スリーポイント・ガード, フリースロー・ガード

選手によって「武器」は異なります。ある選手はレイアップやミドルジャンパーなど2Pシュートを武器としているでしょうし、またある選手は3Pシュートを得意としています。フリースローでガシガシ点を稼ぐ選手もいます。そこには選手ごとの個性があるはずです。そこで今回はガードの選手(主にポイント・ガード)に注目して「どうやって得点を取るか」を見ていきたいと思います。今回の対象選手はこちらの全56選手。

これらの選手について、96-97シーズン以降のデータを見ていきます。すべてNBA.com / Statsのデータで、出場20試合以上のシーズンのものです。16-17シーズンのデータはオールスターまでの成績です。また、日本語による選手名の表記はすべて日本版Wikipediaに揃えています。

今回は最近よく言われる「効率バスケ」において重要とされる3Pシュートとフリースローについて見ていきます。

まず基本情報として、横軸に1試合平均のフリースロー試投数[FTA]、縦軸に1試合平均の3Pシュート試投数[3PA]をプロットした散布図を見てみましょう。右に行くほどフリースローが多く、上に行くほど3Pシュートが多いことを表します。

平均25点以上を挙げた選手については点の代わりに名前を示しています。名前の横の数字は該当シーズンです。どうやら全体的な傾向として、3Pシュートが多い選手はフリースローもたくさん撃っているようです。これは「3Pシュートが武器である選手はフリースローをもらうのが上手い(フリースローも武器である)」ことを意味しているのでしょうか。おそらく違います。エース級の選手はボールを持つ機会が他の選手よりも多いので、必然的に3Pシュート数もフリースロー数も他と比べて多くなっていると考える方が自然だと思います。このグラフからは、選手が3Pシュートを武器としているのか、フリースローを武器としているのかは断定できないでしょう。

そこで「平均得点のうち3Pシュートで取った得点が何%か / フリースローで取った得点が何%か」を基準としましょう。例としてアレン・アイバーソン[Iverson]のキャリアを見てみましょう。左列から順に「名前とシーズン」「所属チーム」「1試合平均の3Pシュート成功数」「1試合平均のフリースロー成功数」です。

アイバーソンのルーキーシーズン(1番下の列 / 96-97)に注目してみましょう。彼はルーキーシーズン、平均23.5得点をあげていたようです。…23.5点?!わお…。また、3Pシュートは1試合平均2.0本決めていたようです。1本決まれば3点なので、大まかに見積もって彼は1試合あたり3点×2.0本=6.0得点を3Pシュートで決めていたことになります。この場合「平均得点のうち3Pシュートで取った得点が何%か」はどうなるかというと、平均23.5得点のうち6得点なので、6.0÷23.5~26%です。ルーキー・アイバーソンは得点の26%を3Pシュートで得点していたようです。同様の考え方をフリースローでもしてみましょう。ルーキー・アイバーソンは1試合あたり5.0本のフリースロー成功数、つまり1点×5.0本=5.0得点がフリースロー由来だったということです。なので「平均得点のうちフリースローで取った得点が何%か」は、5.0÷23.5~21%ということになります。

このように、フリースロー成功数×1を平均得点で割っ(て100をかけ)たものを横軸にとり、3Pシュート成功数×3を平均得点で割っ(て100をかけ)たものを縦軸に取るとこのようになります。

右に行くほどフリースローでの得点割合が多く、上に行くほど3Pシュートでの得点割合が多いことを表します。赤線は「フリースローによる得点割合と3Pシュートによる得点割合が同じ」ラインなので、赤線より上はフリースロー得点割合よりも3P得点割合が多いゾーン、赤線より下は3Pシュート得点割合よりもフリースロー得点割合が多いゾーンです。どうやらアイバーソンは、3Pシュートによる得点割合がルーキーシーズンが最も高く、それ以降のシーズンはフリースローによる得点の方が多かったようです。

アイバーソンに加えて、スティーブ・ナッシュ[Nash]についても同様のことを見てみましょう。上のグラフにナッシュのデータを書き込んでみるとこうなります。

アイバーソン(青文字)とナッシュ(オレンジ文字)は見事に異なる位置づけになりました。ナッシュは赤線よりも上なので、フリースロー得点割合よりも3Pシュート得点割合の方が多い選手と言うことができるでしょう。なるほどなるほど。それではさらにこのグラフにステフォン・マーブリー[Marbury]を加えてみましょう。

マーブリー(赤文字)はちょうど赤線に乗っかるあたりに位置しています。つまりマーブリーはフリースロー得点割合と3Pシュート得点割合が同じくらいの選手だったということです。アイバーソンとナッシュ、マーブリーできれいにタイプが分かれましたね。おもしろいなあ。

さてそれでは、全56選手について横軸にフリースロー得点割合、縦軸にスリーポイント得点割合を表してみるとどうなるのでしょうか。こちらです。

赤線がフリースロー得点割合と3Pシュート得点割合が同じライン、青線は全体的な傾向を大まかに表しています。フリースロー得点割合が多いほど(右に行くほど)3Pシュート得点割合が少ない傾向が見て取れます。なるほど、全体的にはフリースロー得点割合と3Pシュート得点割合はトレードオフの関係と言えるかもしれません。

このグラフについてもう少し詳しく見ていきましょう。まずは左上、フリースロー得点割合が10%以下 & 3Pシュート得点割合が60%以上のゾーンに注目します。ここの選手は得点の大部分を3Pシュートで取っている&フリースローが少ないことから、ボールハンドルからインサイドに切り込む、というよりはインサイドにスペースを作るためシューター的役割を担っていると予想されます。

なるほど、キャリア晩年のマイク・ビビー[Bibby]とジェイソン・テリー[Terry]がここに位置するようです。キャリア晩年にシューター的役割でチームに貢献していたと考えると納得かもしれません。

次に平均得点が高い選手がこのグラフでどこに位置するのか見てみましょう。平均得点25点以上の選手を示すとこうなります。赤文字3Pシュート得点割合がフリースロー得点割合より高い選手青文字フリースロー得点割合が3Pシュート得点割合より高い選手です。

3Pシュート得点割合がフリースロー得点割合より高い選手(赤文字)を見てみると、15-16, 16-17シーズンの選手が多いことが分かります。3Pシュートを武器としたスコアリングガードは過去にはあまりいなかったことが分かります。一方でギルバート・アリーナス[Arenas]は時代に先駆けたハイスコアリング・スリーポイントガードだったことが分かります。なるほどー。ジェームス・ハーデン[Harden]は赤直線の上、フリースロー得点割合と3Pシュート得点割合がほとんどおなじあたりに位置することが分かります。しかもその位置は右上、つまり3Pシュートとフリースロー双方の得点割合が高いと分かります。つまり彼は、得点効率が高いと言われる3Pシュートとフリースロー両方を武器として備えた選手ということです。逆にラッセル・ウェストブルック[Russ]はアイバーソン風の、2Pシュート & フリースローでガシガシ点を稼ぐタイプだと分かります。興味深いのはデリック・ローズ[Rose]です。彼の10-11シーズン、つまりMVP受賞シーズンですが、フリースロー割合も3Pシュート割合もそんなに高くないようです。つまりローズは、2Pシュートで点を取りまくる(あるいはフリースローをなかなかもらえない?)スタイルだったことが分かります。逆にステフィン・カリー[Curry]のMVPシーズン(15-16)は、その得点の50%強が3Pシュート得点だったようです。…50%強⁈

もうひとつ、最近3年間でデビューした若手選手の今シーズンの成績について、このグラフ上のどのあたりに位置するかを見てみましょう。ルーキーは黒文字、2年目の選手は青文字、3年目の選手は赤文字で示しています。

今回注目した若手選手については赤直線の上側、つまり3Pシュート得点割合が多い選手が多いようです。矢張り時代なんでしょうか…。興味深いのはT.J.・マコーネル[McConnell]です。彼はフリースロー得点率が10%くらい、3Pシュート得点割合が5%くらいです。つまり、得点の85%が2Pシュートによる得点ということです。なんてすさまじい…。もうひとつ面白いのは、ジャマール・マレー[Murray]、ディアンジェロ・ラッセル[D'Angelo]、ザック・ラヴィーン[LaVine]が同じような位置にいることです。なにか…なにかこれには意味がある気がします。ただの勘ですけど。そして意外と(?)デビン・ブッカー[Booker]の3Pシュート得点割合が高くないことも見て取れます。ほほう…。

それでは最後に、3Pシュートもしくはフリースローをメインウエポンにするスタイル、得点効率が高いと言われるスタイルがオフェンス効率[100ポゼッションあたりのチームの得点数]の向上に実際のところ貢献してるのかどうかを見てみましょう。まずは横軸にフリースロー得点割合をとり、縦軸にオフェンス効率を取った散布図を見てみましょう。

…あれ?フリースロー得点割合とオフェンス効率、全然関係なくないですか?フリースローによる得点の割合が多い選手がオフェンス効率向上に貢献している、という関係性は、少なくともこのグラフからは言えそうにありません。

それでは横軸に3Pシュート得点割合をとり、縦軸にオフェンス効率を取った散布図を見てみましょう。

…あら?3Pシュート得点割合とオフェンス効率、これも関係なさそうじゃないですか?あれ?「効率バスケ」って結局何なの?どういうこと?

ああそうか、なるほど。ここまでは3Pシュート得点割合とフリースロー得点割合を別々のものとして扱ってきました。3Pシュート得点割合とフリースロー得点割合の合計が重要なのかもしれません。3Pシュートにせよフリースローにせよ、いわゆる「効率的な得点方法」であることには変わりません。よしよし、そうだな。それでは最後に、横軸に3Pシュート得点割合とフリースロー得点割合の合計縦軸にオフェンス効率を取ったグラフでおしまいにしましょう。

ふーむ。フリースロー&3Pシュート得点割合が高ければ高いほど良いわけではない、ということが見て取れます。オフェンス効率が110を超える選手は、多くがフリースロー&3Pシュート得点割合40~60%あたりに位置しているようです。なるほど、効率が良いと言われるオフェンスも、全体的なバランスを崩すと機能しないのかもしれません。

今季は56選手のみを見ていたので、3Pシュート又はフリースローの効率について断定的な結論を述べることはできません。しかし今回示唆されたこと、3Pシュートばかりに偏重してはダメ、フリースロー頼みになってもダメ、結局のところそれぞれバランスよく融合させたオフェンスが一番良いというのはまさにその通りのような気が、個人的にはします。

それでは今回は終わりです。ありがとうございました~。

【おわり】

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