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Webtoonとマンガ、企画の考え方はどう異なるのか?(前編)

あけましておめでとうございます。
20年勤めた講談社を退職し、今年から「Studio Zoon」でWebtoonに挑戦することになりましたムラマツです。

昨年末、そのことを退職エントリに書いた結果、予想以上の反響で、noteをアップした2日後にはAbemaプライムでEXITさん達と共演しているという超展開。スピードに身体がついていかず口唇ヘルペスができましたが、こんな個人的な話をたくさん読んでいただき、誠にありがとうございました!

さて、前回の記事で「マンガ編集者の目線でWebtoonについて発信していきます」と書いたのですが、今回から「マンガとWebtoonの連載企画の違い」について考えていきたいと思います。

というのは。前回の記事がきっかけで、たくさんの方から企画を送っていただいたのですが(ありがとうございます!)、それらを見ていて「これはWebtoonの状況を知ってもらってからの方が企画の精度が上がるな!」と思ったからです。

現在マンガを描いている方は「今ああいう作品がウケているんだな」とか「あの編集部はこういうカラーだから自分に合うかも」といった「マンガの土地勘」を持っていて、それを元に戦略を立てられていると思うんですが、Webtoonについては「土地勘」を持っている方も、それについて語られること自体もまだ少ないと思うのです。というわけで、まずは自分の知っている範囲で「現在のWebtoonの地形」について書いてみます。「Webtoonはこういうジャンルが売れるで!」とかではなく「マンガと比べるとこういう違いがあるんで、僕はこう考えています」みたいな話になると思います。

前後編に分けてまずは「Webtoonの状況編」をお送りします。よろしくお願いします。

※以降、白黒でヨコ読みの漫画のことを「マンガ」、カラーでタテ読みの漫画のことを「Webtoon」と呼びます。例えば「電子マンガ」は、白黒でヨコ読みの漫画の電子書籍のことを指します。


Webtoonはマンガよりも未成熟である

まず一番大事だと思うことを最初に書きます。「Webtoonはマンガよりも未成熟である!」……今日はこれだけでも覚えて帰っていただけますと幸いなのですが「未成熟」とは具体的にどういうことかというと

・市場規模が(まだ)小さい
・配信先が(まだ)少ない
・認知度が(まだ)低い
・ウケるジャンルの幅が(まだ)狭い
・ユーザーが(まだ)ライト層中心である
・表現方法が(まだ)未開拓である
・編集者や編集部が(まだ)未熟である
という感じです。さて、ひとつひとつ見ていきましょう。

市場規模が(まだ)小さい

伸長著しいと言われるWebtoonですが、2022年末現在の国内の市場規模はマンガ(単行本と雑誌の紙+電子)の約10%程度です。更に、売上上位の多くは韓国作品。なので、「Webtoonでリッチになったぜ!」という方は国内にはまだそんなに多くはいらっしゃらないと思いますが、今後も市場は大きくなり続けると思うので増えてくるのかな、と。一方、マンガも近年は伸び続けているので、マンガ:Webtoonの市場規模の比率が大きく変わることも向こう数年はないのかな、と思ってます。

配信先が(まだ)少ない

現在Webtoonを読める場所は、ピッコマ、LINEマンガ、comicoを始めとしたいくつかのマンガアプリと電子書店に限られています。多くの作品が独占配信なので(そうでないと作品の十分な露出が約束されず売上が立ちづらいため)、「ある作品を読むにはそのアプリをDLするしかない」ということが多いです。また単行本は一部のヒット作を除いて基本的には出ません。単行本が発売されれば全国の書店及び電子書店に並ぶマンガの世界と比べると、ハッキリと出先が狭いですよね。

あと単行本が基本出ずにアプリ課金で売上を立てるという構造上、Webで無料で読める部分が少ないです。Twitter使ってたら無料公開マンガのURLが流れてきて読んだら面白かった!という体験って結構あると思うんですが、Webtoonってあんまりないですよね?マンガは無料で読んでもらっても面白かったら単行本を買ってもらえるのでWeb無料公開のメリットがあるのですが、Webtoonの配信側としてはなるべくアプリで読んで(課金して)欲しい。だからアプリユーザー以外、Webtoonに触れる機会が作りづらい。この辺はジャンルとして課題がある部分だと思うのですが、今後様々なプラットフォームが新たに参入してくるようなので、まだまだ状況は流動的。作品と作家にとってより良くなることを願っていますし、たぶん良くなると思います。

認知度が(まだ)低い

以上のような状況なので、まだ一般への認知度が低い。メディア化も、韓国の作品中心に実写ドラマ化は結構されていますが、マンガのようにアニメ化される作品はまだ少ないです。市場拡大と作品内容の充実に伴って、今後はWebtoon原作のアニメ化も増えていくと思います。

ユーザーが(まだ)ライト層中心である

Webtoonはライト層を中心に楽しまれています。その理由としては
・基本はアプリで読むものなので、アプリの宣伝で獲得したユーザー=ライト層が多い。
・ライト層にとってWebtoonはとっつきやすく読みやすいが、ヘビー層であるマンガ好きにとってはまだ抵抗がある。
からなのかな、と。

Webtoonは若い人が読むイメージもありますが、20〜30代ユーザーが中心で中高年のユーザーもかなりいます。ライト層=若い、というわけでもないのです。実際にこないだ実家に帰った時にうちの母親(70代)がWebtoonを読んでいてビビりました(まさに広告で知ってアプリをDLして読み始めた、とのこと)。

ライト層とはつまり「ヲタクじゃない人」とも言えるわけですが、僕はWebtoonヲタクという人はまだ日本には存在していない、くらいに思っています。「ヲタクの登場はジャンル成熟の証」と言われますが、まだそこまで成熟していないのかな、と。

ウケるジャンルの幅が(まだ)狭い

ライト層がライトに楽しめる作品が多いので、ウケているジャンルもまだ狭いです。列挙すると「異世界ファンタジー」「バトルもの」「ロマンスファンタジー」「悪役令嬢もの」「青春恋愛もの」「不倫もの・復讐もの」「サスペンス・ホラー」「バイオレンス」「エログロ」…などなど。出版関連の方はこれらのジャンルを見てピンと来る方もいらっしゃると思うのですが、ほぼ電子マンガの売れ筋と一致しています。その理由と背景をざっくりと解説しますと…

2000〜2010年。雑誌の力が弱まるにつれ、マンガの売れ筋は年々高度化しマニアック化していきました。一部のメジャー誌作品を除くと「このマンガがすごい!」のランキングと作品の売れ行きが一致しているようなイメージ。それが2012年以降、急にそれまで売りづらかった上記のジャンルが売れるようになりました。電子マンガ市場が伸び、各電子書店が新規ユーザー獲得のために大量の広告を出稿した結果、それまでマンガを読んでいなかったライト層がどっと流れ込んだことが原因です。ライト層の読者は高度なマンガを楽しむリテラシーがまだなく、パッと見で気になる内容で、わかりやすく読みやすく、読み始めるとやめられない作品を好み、そのために売れ筋に変化が起こったのです。そして、2022年現在。電子マンガの売れ筋は依然 上記のジャンルが強いものの、かなり紙マンガの売れ筋と一致してくるようになりました。長い時間をかけて、ライト層が読者として成熟したのだと思います(もちろん紙から電子に切り替えたマンガ読者が多数いたことも大きいです)。

今のWebtoon市場は2012年頃の電子マンガ市場と似た状況にある、と思います。ライト層がどっと流れ込んで、ライトに楽しめるわかりやすい作品を読んでいる。なので、Webtoonの売れ筋が(過去の)電子マンガの売れ筋と一致してくるわけです。

youtuberも初期は子供向けが中心で「動画は1本2~3分以内!」とか言ってましたが、その後は幅広いジャンルの尺の長い動画もたくさん見られるようになりました。新しい市場は常にライト層がライトに消費することから始まり、時間をかけてユーザーも消費傾向も成熟していくーーこの歴史に則って現状は狭いWebtoonの売れ筋も、ここから少しずつ広がっていくんだと思います。あくまで少しずつとは思いますが、ロマンはありますよね〜。

表現方法が(まだ)未開拓である

おそらくですが、マンガをずっと描いてきてWebtoonに初めて挑戦する作家さんは「表現できる幅がマンガより狭い…?」と感じるんじゃないかな、と想像しています。マンガだと見開きで迫力ある演出もできるし、ページのめくりで「わっ!」と驚かせることもできるのにな〜…Webtoonにしかできないこともあるけど…差し引きするとマンガのほうがやれること多いような…、みたいな。

これは、マンガには先人たちが試行錯誤して「本という制約の中での表現」を開発してきた歴史があるのに対して、Webtoonにはその積み重ねがまだ足りないからなんじゃないかな、と。マンガは「このシーンはあのマンガのああいう描き方を参照しよう」みたいな参照元が無数にありますが、現在のWebtoonは少ない参照元の中で自ら新たな表現方法を模索し開発していくフェーズなんだと思います(先日、Abemaプライムで「まだWebtoonには手塚治虫が生まれていない」となんかカッコイイことを言ってしまったのですが、こういう意図でした)。

編集者や編集部が(まだ)未熟である

そして、これは作家さん同様に編集者や編集部の側にもノウハウが蓄積していないということでもあります。前の記事でも「10年くらいかかる編集者の育成を待てるのが講談社のすごいところ」と書きましたが、日本ではWebtoonを始めて10年経ってる編集部って最古参のcomicoさんくらいと思います。やっぱりマンガ編集部とは蓄積が違うし、作家さん目線の安心感もだいぶ違うでしょう。あと、Webtoonはカラーリングなど工数が多く製作費がマンガの2~3倍ほどかかってしまうのでマンガほど気軽にトライ&エラーができないところもネックです。

ただこれは肌感覚なのですが、おそらくマンガのネーム作りを習得するよりWebtoonのネーム作りを習得する方が簡単だと思います。というか、ページ単位でコマを構成し、ページのめくりや視線誘導やリズムを計算し、状況が伝わる絵を入れて面白くしていく…というマンガ作りが普通にめっちゃ難しい!!!! そりゃ編集育つのに10年かかるよ!!!!と。それと比べるとWebtoonは視線誘導もシンプルでコマ構成にページという制約がない分マンガに比べるとまだ簡単なので、ノウハウ蓄積にマンガほどの時間はかからないだろうと想像していますし、実際にノウハウの蓄積したスタジオさんも複数存在しています。(僕個人の話で言うと、マンガのことをいったん忘れて習熟する必要があるので大変なんですが)

Webtoonがマンガに優っている点

ここまで書いて「オイオイ、どれも現状マンガに負けてるやんけ。じゃあ、なんでお前はマンガやめてWebtoonに飛び込むんや?」というツッコミが入るのですが、Webtoonの方が優っている点もあります。

誰にでも読める

多くの日本人にとってマンガは幼少の頃から親しんでいて読み方を熟知していますが、実はちゃんと読めるようになるのに結構な修練が必要です。それを実感したのが、4〜5年ほど前。講談社に韓国の修学旅行生が見学に来ていたので、「おっ、これはWebtoonネイティブと話すチャンス!」と声をかけ、日本のマンガを数ページ読んでもらいました。それは「昼の室内で男女が会話しているシーンが続いた後、ページをめくると夜の夏祭りに場面転換しているシーン」だったのですが、読んだ韓国の高校生が
「なんで急に祭りのシーンになっているの?さっき部屋にいた男女はどこに消えたの?」
と異口同音に質問してきました。つまり、ページをめくって別な場面になっている→それは場面転換や時間経過である、というマンガの「お約束」を知らないのです。逆にいうと、それらの高度な「お約束」をマンガを読める人は無意識に理解しているのです。

「なんで白黒なの?」という素朴な疑問もありました。Webtoonはもちろんのこと、スマホでカラーの写真や動画に日々触れている彼らからすると白黒の絵はギョッとする、と。これは聞いた話なのですが、カラーのアメコミに慣れたアメリカ人の多くは、白黒の絵にはホラーというイメージがあるらしく「怖い」と思うらしいです。あと日本のマンガは右開き・縦書きですが、多くの国で本は左開き・横書きで作られている、という障壁もあります。

そんなこんなで、海外の方や、マンガを読む習慣を持たない方にとって、実はマンガは「楽しむのにけっこう慣れが必要なもの」なんですが、その点Webtoonは読むのに慣れが必要ない。カラーで、「お約束」が少なく、読む方向の問題もないし、スマホで絵や文字が小さくならないのでスッと受け入れられやすい。これがWebtoonがライトユーザーに強く、海外展開がしやすく、市場の伸びが著しい理由だと思います。Webtoonはその媒体の性質上、マンガ以上に世界のコミック人口を増やす力がある、とも言えるかもしれません(ちなみに。マンガもフランスやドイツなどヨーロッパの国々でヒット作は数十万部単位で売れるほど根付いてますし、近年はアメリカでも著しく伸びていて、海外への浸透は目覚ましいものがあります)。

狙い目である

2つ目はまたまた完全に僕の肌感覚ですが、市場規模はマンガの方が遥かに大きいけど、マンガ界はクリエイターの層がとんでもなく分厚いので、総合的に見てWebtoonの方がまだ狙い目である、という点です。すいません、これなんの根拠もない主観で言ってます。まあ、そう感じてしまうくらいマンガへの才能の集まり方がエグい、という話です。日本の他のどのエンタメジャンルよりも才能が集まっていると思います(前回の記事で、日本の漫画家の5%がWebtoonに参加したら中韓に追いつける、と言ったのはそう思っているからです)。

「いやいや、全然ソースないやん」と思われるかもしれませんが、僕もまったくの勝算なしに講談社は辞めないので、その事実をソースっぽく捉えていただけると……幸いです!

未成熟である

最後に3つ目ですが「まだ未成熟であること自体が美点」と思ってます。「歴史の積み重ねがWebtoonにはまだない」と書きましたが……ということは裏を返すと!今からでもかつてトキワ荘に集ったレジェンドのようになれるし、まだ誰も獲っていない未知のトロフィがそこら中にゴロゴロしているわけですよ!

例えばの話、マンガで本格医療モノを連載してヒットしたら、それはそれで非常にスゴイことなんですが、仮にWebtoonで本格医療モノのヒット(※)という前例のないことを実現できたとしたら、たぶんWebtoonへのイメージやその表現方法、ユーザー層やユーザー数に至るまで、ジャンル自体に大きな影響を与えると思うんです。1作品の成功がジャンルの成熟に大きく寄与してくるわけです。

どうですか?ワクワクしないですか?
「するぜ!」というあなた!
たぶんWebtoonに向いてますんでご連絡ください!

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※『リターン 〜ある外科医の復讐』『外科医エリーゼ』などのWebtoon作品はヒット作と呼べるのでは?というご指摘受けました。確かに「前例のないヒット」の例えとしては不適切だったと思いますので、補足いたします。

……で、Webtoonの企画をどう考えるか?

最後ちょっと話が逸れちゃいましたが、じゃあ、こんな状況を踏まえてWebtoonの企画をどう考えるか?については、長くなったので後編でお伝えしたいと思います。ではでは、引き続きよろしくお願いします。

担当していた作家さんにお正月似顔絵イラストいただいちゃいました。脈絡なく貼ります。


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