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地歌 新娘道成寺 4 歌舞伎「京鹿子娘道成寺」の第一段のセリフにみる鐘を恨む理由

3では、地歌「新娘道成寺」の歌詞の最初に出てくる、鐘に対する恨みの理由を、
歌舞伎「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」の第一段の説明をよんで知ることができました。

4では、その歌舞伎「京鹿子娘道成寺」の第一段のセリフをみてみたいと思います。

検索できた単語の意味をはさみながら記しました。
だいぶん下のほうになりますが、太字のところが鐘を恨みに思う所かと思われました。


月(つき)は程なく入汐(いりしお)の 
煙満ち来る小松原 
急ぐとすれど振袖の びらり帽子のふわふわと しどけなりふり


● 入汐… 引き潮、または満潮
● 小松原… 道成寺から近い場所
● しどけ… 服装や髪が乱れてだらしない

 
ああ恥ずかしや 縁を結ぶの神ならで 花の御山(みやま)へ物好き参り 味な娘(むすめ)と人ごとに笑わば笑え浜千鳥(はまちどり) 


● 御山(みやま) … 山を敬っていう語。おやま。
● 物好き … 一風変わったことを好むこと
● 浜千鳥(はまちどり)… 浜辺にいる千鳥。季語冬 


君と寝(ぬ)る夜の後朝(きぬぎぬ)を
思えば憎(にく)や暁(あかつき)の
鐘もくだけよ撞木(しゅもく)も折れよ
 


● 後朝(きぬぎぬ)… 共寝した男女が朝になって別れること。その時刻
● 暁(あかつき) … 夜明け前。未明。「あけぼの」よりやや早い時刻をいう
● 撞木(しゅもく)… 鐘をつく仏具


さりとてはさりとては 縁(えん)の柵(しがらみ)せきとめて 
恋をする身は浜辺の千鳥 夜ごと夜ごとに袖(そで)絞る 



● さりとては … そうかといって。それにしても。
● 柵(しがらみ)… 川の流れをせき止めるため、杭(くい)を打ち渡し、竹・柴などを横にからませたもの。比喩的に物をせき止めるもの、物事をひきとめるものをいうことも多い。
● 袖(そで)絞る … 涙でぬれた袖をしぼる。ひどく悲しんで泣くさま。


しょんがえ 可愛(かあい)可愛と引きしめて 
しょんがえ 交わす枕のかねごとも 田の面(も)に落つる雁(かり)の声


● しょんがえ … 俗謡(ぞくよう)などの終わりにつけるはやしことば。しょんがいな。
しょんがえ節は、流行歌の一つ。江戸時代から明治時代までうたわれた。囃子詞(はやしことば)に「しょんがえ」があるので曲名となった。
● 可愛(かあい) … 1.愛らしく感じるさま。いとおしく思うさま。
2.かわいそうに思うさま。ふびん。
● かねごと… 予言、兼言。かねて言っておく言葉の意。前もって言う約束の言葉。あるいは未来を予想していう言葉。
● 田の面(も)に落つる雁(かり) … 田の面の雁(たのむのかり)、は田に下りている雁。和歌などで、多く「頼む」に掛けて用いる


ただ我をのみ追い来るかと 科(とが)なき鐘を恨みしも 
この罪科(つみとが)の数々を 読めども尽(つ)きじ真砂路(まさこじ)の
急ぐ心は花(はな)早き
 道成寺にこそ着きにけり 道成寺にこそ着きにけり   
  

● ただ我をのみ追い来るかと … 男が自分だけをひたすらに追いかけてくれると思っていたのに、ちがって薄情にされた、ということかもしれません。
● 科(とが) … 欠点、過失、罪
● 読む … 1.順に数える。数を数える  2.声に出して唱える
● 真砂(まさご)… 細かい砂。砂の美称。
● 花 … 梅の花、桜の花。また、実=誠実に対比させて不誠実な心、移ろいやすい心、という意味もあり。


歌舞伎「京鹿子娘道成寺」第一段、道行(みちゆき)より、鐘にたいする恨みを語る、白拍子花子のセリフでした。

砂浜の続く景色の中で、振り袖姿でやや急ぎ歩きながら、男女の間の恨みごとを、語っている場面なのですね。

きれいな景色が想像されます。


           

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