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そういう好きじゃない。

昔から言いたいことは言わずに一回我慢するタイプだ。考えもしないですぐに口から出るときはもの凄く怒ってる時だけ。そうやって少なからず自分をひた隠しにし、殺し続けてきたけど今も変わらず殺し続けてると思う。

最近お気に入りの店員さんがいる、本屋の。地元の駅の大型店舗で、ジャンルごとにフロアが違く、レジも異なっている。最初に気づいたのは欠かさず買っているマンガを買いに行ったとき。レジに一人、凄い野暮ったい人がいる。そこの本屋は基本白のワイシャツにエプロンといういかにも本屋らしいスタイルなのだが、その野暮ったい店員さんは前髪が長く、眼鏡、他のスタッフとは暇なときでも喋らないというわたしの中で株が爆上がりの人。名前は名札でわかっているので、これからは真野さんと呼ぶ。

真野さんの真摯なレジ接客と見た目と反してコミック売場にいるというギャップから、ずっと声をかけたくてうずうずしていた。けれど観察していると、真野さんは基本ずっとレジにいて売場で品出しはしないらしい。そうなるとレジに並べば必然と話はできるけど、周りの目が痛すぎる。特に真野さんのことを考えればわたしが話しかけたことで周りのスタッフから冷やかされるのはとても可哀想。

とここまで書いたのが1週間くらい前。ついに一昨日、声をかけたのだ。今思い出しても自分が気持ち悪いなと思ったのでここにひたすら書き連ねていく。

コミックフロアに行って真ん中にあるレジを確認。一番端っこのレジに真野さんをがいた。誰も並んでいなければスムーズに真野さんがいるレジに当たる。いることを確認して、ずっと買っていなかったオカヤイヅミさんのものするひとの3巻と、ひの宙子さんのグッド・バイ・プロミネンスを手に取る。ちなみにどちらもめちゃくちゃ面白かった。そしてまっすぐ真野さんのいるレジへGO。真野さんはいつもの安定した接客なので、客であるわたしが近づけば絶対にいらっしゃいませ。と言って迎えてくれる。カバーをおかけしますか?と聞かれて普段はつけないけど、この日は時間稼ぎのために片方だけつけてもらう。そうすると真野さんがもう片方のビニールはお取りしてよろしいですか。と聞いてくれる。はずしてください。真野さんがお会計をして丁寧にカバーをかけてる間、無言の瞬間が訪れた。ここにきて少しチキったが意を決して声をかける。

あの、最近漫画は読みましたか?

・・・(3秒の間)

あまり話しかけられない所為か、まず自分に声をかけられたと思っていない真野さん。

わたしですか?

そうです。

もうこの時点で声をかけなければよかったとめちゃくちゃ後悔し始める。そして自分のことを僕ではなく、わたしといった真野さんに好感度がさらに上昇する。

おすすめの漫画、探してて。最近読んだ漫画で何かありますか。

そうですね。すごい、ミーハーになってしまうかもしれないんですけど、チェンソーマンを読んで、あれ、すごいおすすめです。

わかりました、今度買います、ありがとうございます。

その場を足早に離れ、動悸が止まらないと思いながらバス乗り場へ急ぐ。もうこの時点で自分がめちゃくちゃキモいやつだと思い、もう真野さんに会えないと後悔しながら帰る。

しかし、翌日職場にいた先輩たちにざっくりとあらましを話したところ、

いや、チェンソーマン買うべきでしょ!!真野さんの目の前で買ってやれよ!!

という意見が多く、さらに気持ち悪くないと思うという、からかいなのか励ましなのかわからない檄が飛ぶ。だがわたしは気づいたのだ。たぶん、けど確実に、わたしより真野さんは年下なのだ。勤務体型や話し方でなんとなく学生アルバイトなのではないかと察する。そして余計に話しかけづらくなった。友達になりたいだけなのに、異性というだけで何故こんなにも緊張するのだろうか。今はSNSで一度も会ったことない者同士が初めて会ってもめちゃくちゃ仲良くなる時代なのに、面と向かって話して友達になるというのはなんでこんなに難しいのだろう。

ひとまず別の店舗でチェンソーマンの1巻を買い、2巻目を真野さんがいるレジで買おうと決意し、意外とレジに行ってもわたしのことを覚えていないのではという淡い期待を胸に秘めている。チェンソーマン、面白くなかったらどうしよう。




#日記 #エッセイ #チェンソーマン #日常

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