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ピアノの音

スーパーマーケットでお買い物をしてから車に乗ってスマホを見たら何度も着信が入っていた。引っ越しのあれこれで支払いがまだだとか、そんな電話かなと思ったら、ピアノ調律師の男性からだった。
1ヶ月前に予約していた調律の日をすっかり忘れていたのに気がついて「すみません!すぐ戻ります!」と返事をして急いで帰宅した。
「ごめんなさい!忘れてました!」と謝ると、寒い中30分以上も待っていたのに「全然!全然!」と怒っている様子は全然なく、むしろにこやかな表情。ニコニコしながら「じゃぁ調律にとりかかります。」と、まるでドラマを見ているようだった。権利とか主張に塗れている今日この頃、きっと待っている時給を請求されるだろうなと思っていたから、作り話のように思えたのだ。

彼は流暢にピアノを弾きながら、2時間かけて調律してくれた。
終わってから「ピアノされていたんですか?」と聞くと、「中学生まで習っていたんですが大人になってお金欲しさに売ってしまいました。でもピアノに携わりたくて調律の仕事をするようになり、今は売ったことを後悔してます。このピアノはちゃんとケアしたら長く使えますよ。」と答えた。
引っ越しのたびにピアノを連れてきて良かったなと、自分のピアノが生き物のように思えた。

お店を経営していると、「お金を払うからお願いします!」が基本だからつい、迷惑をかけたらお金を払わなくっちゃって思ってしまう。自分はこの調律師みたく好きで始めたことなのにスムースに物事を進めるにはそうはいかない。
今回、お店を投げ出したくなったのも、そのあれこれがとっても面倒になってしまったからでもある。支払いができなくなったら終わりだけれど、自分の魂の火があるうちは、形が変わろうが続けていくつもりだ。

今のパンのラインナップは終わりますと書くと、「閉店するんですか?」と質問をよく受けるけどパン部門のやりかたを変えていくということなので、閉店ではない。MIA'SBREADは自分から生まれたものなので、作ることはできるし消えることはないけれど、常時お店に並ぶことはなくなるということは確実。
自分がめっちゃ頑張ればなんとかなるのだろうけど。。
日々考え中でうまくいくかどうかはわからないけれど、新しい形を作れたらいいな。

前に何度も弾いた曲を弾いてみる。慣れ親しんだ音。
自分のピアノの音で泣けるってやつ。




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