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『そして生活はつづく』ノート

星野源著
文春文庫

 数か月前のことだが、みるともなくテレビをつけたら、星野源がエプロンがけの女性の格好で出演していて、その見かけと醸し出す雰囲気に全く違和感がないので驚き、つい最後までみてしまった。NHKの「おげんさんといっしょ」という番組で、なんとこれまた松重豊がわけのわからない衣装で出ており、この二人のマニアックなやりとりが面白かった。
 私は松重豊の「孤独のグルメ」のファンで、最近の再放送もかかさず録画して、夜寝る前にみているほどだ。

 その星野源の本を本屋で見つけて、書名に惹かれて読んでみた。彼は一言で言えば「日常生活ができない人」なのだそうだ。

 最初に出てくるエッセイは、「料金支払いはつづく」というタイトルで、携帯電話の料金支払い請求書が部屋で行方不明になり、挙げ句の果ては支払い滞納通知書と再請求書までなくし、携帯電話は使えなくなった(当たり前だ!)話だ。
 仕事仲間から口座振替にすればいいとアドバイスされるが、昔から星野は口座振替のシステムを忌み嫌っているので、それは絶対にしない。
 その理由について彼は、「良いものと引き換えにお金を払う。それはとても人間的で素敵な行為だと思う。美味しいご飯を作ってくれた人には、満足させてくれた分だけしっかりとお金を払いたい。しかも、直接にだ」ともっともらしく書くのだが、〝口座振替が嫌い〟というのとどう関係するのかよくわからない(笑)。
 著者は、〈請求書をなくし料金支払いができない→携帯電話が使えなくなる→口座振替をすればよい→口座振替は嫌いだからしない→再請求書をなくす→携帯電話が使えなくなる〉といふうに論旨がずれつつ無限ループを繰り返すのだ。

 星野は先ほどの仕事仲間に、あなたみたいな人を「残念な人って言うんですよ」といわれ、反問すると、外側はしっかりしているのに内側がダメな人のことで、仕事はキッチリやるのに、身の回りの生活が全然できない人のことだと指摘され、グウの音も出ない。
 ちなみに星野はクレジットカードを持っていないそうだ。

 表題作の「生活はつづく」では、池袋駅と新宿駅で30分の間に4人の占い師から、「手相の勉強をしていまして……」と声をかけられ、「俺ってそんなに悩んでいるように見えるのか?」と不安と疑問でいっぱいになる星野源がいる。
 そして、つまらない毎日の生活をおもしろがること。これがこのエッセイのテーマだ、と書きながら、「でも、私は生活というものがすごく苦手だ」と書くのだ。

 このあとの「子育てはつづく」は、星野源の子育ての話ではなく、自分の母親の子育て(子とは星野源です)の話である。彼の母親は自分のことを「ようこちゃん」と呼ばせ、あるとき彼が呼び方を「お母さん」に変えてみると、「お母さんなんかじゃないよ!」と真剣に怒るのだ。そして近所の子にまで、「美人のようこちゃん」と呼びなさいというのである
このほか母親の面白いエピソードが満載で、「うちの親は自分の子供を使って遊んでいた」と星野は結論づける。

 星野は、通信簿には必ず「ユニークですが落ち着きがありませんね」と書かれていたそうだ。
 ほかにも「○○はつづく」というタイトルの思わず吹き出しそうな話がたくさん載っている。電車の中で読んでいたら吹き出してしまい、マスクをしていたので咳払いのふりをして事なきを得たが、していなかったら回りの乗客から白い目で見られたと思う。

 星野源はてっきりシンガーソングライターだと思っていたら、文筆家であり俳優もしているとは筆者は全く知らなかった。

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