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建築をつくるより、場所を使う時代の公共空間を考える。〜公共R不動産プロジェクトスタディ〜

先日、公共R不動産の新刊『公共R不動産のプロジェクトスタディ』の刊行記念イベントに行ってきた。

どういう想いを持ち刊行するに至ったか、どのように数多のプロジェクトを分類し、編集したかという裏話、制作秘話といった内容だった。

公共R不動産のディレクターである馬場正尊が語る「日本の公共空間の変革」に関する面白い話を聞くことができた。

建築空間デザインを「かっこよくつくる!」想いを大切にしながら、公共空間の活用の最前線にいる彼の言葉は、

今、変わろうと動き出している社会の波に乗り、

ポジティブに、1歩ずつ、社会をよりよくすることが楽しくて仕方ないという気持ちが、にじみ出ている音楽のようであった。

5年前の妄想が現実になってきた2018年

日本は、不思議なもので「みんなでやろうぜ」と流れができると堰を切ったように、加速的に物事が進み、大きなムーブメントになる力がある。

と話し出したのが、ディレクターである馬場だ。

馬場は、OpenAという設計事務所で建築設計を基軸にしながら、不動産やメディアに関する運営を行っている。

今回の書籍は、そのうちの一つの活動であるR不動産から派生した、公共R不動産が今まで携わった案件や世界的に注目されている公共事業、また、スタッフたちが独断と偏見で面白いと思ったものを取りまとめたのが『公共R不動産のプロジェクトスタディ』なんだそうだ。

馬場は言う。

次に変革すべきは公共空間だと気づき『RePUBLIC 公共空間のリノベーション』という本を書いたのが、2013年。

その時は、「公共空間がこんなふうに変わればいいのに」という理想のスケッチを無邪気に提案した、まるごと企画書のような本でした。

幸いなことに、5年が経過した今、そのスケッチのいくつかは実現しています。

公共R不動産の立ち上げから、出版にいたるまでの思い、社会の変化、公共空間が秘める可能性や課題について理路整然と、

その場で初めて公共R不動産を知る人でもわかるような明解な言葉だった。

そして、馬場本人が、まるで秘密基地に友達を招き入れている子どものような笑顔で終始話しているのが印象的だった。

今、日本の公共空間は、ものすごいドライブ感で動き出している

3年前に、公共R不動産を立ち上げたとき、純粋な思いで「遊休化している公共空間」とそれらを「利用したい人・団体」とをマッチングさせられたら、面白いのではないか!と思い、メディアを作ったのが公共R不動産の始まりだった。

公共R不動産:https://www.realpublicestate.jp/

正直、掲載希望の案件が山ほど出てくるかと思っていた。

しかし、まったく声はかからなかった。

公共R不動産を始めてみてまずわかったことは、制度という壁が大きいということだった。と、冗談交じりに、馬場は立ち上げについて振り返る。

行政側は、今まで公共空間を民間に「売る」はあったが、「賃貸」や「委託」といった形式はほぼなかったのだ。

また、出したい遊休不動産は多くある地域でも、議会での承認や上司の承諾といった、山ほどのコンセンサスが必要でどうにもできない現状を目の当たりにした。

とりあえずの帰着点としての気づきは、「3つの変革」

「とはいえ、今の日本の公共空間は大変革期だ」と馬場は目を輝かせて、説明を続けた。

契機になったのは、陳腐的ではあるがやはりリーマンショックや東日本大震災で、人々の意識が大きく変わったことだ。

貨幣価値から信頼価値になったとき、「社会に起きた3つの変革」が新しいタイプの公共空間をつくり出すエンジンとなっているという。

・空間の変革…つくる時代から使う時代へ
・制度の変革…国は継ぎ早に制度の規制緩和を進めている
・組織の変革…民間と行政のパートナーシップ

潮流の最先端で、実験を繰り返してきた3年間で公共R不動産が導き出した帰着点として、3つの変革について簡単に説明し、馬場からバトンがスタッフに渡され、書籍についての話へと展開した。

※書籍の内容に触れると長くなるため、別に記載する※

▽書籍紹介│『公共R不動産のプロジェクトスタディ』には、公共空間を面白くするオープンソース!

プロジェクトを総洗い出しから始まった編集作業

書籍の編集を行ったスタッフたちによる、掲載されているプロジェクトの読み方のポイントや裏話、最新の海外トピックをリレー形式で紹介された。

その中で出てきた『公共R不動産のプロジェクトスタディ』がどのような順序で編集・制作をしたかという裏話が、面白かった。

「この本は、まず自分たちが面白い、かっこいいと思った事例をばーーーっと書き出そうと馬場が言い出して、一人ひとりが提案して、そこからグルーピングをして章立てをしていったんです。

だから、前半はまとまりがあって、わかりやすくできたんですが、後半になるとふわっとしていて、なんとかなんとか、名前を付けられたという状況でした(笑)」


そのグルーピングというのが以下である。

1部│公共空間を使う4ステップ
1.風景をつくってみる―社会実験
2.仮設で使ってみる―暫定利用
3.使い方を提案する―サウンディング
4.本格的に借りてみる―民間貸付
2部│公共空間をひらく3つのキーワード
5.シビックプライドをつくる―オープンプロセス
6. 領域を再定義する―新しい公民連携
7.“公共“を自分事にする―パブリックシップ

このトークショーの中で、何度も出てきたのが「風景をつくってみる」というキーワードであった。

あったらいいなと思い描く風景は、短期間でもいいからまず実際につくってしまう。実験してみる。

結果を一度でもいいから出してみる。

実行してみて、そして、人々の意識を変わりるかもしれない。公共空間の活用を縛っているルールを見直すきっかけになるかもしれない。

まずは、提案し、実現させてしまう。

失敗も成功もその後に生かせばいいと、馬場はトークの締めで言った。

「もっと実験できる社会でいいんじゃないか?」と。そして、こんな話をした。

IKEBUKURO LIVING LOOP | 都市を市民のリビングへ

池袋池袋東口グリーン大通りは、銀行などの金融施設が多く、普段から多くの人で溢れかえるような通りではなかった。そこで、実験的に『IKEBUKURO LIVING LOOP』と称して、南池袋公園と連動させたイベントをスタートさせた。

そこで得た、ストリート上でのイベントを行うときに必要となる設備や、どのように給水・配電などを設計したら、継続的にコトを起こすことができるかを、経験知として蓄積している。

実際に、佐賀県での公園設計の際に、実験で得た結果を生かして設計を行っている。

まずは「試してみる」ことができる姿勢が重要になってくるにちがいないと、僕は思っている。

「まずは、小さくても試してみる」

なぜか、胸が苦しくなる言葉だ。

『公共R不動産のプロジェクトスタディ』は具体的なロールモデルを提示してくれる教科書的な1冊である。

公共空間は誰のものか。ふと、そんな疑問がコツンとぶつかった。

空間活用ももちろんだが、どんな企業でどういった仕事をしていても、いずれは新しいことにチャレンジしなくてはいけないし、そのためには、「小さな挑戦」が必要になる。

自分の生活だって、きっとそうだ。

ちょっとだけ勇気をもって、定時で帰ってみる。

そしたら、意外とできることが広がっているかもしれない。

ちょっとだけ勇気をもって、noteで発信をしてみる。

そしたら、意外と遠くの誰かが見ていてくれて反応してくれるかもしれない。

失敗なら失敗でそれを生かせばいい。

公共空間は誰のものか。今までつくっていたのは行政だ。行政がつくって市民がつかう。

ならば、試しに、使う私たちから使いたい方法を提案してみる。

そんな提案事例を、ルールに対してどう対応したか、国がなにを意図して規制緩和をしているか、民間はどうアプローチしたらいいのか、

『公共R不動産のプロジェクトスタディ』は具体的なロールモデルを提示してくれる教科書的な1冊である。

書籍紹介│公共R不動産の妄想本

書籍紹介│『公共R不動産のプロジェクトスタディ』には、公共空間を面白くするオープンソース

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今、過去に作ってきた公共空間を使おうと、つかうシステムを新たにつくり、更新したその先の時代。

私たちの子供たちの世代が、私たちと同じ年齢になるころの世界を想像すると、それは、とても賑やかで潤いのある空間が広がっている気がする。

そんな思いも公共R不動産の彼ら彼女らは、きっと持っているのではないかと、ふと思う平成最後の夏だった。

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