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新宿駅のバーキンが消えた

バイト終わり。たまの贅沢に寄っていた新宿駅のバーガーキングが閉店してしまった。

あの日のことはよく覚えている。いつも通りバイトを終えて駅へ向かった私はテリヤキワッパーの口になっており、京王モールへと足早に向かった。献血の協力を求める声を左に、いつも申し訳ない、と思いつつ店へと急ぐ。

テリヤキワッパーのパティは、硬質でドライな口当たりが特徴だ。あの、粗めにひいて固めた肉感の強い塊は、噛みごたえがあるがゆえに強く「食べている感」を味わえる。これはマックを始め他店のパティにはない質感だ。そのハードな肉に到達する前に、レタスと玉ねぎとトマトに含まれる水分がわずかに先んじて口内に潤いを与えてくれる。若干辛みの強い玉ねぎは、トマトの甘酸っぱさと混ざりながら肉の旨味を引き立てる。テリヤキワッパーの圧倒的パンチ力を想像すると、向かいのカレー屋を一瞥するも、毎度結局吸い込まれてしまうのだ。

そして私はいつものように店の前に着いた。しかし、何かがおかしい。バーガーキングがあるはずの場所にシャッターが下りているではないか。ふと横にあった小さな看板を見てみると、「9月30日をもって閉店いたしました」という案内が…

驚きを隠せなかったが、なくなってしまったものは仕方がない。気を取り直した私はしかし、テリヤキワッパーモードを切り替えることができず、帰りに経過する渋谷のバーガーキングへ向かうことにした。

いったん空腹を満たした私は、束の間の幸福に浸りつつ、じんわりとした喪失感に襲われていた。

モールの通路に直面したカウンター。入り口から見通せるほどの奥行き、細長い店内。あの狭い空間にテーブル席、オープンカウンター、半個室席というバリエーションを備えていたのが印象的だった。

やはり新宿駅ビル内にあるためだろう、仕事帰りの人々から中高生まで、いつも幅広い層の客で賑わっていたように思う。稀に揚げたてのポテトを席まで持ってきてくれるときは、ささやかに心躍る気分だった。

いまや全てを過去形で語ることしかできない。労働後、西口連絡通路から一気に京王モールへと歩き抜け、待ってましたと出迎えてくれたあの店はもうないのだ。

たまの贅沢をありがとう。そしてお疲れ様でした。これからも食べ続けます。

こんど献血ルームに寄ってみよう。

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