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vol.3 高齢者の元気と輝きを生み出し続けるファーストペンギン〜いろどり:横石知二さんのはじめの一歩〜

ミチナル新規事業研究所、特派員の若林です。
組織に潜む「ファーストペンギン」が一人でも多く動き出して欲しい!という想いで知恵と勇気を与える記事を定期的にお届けしていきます。

第3号の記事では株式会社いろどりを立ち上げ「葉っぱビジネス」通じて、高齢の女性を中心に上勝町民の生きがいを生み出している横石知二氏のはじめの一歩をします。

なんて町に来てしまったのか。というのが正直な気持ちだった。

横石氏は1979年の春、徳島県立農業大学校を卒業してすぐ上勝町農協に営農指導員として、農業経営の指導をするために上勝町に赴任した。当時の上勝町の主な産業は林業とみかんの栽培であったという。

しかし、高度経済成長によって海外の安価な木材が輸入されるようになったこと、みかんが生産過剰になり値崩れをおこしたことが重なり、町の産業は衰退の兆しを見せていた。産業の衰退は町民の生活と心を圧迫し、ふるさとへの誇りをもてない日々を送っていた。



横石氏は当時を振り返り「上勝町の女性は一日中、家人の悪口や近所のうわさばかりをし、男性たちは雨の日作業が出来ないと、昼間から酒を飲み、夕方には赤い顔をした人ばかりになってしまっていた。」と語る。なんて町に来てしまったのか、というのが当時の正直な気持ちだったそうだ。

仕事がないというのはここまで人の心を曇らせてしまうのかと痛感した。さらに、彼の心を痛めたのは自分の子供だけはこの町を抜け出して欲しい、と思ってしまったことだ。子供にとってのふるさとに希望をもてない現状をどうにか出来ないだろうかという想いを胸に秘めた。

町の現状に対する危機感と生まれ持ったチャレンジ精神で赴任当初から多くの新しい提案を送ってきたが、彼の思いをよそに町民の反発は大きかったという。「よそ者のおまえに何が出来るんな。いやだったら出て行ったらええやないか」と叱りとばされることもあったそうだ。


「葉っぱ」を綺麗な絹のハンカチに包んで持ち帰る女性を見た時の驚きがビジネスのきっかけに

Hironori Satomotoホームページのブログより

新しい提案をしても聞いてもらえない日々が続く中、1981年2月に記録的な大寒波が上勝町を襲った。寒波の影響で町の経済を支えるみかんの木が全滅してしまい、みかんに変わる収入源が早急に求められた。横石氏は上勝町を救うため、農家や市場、農協を行き来しながら、厚木しいたけ、たら芽といった栽培品目を増やす取り組みをし、寒波から3年で町を回復させた。これをきっかけに町民と横石氏の信頼関係も築かれていったという。


その後も町に活気を生み出すためにどうすれば良いのか、と考える日々の中で「葉っぱビジネス」を生み出す大きな転機が訪れた。それは、落ちていた紅葉の葉を嬉しそうにハンカチで丁寧に包み、持ち帰る女性の姿を見たときである。

上勝町には当たり前のようにある「葉っぱ」にはこんな値打ちがあるものなのか!と驚いくと同時に、これを日本料理の”つまもの”として販売することで町に活気を生み出すビジネスにできるのではないかというひらめきがあったという。


「葉っぱ」を”つまもの”として販売することが出来るのではないか!というアイデアを得たものの、町民からは「落ちてる、市場に出せないよな葉っぱや生えてる草を集めるのは恥ずかしいからやりたくない」といった声が多かった。しかし、彼は諦めず市場を開拓するためにどんな”つまもの”が求められているのかを料亭に通いながら研究をした。

その努力のおかげで市場は徐々に開拓され、株式会社いろどりが行う「葉っぱビジネス」は現在、年商2億6000万円にものぼる上勝町の中心産業となっている。


100歳まで現役を続けたい!

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出典:とらばーゆ株式会社いろどりの特集記事より

「葉っぱビジネス」で中心になって活躍をしているのは上勝町に住む”おばあちゃん”たちである。
その中の一人である西蔭幸代さんは、100歳までは元気に葉っぱビジネスを続けたいと語る。

彼女の1日は毎朝の注文取り競争から始まる。株式会社いろどりの行う「葉っぱビジネス」の特徴の一つは受注方法である。西陰さんのような生産者の方々には、出荷前日の19時、当日の8時と10時の3回、受注のチャンスがあり、最大で1品目につき1ケースの受注ができる。そしてそれは早い者勝ちだ。

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出典:とらばーゆ株式会社いろどりの特集記事より

200軒ほどの農家が登録をしているため、旬の人気商品などは単価が高いため競争率も高く、すぐに受注がなくなってしまう。受注が成功すると画面に大きく丸印と「成功」の文字が表示される。生産者の人々はこの競争を非常に楽しみながら行なっている。


また、各生産者の売り上げの順位もわかる仕組みになっており、上げることも生産者の人々の大きなモチベーションになっているようだ。


現在ではITが導入され、上勝町の高齢者の方々はスマホやタブレット端末、PCを駆使しながら「葉っぱビジネス」を生き生きと取り組んでいる。


高齢化社会の捉え方を変化させる新規事業

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出典:株式会社いろどりホームページ

今回紹介した、横石知二氏の「葉っぱビジネス」はお米や野菜と違って軽いということもあり高齢者の方々が活躍をしている。高齢化社会という言葉には負のイメージが付きまとうが、プラスに捉えれば元気な高齢者の方が増えているということだ。

「葉っぱビジネス」のように高齢者の方々が活躍する場面があることで、人々の認識が変わり、より前向きのこの現状を捉え直すことが出来るのではないだろうか。

近くにあるもの、当たり前だと思っていたことの見かたを少し変えることが新規事業を生み出すきっかけとなることを教えてくれる、はじめの一歩であった。

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