見出し画像

[カレリアの口承伝統] 伝統詩歌ルノラウル:戦争の病は 気高きもの(Soria sotainen tauti)

タイトル画像:Akseli Gallen-Kallela (1865-1931)

フィン・カレリアの口承伝統でもっとも有名なのが伝統詩歌ルノラウルです。民族叙事詩『カレワラ』もこのルノラウルで表現された詩歌群であり、今ではその詩の形式を「カレワラ調韻律(Kalevala mitta)」と呼んでいます。

本日紹介するルノラウルは、1840年に初版が出された民俗歌謡選集『カンテレタル(Kanteletar)』より。戦争へ行く子を思い描き歌われた詩歌です。

戦争の病は 気高きもの

家族はたいそう悲しんだ
親族の皆が悼んだ
一族は嘆き崩れた
この身が戦争へ赴くことを
大きな砲台の口先へと
鉄の兵器の喉元へと
痛ましき戦場 いくさば
戦火の道で 我が身が倒れることを

だが家族よ 悲しむことはない
愛しき親族よ 悼むことはない
我が身は湿地に沈むことはなく
荒地に倒れることもない
この身がいくさで逝くときは
切り結ぶ刃に倒れるだろう
戦争の病は 気高きもの
いくさで逝くのは 気高きこと
打ち合う剣に倒れるは 尊きこと
若者は間もなく旅立ってゆく
苦しむこともなく 失せてゆく
老いやせることもなく 滅びてゆく

Soria sotainen tauti

Suku suuresti surevi,
Laji kaikki kaihoavi,
Heimokunta hellehtivi,
Saavani minun sotahan,
Tykin suuren suun etehen,
Rautakirnujen kitahan;
Sortuvan sotatiloilla,
Vainoteillä vaipuvani.

Vaan elä sure sukuni,
Kaihoa lajini kaunis;
Enmä silloin suohon sorru,
Enkä kaau kankahalle,
Kun minä sotahan kuolen,
Kaaun miekan kalskehesen.
Soria on sotainen tauti,
Soria sotahan kuolla,
Hemme miekan helskehesen:
Äkin poika pois tulevi,
Potematta pois menevi,
Laihtumatta lankiavi.

出典

所蔵:SKS(フィンランド文学協会)
採取地:1828年
採取年:ケサラハティ村
出典文献:『カンテレタル(Kanteletar)』2章265

この詩はエリアス・ロンルート(Elias Lönnroti)がユハナ・カイヌライネン(Juhana Kainulainen: 1788-1847)からケサラハティ村で採取したものです。カイヌライネンは”知恵者(Tietäjä)”と呼ばれ、ルノラウルやあらゆる知識を、やはり”知恵者”である父親から受け継いでいました。

さて、この詩歌は『カレワラ』の題材としても使われています。
『カレワラ』第36章で、戦に向かおうとするクッレルヴォを諫める母親への返答部分です。

『カレワラ』第36章より:

Kullervo, Kalervon poika,
sanan virkkoi, noin nimesi:
"En mä silloin suohon sorru
enkä kaau kankahalle,
korppien kotisijoille,
variksien vainioille,
kun sorrun sotatiloille,
vaivun vainotanterille.
Somap' on sotahan kuolla
kaunis miekan kalskehesen!
Sorea sotainen tauti
äkin poika pois tulevi,
potematta pois menevi,
laihtumatta lankeavi."

[ Kalevala, 36. 23-36 ]

クッレルボ、カレルボの息子は、
言葉を述べて、こう告げた。
「俺はその時沼には落ちない
また荒野に倒れもしない、
大鴉の住む場所に、
鴉の野辺に、
俺は戦場で落命しても、
戦乱の巷で滅びても。
戦さで死ぬのは素晴らしい、
剣戟の響のもとなら見事なもの!
戦さの病は立派なものだ。
間もなく息子は去ってゆく、
病むこともなく消えてゆく、
痩せることなく潰えてゆく。」

[ 小泉保 訳, 『フィンランド民族叙事詩カレワラ(下)』, 岩波文庫, 1976]

カレワラ調韻律について

カレワラやカレワラ調韻律についても、昨今は多くの方がまとめてくれていますので、ここにはその特徴だけを簡単に記しておきます。

・強弱4歩格という形式で、ほとんどの行が8音節
・2, 3, 4脚では語の始めの長音節は上昇位置に、短音節は下降位置に
・1音節の語は行の始めに配置されることが多く、基本語および派生語は行の後ろが多い
・頭韻:2語以上が同じ音で始まる
・対句法・平行体:同じ内容を言葉を変え次の行で繰り返す

つぶやき

最近、戦争に向かう若者に歌った泣き歌やルノラウルについ目が向いてしまいます。理由はいわずもがな、ですが、子を想う心、平和を願う気持ちはいつの時代も変わりません。

もとの詩歌は見事なまでに美しき頭韻、できるだけ訳でも韻をそろえようと・・・母音だけでも頑張ってみました。

私事ですが、会社が買収され移籍対応などでテンテコマイの日々。なかなかnote更新もできずにいました。個人的には「フィンランド企業に勤めるオフィスレディ」を名乗れなくなってしまったのが残念無念。プロフィールもそのうち書き換えないと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?