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グラム染色の話

グラム染色って?

こんな名前、初めて聞いたという人が多いと思います。これは細菌検査を行う時に、避けては通れない重要な染色法なのですが、検査室で行われるものですから病院では裏方の仕事となります。あまり表に出ることがない名前なので、ご存じでない人が多くても不思議ではありません。

医療機関を受診した時、その症状によっては何かの菌による感染か、または菌の存在を考えることがあります。どんな菌が関係しているのかを調べるために細菌検査を行うのですが、最初に書いた通り、ここから先は検査の話になりますので、一般の受診者が目にすることのない話になります。

一般的には細菌の培養を行なって調べるのですが、細菌と一言で括るとしてもその種類は厖大な数があるので、闇雲に調べようとしても大変です。こんなことをしていたら、原因菌に行き当たらないかもしれません。ある程度の予想も必要になるのですが、何より大事なことは、検査室に出された検体(サンプル、調べたい材料)に問題となる原因菌が存在していなければなりません。それに加えての大まかな予想があって、初めて効率よく調べていくことができるんです。

最初に何をするかというと、それが今回のテーマになっている「グラム染色」です。詳しい手順などは省略いたしますが、グラム染色によって大体の菌の分類が可能です。染色の結果は陽性(または+)か陰性(または-)で報告します。

グラム陽性

グラム染色で陽性と判定された菌という意味です。なぜ染色するのかというと、そのままではいくら顕微鏡を使っても菌の様子が分からないからです。グラム陽性というのは青色(または紫色)に染まる細菌を指し、球菌(丸い形をした菌)や桿菌(細長い棒状の菌)があります。主な菌の種類としては、球菌では「ブドウ球菌」や「連鎖球菌」があり、桿菌では「乳酸菌」「ビフィズス菌」等が挙げられます。

グラム陰性

グラム染色で赤く染まった菌を指しますが、こちらも球菌や桿菌が存在しています。この文章のテーマとしている腸内細菌では、「腸内細菌科」という細菌学上の分類ではすべてグラム陰性です。なぜなら、腸内細菌科の定義の一つがグラム陰性の桿菌だからです。

グラム染色の陽性と陰性の違い

結論を言えば、細胞壁の違いです。グラム陽性菌は細胞壁が厚く、グラム陰性菌は細胞壁が薄いうえに外膜を持っています。構造的にみると、違うタイプの構造をしているわけですね。

グラム染色の手順を簡単に書くと、
 1、青く染める
 2、脱色する
 3、赤く染める
この3工程に尽きるので結構簡単ですね。しかも、さほど時間がかかる検査ではありませんが、得られる情報の重要度が高いという、よくできた検査法です。

ただし、染色という技術を使うので熟練が必要です。特に初心者がよくやる失敗の多くは2番の脱色を過剰に行ってしまう事。スライド上のすべてが赤く染まってしまって陰性判定になるといった失敗は、誰もが一度は経験するものです。もちろん、先輩に叱られてやり直すことに・・・。

細胞壁の厚さが染色の様子に関わってくると書きましたが、細胞膜と細胞壁は別物であることを知っておいてください。住宅に例えるなら、家の壁が細胞膜、敷地を囲うのが細胞壁、そんな感じでしょうか。家の壁ならどこの家にもあるでしょう。しかし敷地を囲うとなると、フェンスなのか普通のブロック塀なのか、それとも城壁のような堅牢なモノなのか、これだけでも違ってきますよね。

そうなると、住んでいる人も違ってきます。住人に例えるのは適切ではありませんが、グラム染色で分かることは、グラム陽性と陰性の菌では、その生物学的な内容が違うという事になるんです。だからでしょうか、グラム陰性菌の方が一般論として病原性が高い傾向があるとされているのは・・・。


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