車泊1日目とイブ

若い頃は、カステラが食べたいと思えば車に長男を乗せて長崎まで走ったり、私は1日に何玉うどんが食べれるのか疑問に思えば香川まで走り…

しかしながら、アウトドアが苦手な私は車で仮眠はあっても、ガチの車泊はした事が無かった。
そんな私が、2019-2020シーズンの冬。
自宅から30分程度の、我が義兄と夫が経営するスキー場で車泊を体験する事となった。
当時の車はエクストレイル。
子供が小さいから3人での車泊は大丈夫だったが、1度だけ長男も含め4人で車泊をした時は辛かった。
私の身長を遥かに越した長男は老いた私と小さな弟達を気遣い運転先で体が硬いので猫のロボットのように丸まって寝てくれた。

夏。
秋に迎えるエクストレイルの車検を待ち構えていた。
我がエクストレイルは、納車し半年位だっただろうか。
後ろから追突をされた。
渋滞で止まっていた所に、後続車がゆっくりではあるがぶつけてきた。

『あーーー、やられたぁぁぁぁ……』

と、車から降り相手の人を見ると……。
実父だった。
薄くなった頭。年々小さくなる背筋。目の上の小さな老眼鏡。弟が着なくなったPatagoniaの薄紫のジャンパーを着た、親父64だった。

お互いに

『え?』

と、なる訳だ。
自己処理のため警察を呼び、現場検証をしたが警察官も関係を知り驚き苦笑していた。
親子で事故を起こした場合は保険適応外となる。
親父64は自分の知り合いの保険屋にバカ真面目に『ぶつかった相手が実の娘だった』と報告していた。

そんな思い出もあるエクストレイル。
田舎に住んでる故に1年の走行距離も多い。
今回の車検ではタイミングベルトも交換しなきゃならんし、タイヤも夏冬両方買い替え時期だし、何かと今回は高く付きそうだ。
しかも、末っ子がお気に入りのトミカを『ぶぃーーーん』と走らせ遊んだもんだから、フロントからリアまで綺麗に傷が入っている。
車内では、夫が珈琲を飲みながらバカデカいクシャミをして、珈琲が飛び散ったシミもある。

そんなエクストレイル。
車検見積もりを行った結果はタイヤ冬を含めると45万だった。

もう、これはギリギリ10万キロ行ってない今のタイミングで売るのはどうだろうかと話が進み。
高く買取って貰えると評判のビッグモーターさんに来てもらった。
1000円でも高く買取って貰いたい私は、若いガチムチなお兄さんに『晩御飯食べていく?』と、田舎のお節介ババァ丸出しでシチューを出した。
食べ終わった後に『これはとても高いシチューです。賄賂みたいなもんです!』と伝えると、本当に頑張って思ってた以上の金額で買い取ってくれたのである。

そして、それを頭金にして私はハイエース号を手に入れたのだ。

話は戻り、車泊経験が昨シーズンの何度かだけな私は、これを機に車泊グッズを買い漁った。
ポータブル電源なんて3つも買った。
(うち2つは広島の会社のものだったので、応援も含めて購入。1つは容量の大きなものを。)
ハイエースのベッドキットも買ったし。

これで私も皆の仲間よ!(皆って誰だよ)

2021-22シーズンは恐羅漢の広報として動いている。
今回は、香川県愛媛県のスポーツショップへシーズン前の挨拶回りだ。

ポータブル電源、布団、1合炊飯器、フライパン、カセットコンロ、水、お風呂グッズ、テーブルに椅子。

完璧。
目的地もセットし、無事に到着し、窓にはハイエース専用の目隠しをセットし、電気毛布をポータブル電源に繋ぎ、小さなライトを点けて、寝袋を掛け布団替わりに広げ。

気分は立派な車泊マイスター。
(晩ご飯はめんどくさくて居酒屋で食べたけど)

小さな空間にウットリしていると、安芸太田町という小さな田舎町では聞くことない音が近づいてきた。

ヴァンヴァンヴァンヴァン!!
ブロロロロロロロロ!!

振り向くと、青や紫のライトがつけられバイクのおしりには長い顎のような背もたれがついている、私の中で言う『族車』が現れた!!

→戦う
   逃げる
   捕まえる

私には相棒のピカチュウも、(私から見ると)ヤンキーを捕まえるモンスターボールも無い。

彼らは事もあろうに、私の車から1台分のスペースを開けて横にズラリと並び始めた。
周りにはざっと30台近くの車泊仲間がいる。
心強い!わけあるかーい。
全ての車は既にエンジンを切り、窓にはきっちりとカーテンやらシートを貼っている。

口に歯ブラシを加えた明日41になるマヌケなババァは、日本人らしく『見ないふり』を選んだが、せめてもと思い『ここには小さな子供が居ますよー!静かにして下さいねー!』アピールとして、敢えてドアを開け子供達の声を彼らに聞かせた。

慣れない大きな車の運転で既にクタクタの私。

寝る準備万端なのに…聞こえてくるのは波の音ではなく、煌めく星の囁きでも、冬の頼りの声でもなく、馬鹿笑いとバイクの爆音だ。

ウンザリな顔つきとは裏腹に『あ、ネタ見ぃつけた』的に感じてTwitterにツイートした。
が、ネタの為に嘘っぱち言いやがってと仲良しのフォロワーに思われるのは癪に障るので、電話してみるとヴァンヴァンの音を聞いて大爆笑していた。

この完璧な私の車中泊の旅、一日目の夜はこうして更けてゆくのであった。

私のバースデーイブはヴァンヴァンの音で幕を閉じるのである。
人生なんてそんなもんだ。

我に幸あれ。

ここら約1時間経過後。編集機能を使い追記を書く。

クタクタになって眠たい私は、すぐにでも寝たい。
思ってたよりもここは寒くない。
子供達2人分の体の熱と、ポータブル電源に繋がれ弱に設定された電気毛布。
眠いのに、寝れない。
外では行ったり来たりするヴァンヴァンの音。
トイレ前でエンジンをふかして話に盛り上がる楽しそうな笑い声。
隣の車からは大音量のボンボンというウーハーの地響き。

寝れるわけが無い。
普段、サルとか鳥の声くらいしか聞こえないような田舎にいるんだもん。
寝るわけが無い。

そして、歳をとる事に近くなるトイレ。
念の為車に鍵をかけて私はトイレに向かった。
若者の間を縫って、気配を消して。

用を足しトイレから出てくると、いつの間にか警察が来ており……

『あなたのバイクはどれ?』

と、声をかけられた。
え、私???
瞳孔が開くのが分かる。

『違います!41です!!車です!!!』

実際にはまだ40だったが、何故か焦った私は年齢まで言い脇汗ダクダクになった。
間違えられるのも無理は無い。

私の車はサンシェードによってフルスモーク状態のハイエース。
その横にはウーハーを詰んだ車とバイクが並んでいる。
仲間だと思われても仕方ない。

『念の為確認させてくれますかね?』

私はちびまる子ちゃんの『トホホ』のセリフはこの事よ……と思いながら車を開けた。
後ろではスヤスヤ子供2人が寝ており、スノーボードを乗せるために引っ掛けてたサイドバーにはヘロヘロになったタオルとブラジャーを引っ掛けていた。

解放され車に乗り込んだ時、時は既に24日となっており私は目出度く41を迎えた。

40と41の狭間で人生で初めての職務質問だ。
絶対に忘れられない夜になった。

寝たいが寝れない。
しかし、ネタをありがとう。
バイクの若者たちよ…。
いつもならイライラするが、今日は誕生日だし、ここらへんで許しておいてやらぁ!

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