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えっ日本人って底意地が悪いの?『国民の底意地の悪さが、日本経済低迷の元凶』

ショッキングなタイトルに惹かれて読みました。
著者は、「あー、テレビで見たことある」という経済評論家の方。
底意地が悪いってどういうこと?それが経済と関係あるの?という観点で読んでみました。

「底意地が悪い」ってどういうこと?

・他人に対する誹謗中傷、バッシングがひどい。
(例として、ベビーカーを押す親に対して、眞子さまの結婚に関して、木村花さんへのひどい中傷について)
・不寛容、抑圧的
・失敗すると周囲から激しく責め立てられる
・弱者をバッシングするための自己責任論
・世間の目が厳しく、ルールに従ってもバッシングされる可能性がある
・疑心暗鬼で他人を信用しない
・人間関係のすべてを上下関係でとらえる
・自分が損をしてでも相手の足を引っ張る

うん、分かる。特に、女性や弱者(言い返せない有名人を含む)への暴言ありますね。

私も子ども2人連れてスーツケース抱えて市電に乗ろうとしていたとき、「どけ。邪魔だ」と中年男性から言われたことあります。
できるだけ迷惑にならないように早く行動しようと焦っているところにこういうこと言われると、ショックだし、悲しいし、泣きたくなる。
昔、韓国に旅行に行ってスーツケース抱えて階段の前で困ってた時、どこからともなくおっちゃんがスッと来て、スーツケースひょいっと抱えて上まで持っていってくれたのを思い出す。
あのおっちゃん、ここにいてくれ、と思った。

著者によると、このように意地悪で不寛容なのは、日本人が本質的に性格が悪いからというわけではない。(第6章)
日本は表面的には近代的だけど、前近代のムラ社会の要素を多く残してしまっていて、それが「意地悪で不寛容なマインド」を誘発するのだとか。

ほー。前近代のムラ社会。

一般的に、前近代のムラ社会の特徴というのは次のようなものらしい(第2章)
①富は拡大させるものではなく、奪い合うもの
②人間関係とは基本的に上下関係
③科学的な合理性ではなく、情緒や個人的な利益で意思決定が行われる
④集団内部と外部を明確に区別
⑤根源的な善悪はなく、集団内部の雰囲気や状況で善悪が決まる
➅自由や権利という概念が極めて薄いか存在しない

これ、日本の息苦しいとこそのままやん。
日本社会は成熟していないということなの?
成熟した近代社会だとそういうのはなくなるの?

本を読んでざっくり理解したこと
【近代的な資本主義社会】
=イノベーションによって富を持続的に拡大
=わずかな富を奪い合う必要がない。富は増えるものなので、みんなが豊かになっていく
=豊かで満ち足りていると、他者にも寛大になれる
=メンバーの権利義務は契約として担保される
=ルールに従わなければ上の立場でもペナルティが課される
=組織での地位の上下はあくまで役割と権限の範囲でのみ
=組織の構成員はいつでも自由に組織をやめることができる

【前近代的なムラ社会】
=生産性が低く、富は有限
=今あるわずかな富を奪い合う。
=誰かが得をすれば誰かが損をする。上の者をねたみ、下の者を見下す。
=濃密な人間関係、組織内の秩序の維持が最優先
=強い立場の人が弱い立場の人に介入・干渉
=価値観の多様性は基本的に認められない

いつから底意地が悪い?

ここで疑問。そんな感じに底意地が悪いのっていつからなの?

著者は、明治以降その問題点が指摘され続けてきた、と言います(第5章)。
江戸時代は前近代のムラ社会で、当然ムラ社会の掟によってみんな生活してきた。
で、明治維新。
社会のシステムをガラッと変えたけど、中身が変わっていないということでしょうか。

著者が紹介してくれている本をピックアップしてみます。
・山本七平『「空気」の研究』
大切なことがその場の「空気」で決まってしまうことを指摘。
・遠藤周作『海と毒薬』
その場の雰囲気に流されて捕虜を生きたまま解剖してしまう医師を描いた。
・渋沢栄一『論語と算盤』
契約をないがしろにする日本の商習慣を正すよう指摘。正直、正義という概念をビジネスでも行わなくてはならない。
・福沢諭吉『学問のすすめ』
他人に忖度したり、空気に忖度することは前近代社会の生き方であり、近代社会では自分の意志で行動しなければならない。
・土井健郎『甘えの構造』
本音を言わないのは控えめで慎ましいという見方もできるが、事実上、相手に自身への忖度や経緯を要求している。内と外を分け、身内には甘え、外では上下関係で行動を変える。

指摘する人はたくさんいたけど、今まであまり変わっていない。
この先も変わらないのでは…と不安が増す。

そして、ひとつハッとしたのは、今、X(旧Twitter)やSNSで有名人を攻撃する現象がたびたびありますが、それは昔も存在したという記述があったこと。
ネットがない時代、ラジオや新聞・雑誌の投稿でクレームの投稿を繰り返し、「自分が気に入らない対象を攻撃して委縮させるという、いわゆるツイ民のような人たちがたくさん存在していた」そう。

声の大きい人の暴力的な意見が全体の「空気」を醸成し、多くの人がそれに支配されていくというメカニズムは、戦前も戦中もそして、今の時代においても何も変わっていない

第5章

その場の空気にあらがうのが難しい社会の危険を感じます。
そしてそれは今始まったことではなく、以前から日本に存在し、今も変わっていないことにちょっと絶望を覚えます。

底意地が悪いとどうなるの?

底意地が悪い社会で、幸せを感じるのは難しい。
国際比較においても
  幸福度ランキング 低い
  仕事に対する自信 低い
  自殺による若者の死亡率 高い
  コロナ感染者を自業自得だと思う率 高い

自殺による若者の死亡率が高いのは本当につらい。
幸せを感じることが少なくて、自殺につながったり、他者への攻撃につながるのかも。

経済の面では、製造業・輸出で外需により稼げていた時代が終わり、自国の個人消費で成長する経済になった。
輸出で稼いでいた国が他の国にとってかわられ、個人消費で成長するというシフトは日本に限ったことではない。
イギリス、オランダ、ドイツなど、輸出産業が力を失った国でも、自国の消費でちゃんと成長してる。
だけど、日本だけこれだけゼロ成長というのはあり得ないということらしい。

ムラ社会の底意地の悪いマインドだと、経済にも悪い影響が出る。

・新しいものを拒絶→ IT化が進まず、生産性が上がらない
・無駄な作業が減らせず、長時間労働で疲弊
・他人を信用しないため、新しい取引先を増やさず、系列企業との硬直した取引形態→本来不要な取引が増え、中間マージンなどで利益が減り、従業員の賃金が安くなる
これらの帰結として、個人消費が上がらない。

新しい技術やサービスにも声高な批判が寄せられ、スムーズに事業を展開できない(ドローンの例)。
自動運転やライドシェアもそうですね。

そもそも、輸出で稼げなくなった=国際競争力を失ったのも、自国を賛美して他国を貶める傾向があったから。
他国の基準やニーズを軽視し、今までのやり方、今までの戦略にこだわり続けたため、競争に勝てなくなった(半導体や三菱スペースジェットの例)。
さらに、失敗を直視せず、同じ失敗を繰り返した。

うーん、暗い。

ほかの国は底意地が悪くないの?

本の中に「この国も底意地悪いよ!」みたいなことは書いていません。
ただ、一般的に経済的な基盤が確立していない途上国は不寛容になりがちだとか。
少ない富を奪いあう社会の必然ということでしょうか。
トルコのように、EUを加盟を目指しているが、人権保護の面でなかなか近代化が実現できていない国もある、という例も出ていました。

そんで、どうしたらいいの

著者は「国民のマインドが突如変化することは通常考えにくい」(第3章)とも言っているのですが、それでも「近代化を達成していると思われる社会を参考に、効果があることが分かっている制度をまずは取り入れてみる」(第6章)のをおすすめしています。
「諸外国の良いところは謙虚にかつ積極的に取り入れる努力が必要」。
うんうん。
で、重要なことは3つだそう。

①データと科学を重視するリアリズム
②個人と企業の自由を保障
③根源的な理念や価値観の共有(やっていいことと悪いこと)

第6章

ちょっと抽象的で難しい。
詳しい解説を読んで私なりに理解すると、
①科学的なデータ収集や分析をする専門家を尊重する。
こうなってほしい、なってほしくないという感情やその場の空気でデータを曲げない
→合理的な判断ができるようになってくる
②政府が個人や企業の活動に介入しないルールを徹底する
(問題が起きそう、と先回りして規制しない)
→新しいテクノロジーを否定しない状況、まずは使ってみようという環境ができてくる
③空気や雰囲気に左右されない根源的な理念や価値観を国民すべてが共有する
→健全なビジネス環境、信頼をベースにした経済活動ができる

③については、そんなことできる?みんなで同じ宗教を信じるわけではないし、難しいそう、と思ってしまったのですが、
「宗教というのはあくまでも人間の心が作り出したもの」だし、「基本的人権が存在するという概念も、もともと人間が持っていたものです」という。
あー。「基本的人権って人類みんなにあるよね」というところなら、国民すべて同意できるかも。
宗教、哲学、人権などの「人間にとって普遍的に大事なことは何か」を考える時間を国民みんなで増やしたほうがいいのでは?
少なくとも、うちでそういう時間を増やそうと思いました。

まとめ

ここまで、この本で日本人が「底意地が悪い」ということを読み解いてきましたが、よくよく読んでみると、著者は日本人が「底意地が悪い」とは本文中で言っていない気が。
「意地が悪く不寛容」という言い方をしているのを「底意地が悪い」というタイトルを付けるあたり、なかなかすごい。
タイトルは、編集の方がつけたりもあるらしいので(^^; タイトルに惹かれて読んだ私はは、まんまとそれに乗せられているということなのでしょう。

経済と日本人の心根の部分を結び付けた解説、とても興味をもって読めました。
また、本書で紹介されていた山本七平『空気の研究』を読んで、さらにそこから山本七平さんの著書を読みまくっているので、この本に出合えたことをとても感謝しています。
少しでも「底意地の悪い」日本を変えていけるように、そういう意識を持った発信や活動もしていきたいなと思いました。
ではでは。


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