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『洋書天国へようこそ』補遺ノート

宮脇孝雄著
アルク出版刊
2019年7月26日初版 

 6月17日に投稿したノートの補遺として――。

 レイモンド・チャンドラーの『Farewell,My Lovely』に次のような場面がある。主役は私立探偵フィリップ・マーロウ。チャンドラーの文体は、晦渋だが面白い比喩が多い。

 彼が自動車でロサンゼルスのサンセット大通りから郊外に向かっている時の光景――
〝On the other side of the road was a raw clay bank at the edge of which a few unbeatable wild flowers hung on like naughty children that won’t go to bed.〟

〇『洋書天国へようこそ』の著者の宮脇孝雄の直訳
〝道路のもう一方の側にはむき出しの粘土の土手があり、その端に、どうしても寝ようとしない聞き分けのない子のように、最強の野草が何本かしがみついていた。〟

〇清水俊二訳(『さらば愛しき女(ひと)よ』)
〝もう一方は土手になっていて、ところどころに、野生の花が宵っぱりの子供のように咲いていた。〟

〇村上春樹訳(『さよなら、愛しい人』)←ようやく見つけました!
〝道路の反対側はむき出しの粘土の土手になって、しぶとそうな野生の花がいくつか、ベッドに行くのを拒否する強情な子供たちのように、端っこにしがみついて咲いていた。〟

 さて読者の皆さん、どれがお好みだろうか?

 もう一つ、『洋書天国』を『洋酒天国』と見間違えた理由だが、私の好きな作家の一人、開高健が壽屋(いまのサントリー)の宣伝部に勤務していたときに、創刊した広報誌の名前である(すでにおよそ半世紀前に廃刊)。当時専務だった佐治敬三(のちに社長)が『洋酒天国』と命名したそうだ。だからおそらく開高健のエッセイか何かを読んだ時に記憶に残っていたのだろう。

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