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むろなが供未 花形怜 『バリスタ』 を読む

『バリスタ』というマンガ。10巻完結なんだが、どうも作者の人、最後まで物語を見通して描いた感じがしないんだよな。 イタリアにルーツを持つ主人公のバリスタ、コウキが主人公。 コウキの母もかつてイタリアで修行したバリスタで、コウキを身篭り帰国して父のいない息子を育てる。コウキにとって、本場イタリアでバリスタ修行をすることは、母の仕事の継承と同時に父親探しに連なる道でもあり、確かに途中までそれが漫画のテーマでもあったはずなのだが、3巻目くらいで、イタリアどうでもよくなっちゃった感じなんだよな、、、。多分当初の構想としては、日本の大手に引き抜かれて日本からバリスタ日本一を決める大会で優勝、その後イタリアでの世界大会に、帰国して掴んだ日本の仲間と共に参戦、現地コーヒー界の大物である父親とのコーヒー対決みたいな風になり、最終的にパパ、ミーツ息子よ!的なオチになると思ったのだが、途中イタリア展開を放棄してしまった。 多分、イタリア由来のカッフェマキアートとか、アレンジコーヒーよりも、スペシャリティコーヒーブームが起きちゃったので、そっちに合わせてふったんじゃないかな。話を。前半まではバリスタの腕やアレンジが主体だったマンガの流れを、豆が主体となるように振り直す。ようは、エスプレッソと、アルコールを中心にしたイタリア式のアレンジを話題に展開されていたのが、後半から明らかにカッピングとか豆の鮮度と老朽化の話、ストレートオリジンとブレンドの違いとかゲイシャ種なんかの希少種の説明、なんでフレンチプレスでコーヒーを入れるのか、あたりを中心に、ガラッと変わってしまうのだよね。物語の半ば、世界大会に臨む寸前の主人公をイタリアに渡らせるのをやめ、日本にとどまらせ、日本で自分の店を開業する流れに転換する。そこで繰り出した登場人物が、その名も「要くん」という焙煎士なのだ。要くんは繊細で(最近覚えた言葉で言うとHSP)オタクでツッコミ役もこなすし、いろんな設定背負って大変なのだが、彼がこの話の登場人物の中で一番生き生きして愛着もって描かれてるし、引きこもりから、若者へと成長する過程もとても丁寧に無理なく描かれてる。何より、主人公が気付かないような、彼の連れてくる人間たちの微妙な心理状態を一番に気がついて指摘しつつ、物語の心理的なドラマ部分を引っ張ると言うあたりに、紋切り的なオタクも描き方で無い愛情があると思うんだよね。 だけど、途中で物語の方向性が変わってしまって割を食ったのが、主人公の恋人ポジ役の女二人。一人は当初に恋人としてあてがおうと思っていた、留学経験のある医者の卵(この設定、いずれ物語をグローバル展開させるときに無理がないようにしくんどいたんだろうなあ。主人公日本に留まっちゃったから全然この設定生きなかったよ、、、。涙。)幼馴染みのサヨちゃんで、もう一人は大手コーヒーショップの上司の高遠さん。イタリア中心に物語展開するならサヨちゃんのまんまいったんだろうけど、どういうわけだが日本主体で物語を進めるあたりで、主人公、高遠さんに唐突に発情。その場の高まりで今までの流れを全て無視してキッスなどをしてしまうという、、、。構成的になんか急な話ですねと思うのだが、これはよく言う、キャラクターが勝手に動き出すという展開だろうか。(けどこれって、単に作家さんが最後まで見通して書けずに破綻していくときの言い訳な気がする。不思議なことに破綻しても面白いんだけど)サヨちゃんは最初からよくできた女の子で、中身も大人だったのだが、主人公との恋が叶わないあたりからだんだん子供がえりというか自分に素直なわがままさが出始め、逆に高遠さんは、自分に対して素直になっていくことで刺が取れていい女になっていく。(あれ結果として二人とも魅力的になっとるな。この辺がおそろしい所よ。)しかしサヨちゃん、主人公に振られてかわいそうだと思ったのか、要くんといい感じになりそうな伏線あり。この辺、作者の、飽きた愛人を部下に下げ渡す的な救済があって笑ってしまった。作者って物語神様というか、創造主だよなと思って。

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