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お前はまだロバーソンを知らない -You Don't Know ANDRE ROBERSON yet.-

 語感が好きだからタイトルをモジったわけですけど,読んだことないんですよねあのマンガ。あれってどんな内容なんですか?大丈夫?とんでもないR 指定のマンガとかじゃあないですよね?大丈夫?ディフェンスが目を切った隙に絶妙なタイミングでゴール下にカットしてレイアップを決めるマンガだったら助かるんですけど。

 ということで、今回はオクラホマシティー・サンダー最後の砦(ディフェンス)ことアンドレ・ロバーソンに注目したいと思います。「ディフェンスが上手い」や「彼のいる/いないでチームのディフェンス効率が大きく変わる」など、彼のディフェンスの貢献にまつわる話を目にしたことはあるのではないでしょうか。怪我によりシーズンエンドとなってしまったロバーソンですが、いったいどれほどの貢献をしていたのか、スタッツを交えて紹介していきたいと思います。

 以下,データはNBA.com/Statsのものを使用しています。

① ディフェンス効率(100ポゼッション換算の失点数)

最初にディフェンス効率(DEFRTG)に注目してみましょう。この数値が小さいほど「出場中に相手の失点を抑えている」すなわち「ディフェンスの貢献度が大きい」ことを意味します。日本時間3月6日14:50時点での DEFRTG の上位10傑[※1]はこのメンバーです。

 ハイスコアリング・ゲームが増える中、DEFRTG が 100 を切っているのはこの10 選手だけのようです。アンドレ・ロバーソンはリーグで最も DEFRTG が優れた選手であることが分かります。また,ロバーソンの2017-18シーズンについて,横軸にDEFRTG,縦軸にNETRTG(100ポゼッションあたりの得失点差 / 値が大きいほど優れている)をとった散布図を作ってみました。

 ○は勝利試合(W)を,●は敗戦試合(L)を表しています。ロバーソンのディフェンス効率が良い(DEFRTG が小さい)試合ほど NETRTG が高い(自チームのリードが広がる)傾向がある[※2]ことが見て取れます。

 この傾向は今季だけのものなのか,昨シーズン以前にも見られたものなのか,検討してみましょう。同様のグラフを彼の全キャリアについて作成してみます[※4]。ただし勝利試合は ○ で,敗戦試合は □ で表し,シーズンをデータ点の色で表しています(黄色が今シーズン)。また,データ点のサイズは試合時間のうち何%でロバーソンがオンコートだったか,を表します[※5:例えば試合時間 48分のうち36分間出場したら,36/48=75%]。

 …ふむ。キャリアを通して,ロバーソンのディフェンス効率が良い(低い)試合ほど NETRTG が良い(高い)傾向が確認できます[※3]。このデータをもう少し整理してみましょう。

 この表は,ロバーソンの DEFRTG によって勝率がどう変わるのかをザックリ表しています。2016-17シーズン以前は,ロバーソンの DEFRTG が100以下の場合の勝率は 83.1%(103/124)であり,今季の 78.3%(18/23) と 5% 程度の差があります。一方,ロバーソンの DEFRTG が 100 より大きい試合では, 2016-17シーズン以前の勝率が 47.0%(62/132)ですが,今シーズンは37.5%(6/16)と,勝率が大きく異なるようです。昨季以前は,ロバーソンのディフェンス効率が悪くても半分くらいの試合は勝てていたけれど,今季はロバーソンのディフェンス効率が悪いと3試合に1回程度しか勝てていなかったことを意味しています。2017-18シーズンは彼のディフェンスの貢献度(あるいは負担の大きさ)はチームを勝たせるほどであったと言えるのではないでしょうか。

② 「試合時間の何%の時間帯でロバーソンがオンコートだったか」とその他スタッツの関係性

 この章はちょっとややこしい解析をするので,よく分からないなと感じたら太字部分だけ見てくださってもOKです。さてそれでは。

 少し特殊な指標を使っていきます。一つ目は「試合時間のうち何%でその選手がオンコートだったか」です。これを『MIN%』としておきます。例えば試合時間 48分中 36分 の出場だったら,MIN%=36/48=75%です。もしもフル出場したら MIN% は 100%になります。例えばロバーソンの全キャリアについて MIN% を出すとこのようになります。

 キャリアを重ねるにつれ MIN% が高くなった(出場時間が増えてきた)こと,今シーズン(黄色)は昨シーズン(オレンジ?)よりも MIN% が低そうだ,ということが分かります。

 この MIN% を横軸としつつ,縦軸に次の2ファクターを考えていきたいと思います。1つ目は「チームのファストブレイク失点(OPP FBPS)のうち何%がロバーソンのオンコート時の失点か」,2つ目は「チームの被ペイント内得点(OPP PITP)のうち何%がロバーソンのオンコート時に決められた得点か」です。

2-1 チームのファストブレイク失点(OPP FBPS)のうち何%がロバーソンのオンコート時の失点か

 この指標は「ロバーソンがオンコートになることでどれだけ相手のファストブレイク得点を抑えられているか」を表します。以下,これを『% OPP FBPS』とします。例えばロバーソンがフル出場したら,OPP FBPS はすべてロバーソンのオンコート時に起こったことになるので,% OPP FBPS は 100% になります。一方,ロバーソンが出場しなかったら,ロバーソンのオンコート時の OPP FBPS はゼロなので,% OPP FBPS は 0% です。単純に考えると,出場時間が増えるにつれ,OPP FBPS も増えるはずなので,MIN% と % OPP FBPS は比例するはずです。つまり,MIN% よりも % OPP FBPS が小さい値だったならば,ロバーソンがオンコートになることで相手のファストブレイクを抑制していると考えることができる,ということです。

 …分かりにくいですね。それじゃあ少し例を。次の表は今シーズンのロバーソンのスタッツです。

 一番上の行(@DET)を見てみましょう。この試合でロバーソンは,試合時間のうち 45.8%(出場22分/試合時間48分)に出場しています。これが MIN% です。一方,チームのファストブレイク失点のうち,ロバーソン出場中の失点は 0%(ロバーソンのオンコート時に 0 失点/チームとして12失点)です。これが % OPP FBPS です。この場合,MIN% に対して % OPP FBPS が小さいので,ロバーソンがオンコートになることで相手のファストブレイク得点を抑制することができていた,と推測することができます。また,一番下の行(vs. MIL)を見てみましょう。この試合では MIN% が72.9% なのに対して % OPP FBPS が 89.5% です。つまり,出場時間のわりに多くのファストブレイク得点を許してしまった,ロバーソンによるファストブレイク抑制の効果があまりなかった,と推測することができます。

 MIN% と % OPP FBPS の関係から推定できることをまとめると次のようになります。

・ MIN% のわりに % OPP FBPS が小さかったら「ロバーソンがオンコートになることで相手のファストブレイクを抑制できている」
・MIN% のわりに % OPP FBPS が大きかったら「ロバーソンのオンコートによる相手のファストブレイクを抑制する効果が小さかった」

 このロジックを基に,17-18シーズンのロバーソンについて MIN% と % OPP FBPS の散布図を描いてみます。

 破線は MIN% = % OPP FBPS となるラインを表しています。つまり破線より下側は「ロバーソンがオンコートになることでファストブレイクが抑制された」試合であるということです。ロバーソンの総出場試合数 39 試合のうち,彼がオンコートになることでファストブレイクを抑制したと推測されるのは 25 試合です。この 25 試合における勝率は 68.0%(17/25)ですが,ファストブレイクを抑えきれなかった 14 試合における勝率は 50%(7/14)です。ここでも彼のディフェンスにおける影響力がうかがえます。

 この観点で,昨シーズンまでの成績と比較してみましょう。昨シーズン以前,ロバーソンのオンコート時にファストブレイクでの失点が抑制された試合の勝率は 71.5%(93/130)で,それ以外の試合の勝率は 56.5%(70/124)です。昨シーズンまでは,ロバーソンのオンコート時にファストブレイクを抑えられなくてもそこそこ勝っていたことが分かります。昨季までと比べると,抑えられなかった試合での勝率が 5% 以上違っており,今季の方が貢献度が上がっていると考えることもできそうです。

2-2 チームのペイント内失点(OPP PITP)のうち何%がロバーソンのオンコート時の失点か

 この指標は「ロバーソンがオンコートになることでどれだけ相手のペイント内得点を抑えられているか」を表します。基本的なアイディアは 2-1 と一緒です。以下この指標を『% OPP PITP』とします。ここでも矢張り,出場時間が増えるにつれ,MIN% と % OPP FBPS は比例するはずなので,MIN% よりも % OPP PITP が小さかったら,ロバーソンがオンコートになることで相手のペイント内得点を抑制していると考えることができます。

・ MIN% のわりに % OPP PITP が小さかったら「ロバーソンがオンコートになることで相手のペイント内得点を抑制できている」
・MIN% のわりに % OPP PITP が大きかったら「ロバーソンのオンコートによる相手のペイント内得点を抑制する効果が小さかった」

 さて,それでは17-18シーズンのロバーソンについて MIN% と % OPP FBPS の散布図を描いてみましょう。

 破線は MIN% = % OPP PITP となるラインです。なので破線より下側が「ロバーソンがオンコートになることでペイント内失点が抑制された」試合と考えられます。ロバーソンの総出場試合数 39 試合のうち,彼がオンコートになることでペイント内失点を抑制したと推測されるのは 26 試合で,勝率は 73.1%(19/26)です。一方,破線より上側の 12 試合における勝率は 33.3%(4/12)なので,やはりここでも,ロバーソンのオンコート時にペイント内失点が抑えられるかどうかでチームの勝率が大きく変わっていたことがうかがえます。

 これについても昨シーズンまでと比較してみましょう。昨シーズン以前,ロバーソンのオンコート時にペイント内失点が抑制された試合の勝利は 68.2%(90/132)で,それ以外の試合の勝率は 59.3%(70/118)です。昨季まではロバーソンのオンコート時にペイント内失点をされようがされまいが,60%近い勝率を誇っていたようです。それが今季,ロバーソンのオンコート時にペイント内をこじ開けられた試合では勝率が 30% ちょっとしかないことを考えると,勝てるかどうかはロバーソンがコートにいる間にディフェンスで相手を抑えられるかどうかにかかっていたと考えられます。ここでも矢張り,ロバーソンによるディフェンスでの貢献度・負担が今季は特別大きかったことが分かります。


 いかがでしたでしょうか。今回の検証で分かったことは2つあると思います。

1. ロバーソンのディフェンスでの貢献度は予想以上に大きい

2. 特に今シーズンは特別貢献度(負担?)が大きく,ロバーソンのディフェンスでの貢献次第で決着した試合も少なくなかったのかもしれない

 そんなロバーソンをケガで欠くOKCは,かなり厳しい状態に置かれていると言っても過言ではないでしょう。これほどの影響力を持っていたロバーソンの不在をどうOKCが乗り切るのか,逆に楽しみな残り試合になりそうです。

 今回はロバーソンのスタッツを軽く[※6]解析してみました。次回以降(ができれば)もっと深い内容でロバーソンの貢献度を検証,できたらいいな。

おわり。

[※1] 平均出場時間15分以上かつ総出場試合数20試合の選手を対象
[※2] 相関係数 -0.62
[※3] 相関係数 -0.75
[※4] 出場時間 10 分以上の試合を対象
[※6] そんなに内容重たくないのに,この記事書くのに 8 時間くらいかかっている。若い頃のようにはいかない。

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