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ゆりかもめとごほうびサウナ~竹芝【後編】

東京湾ビューの客室から

夜の竹芝駅。駅前だというのに行き交う人はさほど多くない。店舗はいくつかあるようだが、混雑している風はない。ホテルまで、ぼんやりと灯りのともる歩道を3分ほど往く。

チェックインを済ませ、フロントにあったテイクフリーの朝刊をエレベーターの中で眺めた。「安倍元首相 撃たれて死亡」の大見出しが、重い。それでも日常は容赦なく進む。私は私の日常を生きるしかない。

とはいえ、今日は自分へのご褒美だ。非日常を心ゆくまで楽しもう。奮発して海側の部屋を予約しておいた。カーテンを開け、部屋の電気を消す。

窓の向こうに夜の海が広がる。眼前の波止場に外国船が停泊していた。目に刺さるような白いライトが、船のてっぺんでギラギラと光っている。カーテンを開けていると、部屋までほんのり明るい。

レインボーブリッジやお台場の球体も見える。窓をキャンバスに見立てたら、素晴らしい風景画だ。今日はこの絵を見ながら、一献やろう。

アジュール竹芝からの東京湾ビュー

サウナに行く前に、買ってきた飲み物を冷蔵庫に入れた。部屋に備え付けのグラスも冷やしておく。ミネラルウォーターを、ペットボトルの半分ほど飲んだ。すべてはこれからの、サウナのため。サウナで汗をかくために。

サウナで半年間の汗を流す

最上階の大浴場。ロッカールームも広く、明るい。高級スポーツクラブのような設えだった。

浴室正面に円形のバイブラ風呂がある。階段状になっていて、湯船は少し高い場所にある。この階段に腰掛けて休憩できそうだ。

右手には人工ラジウム温泉。プラス、左手奥にほぼ一人用の水風呂。洗い場は右奥にある。サウナは浴場を入って左手にあった。

身を清めてから人工温泉につかる。人工とはいえ湯も柔らかく、身体があたたまるのを感じた。身体三分目ほどあたたまったところで、湯船を出る。

サウナに入る前に、身体表面の水滴を拭く。これは鉄則だ。びしょびしょのまま入ると、サウナ室内の湿度に影響してしまう。汗もかきづらい。人様にも自分にもいいことはない。

サウナ室の扉を開ける。木の、重たい扉をくぐる時、いつもわくわくする。どんな空間が、熱気が、私を迎えてくれるのか楽しみだ。

6人定員の小さなサウナ。凹字型に席が設けられている。ほかにお客はいなかった。まずは扉の側に腰かけて様子をみる。座ったとき、ちょうど肩のあたりにくる高さに砂時計が掛かっていた。

テレビはない。ありがたい、私はサウナ内のテレビは不要派だ。静かに落ち着いて汗がかける。

8分ほど蒸され、シャワーで汗を流す。26℃の水風呂は皮膚への当たりもやわらかく、長い時間、肩まで浸かれる。バイブラ風呂の階段に座って休憩した。このターンを4回繰り返す。

水風呂&休憩

半年間、身体にたまった水分が汗となって出ていくようだった。水は流れなければ澱む。こうしてサウナで蒸されることで古い水を出し、新鮮な水を取り入れる。物理的に身体をリフレッシュすることで、心もリフレッシュできる。

半年間、がんばった。大きなやらかしもなく、仕事を続けてこられた。よくやった、自分。そしてこれからも続けたいと思う仕事に出逢えた。よかった、自分。この汗は、己ががんばってきた証拠だ。

サウナで自分をねぎらう

峠の釜めしと軽井沢ビール

ほかほかのまま部屋に戻った。電気はつけない。カーテンを全開にし、波止場の灯りだけで過ごす。ある意味これも「間接照明」だ。借景おまけに間接照明。ホテルの部屋が、さらに贅沢な空間になる。

持ち込んだオロナミンCとポカリスエットで「オロポ」を作り、一気に飲んだ。汗をかいた身体に染み渡る。続いて、有楽町で買ってきた「峠の釜めし」を軽井沢ビールで流し込んだ。鶏肉の味付けがビールによく合う。

軽井沢・横川方面でコーディネートした

風景画の中で、レインボーブリッジが白く輝く。夜中の海は、案外と明るかった。

その晩は気絶するように眠ってしまった。朝、海に照り返す太陽光で目が覚めた。カーテンは全開のままだった。

朝の東京湾。夜とは表情ががらりと変わる。

寝ぼけた身体をたたき起こすため、大浴場でラジウム温泉に浸かった。残念ながら朝は、サウナは稼働していない。朝風呂だけでも十分気持ちがいい。

大浴場の隣にある休憩処から、港区のビル群が見える。ビルの間を一直線に貫いた先に、東京タワーの凜々しい姿があった。空の青に向かって、白と赤の鉄骨が鮮やかに伸びていた。

アジュール竹芝の朝食。フレンチトーストが嬉しい。

《2022年7月の情報です》

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