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まゆみちゃんのはなし(1)

まゆみちゃんの夢を見た。
久しぶりに見た、はっきりとした夢だった。

私たちは小学4年生でランドセルをしょっている。私は紺色のプリーツスカート、まゆみちゃんは膝より上の薄いグレーのキュロットスカートをはいている。私のスカートは分厚くて、裏にスルスルの布がついていて歩くとそれが足にくっついてくる。ママが選ぶお洋服はきれいだけどいつも動きにくい。まゆみちゃんはいつでも木登りや鉄棒ができるようにキュロットスカートをはいている。夏も冬もあんまりかわらない。変わるのはジャンパーを着るか着ないかくらい。

私はまゆみちゃんを見つけると、いつものようにうれしくて「まゆみちゃん、まゆみちゃーん!」と何度も呼んでしまう。そしてまゆみちゃんがゆっくり振り向くと、うれしさの余り駆け出してしまうんだ。普段走ることがきらいな私がまゆみちゃんを見つけた時だけはがまんできずに駆け出してしまう。まゆみちゃんはそんな私を見て無言で優しく笑ってくれる。その静かな笑顔で私はいつもたちまちしあわせな気持ちになってしまう。雪が道の端っこに少し残った帰り道、私はタイツを履いた足にまとわりつくスカートの布に負けないようダッシュする。

私の大切な初恋の人のとなりまで。

まゆみちゃんは小学生の私にとってたった一人のヒーローだった。人見知りで内弁慶の私は小学校入学に合わせて引っ越しをしたので近所にお友達がいなかった。新しく建てたおうちは広くてきれいでうれしかったけど、それより一緒に帰ってくれるお友達が欲しくて毎日学校に行きたくない、と半べそをかいていた。勇気を出して一緒に帰ろう、と声をかけた同級生はひそひそとクスクスを繰り返しては走って逃げていった。私はこの世の終わりくらいの絶望の中で小さな石をけることだけに集中して、泣かないで家にたどり着くことに必死になる毎日だった。

「一緒に帰る人いないの?」

はじめて誰かに声をかけられて、私はすぐに返事が出来なかった。びっくりして、涙がでないようにそうっと振り返ると、私より背が低くて、活発そうなショートカットの女の子がいた。名札に1ねん うえのまゆみと書いてあったので同級生だとわかった。

「一緒に帰る?」

多分私は今にも泣きそうな顔をしてたんだと思う。まゆみちゃんは、返事ができないでいる私の顔を覗き込んでやさしく聞いてくれた。

「……」うなずくのがやっとだった。
「じゃあ、行こう」

まゆみちゃんは何でもないみたいに普通に歩きだした。まゆみちゃんのおうちは学校からすぐで、一緒に帰ったのは5分くらいだった。ほんの少し話をして、私はうん、とか、そう、とかしか言えなかったけど、まゆみちゃんのおうちの前でバイバイする時「また明日ね」って言われたのが死ぬほどうれしくて、初めておうちまで走って帰った。石はけらなかった。花や、落ちてるガラスとかも拾わなかった。下ではなく前を見て歩いて帰った帰り道は昨日とは全然違う道にみえた。その日からまゆみちゃんは私のヒーローになった。

夢の中で私とまゆみちゃんはうちで私の部屋でおしゃべりをしていた。まゆみちゃんが男の子たちとキスしたはなし。キスした男の子はいっぱいいた。みんな学年でモテてる、目立つ男の子ばかりだった。あの子とこの前キスしたんだ、この子とは抱き合ったけどキスはまだしてない、とか。私はそういうことにまだ無知でキスなんて小さいころお父さんにされてやだった、くらいしか思った事がなかったから、まゆみちゃんがたくさんの男の子とキスとか、くっついた、とか話すのを不思議な気持ちで聞いていた。まゆみちゃんはあった事をシンプルに話すから、細かいことはよくわからなかったけど
いつ男の子達と会ってるのかな。いっつも私と一緒に帰ってるのにな。
そんなことばかり考えながらまゆみちゃんの
ぽつん、ぽつんと話す沢山の男の子の話をびっくりしながら聞いていた。

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