実話物語 捨て子 第2話

悪魔の日 前編

平成元年8月21日

その日は突然にやってきた。

「今日お父さんと会うからね!」と言う母に喜びを抱きつつも、あの暴力がトラウマになって複雑な心境だった。父と会う場所は私が生を受けた元産婦人科医さんの家だった。私の名付け親でもある。

母は運転する車の中で小学校一年生だった私に「そのキーホルダー…たける君の事だと思って大事にするからね。」と。

幼いながらに把握は出来た。私はとっさに父の所に行きたく無いと泣き叫んだ。母はまだ決まった事じゃ無いからと私を必死に泣き止ませようとしたが、ある程度心の中で理解は出来た。 

車が到着し皆が集合した。重々しい空気の中10名程いただろうか誰かが口を開いた。離婚する気持ちは決まらんのか?と。その言葉を聞き私は嫌だと叫んだが子供の言葉なんて大人達は耳を貸さない。父は母に対して酷い暴力を振るっていたが離婚には反対した。平行線のまま時間だけが過ぎ外もすっかり暗くなった時母がポツリと言葉を漏らした。「この子をあげるから離婚して欲しい…」と。大人になった今でも耳から離れる事は決してない。母にとって私は人質同様で親権を渡すという切り札として私を利用したのだ。


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