルや相の概念も具体的に豊富に現れます。

もっとわかりやすい違いは、物理での熱力学では、相といえば水の3相しか出てきません。
※ 演習などでは水以外も取り扱いますが、ここまでたどり着けない学生が多いです。

この3相の状態図はよく見かけます。
S:Solid(固相)、L:Liquid(液相)、G:Gas(気相)です。

しかし現実は、つぎのような状態図も存在します。硫黄には2つの固相があり、斜方硫黄$${S_\alpha}$$と単斜硫黄$${S_\beta}$$で表示されています。炭素も黒鉛やダイヤモンドのように固相がいくつもあります。

ギブスの相律(成分数-相数+2)の本領は、このような多様な相をもつ物質で発揮されます。

多成分、多様な物質を吟味してこそ、熱力学が見えてきます。原田『化学熱力学』は、250ページと決して厚くはない本だけれど、ここまで豊富な熱力学が収まっています。

物理の人にとっては、物理の熱力学では見たことのない、物質の熱力学を知ることができます。

とはいっても、ほとんどの人にとって、化学熱力学に馴染みがありません。

現実世界(リアル)での熱力学の使い方が載っています。内容量と難易度バランスから『アトキンス物理化学要論』で留めるのいいでしょう。物理の人からすれば物理化学の熱力学は、熱力学とは別の分野にみえるほど、興味志向のベクトルが異なります。深入りすると物理に戻ってこれなくなり、統計力学に進めなくなります。『アトキンス物理化学要論』の統計熱力学の部も、統計力学のダイジェストとして、統計力学の手法がまとめられています。

重い本ですけど一読の価値あります。書店の棚で、隣にズレるか、背面を振り返るだけです。

最後に

エントロピーを知って、熱力学関数を導入していく際、

熱力学では$${U}$$,$${H}$$,$${F}$$,$${G}$$,$${S}$$,$${T}$$,$${P}$$,$${V}$$のパラメータが出てきます。$${\displaystyle\left.\frac{\partial \bigcirc}{\partial \Box}\right)_{\triangle}}$$を、パラメータの関係性を考えずに、個数を単純計算すると$${8 \times 7 \times6=336}$$パターン。

院生のときにTAしていたときに、教室のみんなが混乱していました。わたしも熱力学を習ったばかりのときは、まるで理解しておらず、関係式を書けませんでした。

これについては、早々にボルン図式 (熱力学の四角形)で暗記してしまった方がいいです。

書籍であれば、三宅哲『熱力学』,裳華房,1989のp.106に載っています。

熱力学の四角形を見るだけで、次の関係式を書けてしまうのです。
※ 実際に三宅哲『熱力学』の「四角形」を見ながら書いています。

$$
\begin{cases}
F =& U - TS \\
G =& F + pV = U -TS +pV \\
H =& U + pV \\
\end{cases}
$$

$$
\begin{cases}
dU =& T\:dS - p\:dV \\
dF =& -S\:dT - p\:dV\\
dG =& -S\:dT + V\:dp\\
dH =& T\:dS +V \:dp\\
\end{cases}
$$

$$
\begin{cases}
\displaystyle \left( \frac{\partial U}{\partial S}\right)_V= T, 
\quad \left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_S= -p \\
\displaystyle \left(\frac{\partial F}{\partial T}\right)_V= -S ,\quad\left( \frac{\partial F}{\partial V}\right)_T= -p \\
\displaystyle \left( \frac{\partial G}{\partial T}\right)_p= -S, 
\quad \left(\frac{\partial G}{\partial p}\right)_T= V \\
\displaystyle \left( \frac{\partial H}{\partial S}\right)_p= T, 
\quad \left(\frac{\partial H}{\partial p}\right)_S= V \\
\end{cases}
$$

ここは原田『化学熱力学』には載っていないので、追記しました。

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