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考察:LeBron James 2022 ~なんで Westbrook を獲ったの?

僕は 2010-11 シーズンから NBA を視聴し始めたオクラホマシティサンダーファンです。よって,多分に漏れずラッセル・ウェストブルック原理主義者であります。というのは昔の話で,実際のところ,ウェストブルックが OKC を離れてしばらく経ちましたんで,今では当時のように,ウェストブルックをスタッツでぶん殴ってくる相手をスタッツで殴り返すような真似はしておりません。あまり。あくまで現在の僕は「あの頃のウェストブルックは…」と感傷に浸る懐古主義者であり,彼がロサンゼルス・レイカーズでどんなプレーをしていようがお好きにどうぞ思っているわけです。

…とはいえやっぱり気になっちゃってます。だってレブロン・ジェームスとラッセル・ウェストブルックのデュオですよ?! 稀代のオールラウンダーとトリプルダブル製造機が並んでるんですよ?! 行く末が気にならないわけないじゃないですか。この興奮はあれです,デマーカス・カズンズとアンソニー・デイビスがタッグ組んだときと同じ類の興奮です。気になっちゃうわけですよ。なのでとりあえず,今季のレブロン&ウェストブルックのデュオについて,気になるスタッツを見ていこうかなと思います。

以下,日本時間1月2日時点の NBA 公式サイトの公開データを分析した内容を書いていきます。また,最初にデータからわかる事実を書いたのち,その事実について考察していく,という流れで書いていきます。「事実」には「誰がどう見てもそうであること」を,「考察」部には「事実を基にするとこう考えられると僕は思うんですけど,どうっすか?」ということを書いていきます。

1.Westbrook→LeBron のホットライン

次の表は,レブロンの FGM %AST(シュート成功数のうちアシストからのシュートが占める割合)が高い順に諸スタッツを並べたものです。この表をとっかかりとして,今季のレブロンとウェストブルックについて考えてみます。

表1:LeBron James の FGM %AST

1-1.表1からわかる事実

今季のレブロンは,キャリアで3番目にアシストからのシュート成功の割合が高いシーズンになっているようです。とはいえ,今季よりも FGM %AST が高いのはキャリア最初の2年間なので,彼がリーグを支配し始めてからに絞れば,今季はレブロン史上最も「使われている」シーズンだと言ってもよいのかもしれません。

また,表を眺めていると,なんとなく2つの傾向が見えてきます。1つ目は,「レブロンが「使われる(≒FGM AST%が高い)」シーズンほどシュート成功率が高い」こと。そしてもう1つ,「レブロンが優勝したシーズンの多くは,レブロンが「使われる」シーズンだった」という傾向です。

図1:LeBron James の FGM %AST と FG% の関係

1-2.表1の考察

レブロンの被アシスト率(FGM AST%)が例年よりも高くなっている要因としてパッと思いつくことは,やはりラッセル・ウェストブルックの存在です。ウェストブルックは,ここ数年間で何回も平均10アシスト以上(ついでに4ターンオーバー以上)をたたき出してきたほどの名パサー(迷パサー?)でもあるので,レブロンが自分で自分のシュートクリエイトする負担を軽減している可能性があります。

ちなみに,レブロンの過去のチームメイトと比較しても,ラッセル・ウェストブルックはレブロンを最も「使っている」選手のようです。次の表2は,レブロンの歴代チームメイトのうち,レブロンのFGM(シュート成功数)をアシストした割合が高い選手,上位7名です。

表2:レブロンのシュートをクリエイトしている/してきた選手

ウェストブルックからのパス供給によるシュート成功の頻度が飛びぬけて高いことがわかりますね。少なくとも「レブロンへのアシスト供給」という意味では,ウェストブルックがレブロン史上最高の相方ということになってしまう…?良いんですか?そんな名誉な称号を,ウェストブルックが頂いちゃって良いんすか?

さらに,21-22 シーズンに 20+/4+/4+ を達成中の選手を数名ピックアップして FGM AST% と最もパス供給の多いチームメイトを調べてみたのが表3です。

表3:20+/4+/4+ を達成中の数選手の被アシスト率

こうしてみると,レブロン&ウェストブルックのデュオは,少なくともデュラント&ハーデンやカリー&ドレイモンド並みのコネクションになっていると言える…かもしれないです。

※「依存度」は「アシスト付きFGMのうち特定の選手からのアシスト頻度」で見ている。モンテ・モリスのアシストによるヨキッチの FGM AST% は約20%であるが,そもそもヨキッチはシュートの約60%が被アシストシュートであるから,特定選手への依存度としては中程度と言えるだろう。

では,そもそもなんでそんな選手(レブロンにパスを供給できる選手)が必要だったのかを考えるために,レブロンの FGM のうちアシストなしシュートと被アシストシュートの内訳をみていきます。図2は 2014-15 シーズン,レブロンが CLE に帰還したシーズンの FGM の内訳です。選手名が書いてあるところは,FGM のうち該当選手からのアシストを受けていた割合を示しています。

図2:LeBron James の 被アシスト率内訳(2014-15)

2014-15シーズンは,総FGMのうち 65.5% がアシストなし,34.5% がアシストありの FGM だったようです。そしてご存じのように,このシーズンの CLE はNBAファイナルでウォリアーズに敗退しました。それを受けた CLE そしてレブロンが,% FGM をどのように変化させたのか見てみましょう。

図3:LeBron James の 被アシスト率内訳(2015-16)

14-15シーズンから15-16シーズンにかけて,アシストなしの FGM の割合が減少し,アシストありの FGM の割合を増加させています。また,マシュー・デラベドバと(11.4%)とケビン・ラブ(9.2%)という2人のパス供給源を得ていることも分かります。アシストありのシュートが増えることで,レブロンが自分でシュートをクリエイトする負担を軽減したことが予想されます。そしてこのシーズン,CLE は念願の初優勝を果たしました。実はこの「レブロンのアシストありシュートの割合が高いシーズンは優勝する」という事案は,MIA 時代にも起こっていたのです。次の図4ー1~図4-3をご覧ください。

図4-1:LeBron James の 被アシスト率内訳(2010-11)
図4-2:LeBron James の 被アシスト率内訳(2011-12)
図4-3:LeBron James の 被アシスト率内訳(2012-13)

マイアミ時代のレブロンは,シーズンを経るごとにそのアシストなしFGMの割合が下がりアシスト FGM の割合が上昇しています。ドウェイン・ウェイドとマリオ・チャルマーズという2人のパス供給源を得て,自分で自分のシュートをクリエイトする負担が軽減されていたのではないでしょうか。また,マイアミ時代のレブロンはその高効率なオフェンスで有名でした。チームメイトからのパスを受け,「使われる」ことで良いシュートを撃つことが出来ていたのかもしれません。

そして次の図5ー1が,昨季と今季のレブロンの被アシスト率です。

図5-1:LeBron James の 被アシスト率内訳(2020-21)
図5-2:LeBron James の 被アシスト率内訳(2021-22)

昨季から今季にかけて,アシストなしのシュート割合が減少し,アシストありシュートの割合が上昇しています。レブロンの平均得点が例年より高いため,一見すると「レブロンのオフェンスの負担が増えている」とも捉えることもできそうな今シーズンですが,そのシュートの内訳をみてみると,実は見かけほど負担は増加していない,むしろ「使われている」今季は負担が減っている可能性さえあるとも考えられます。

1-3.ここまでのまとめ

というここで,ここまでの議論を一度整理します。

  • 今季のレブロンは,オフェンスにて例年になく「使われている」シーズンである。

  • レブロンのチームメイト史上,最もレブロンを「使っている」のがラッセル・ウェストブルックである。

  • MIAやCLEなどを振り返ると,レブロンが「使われる」ことでそのスコアリングの質が上がり,優勝につながっていた可能性が示唆される。

  • これらを踏まえると,ラッセル・ウェストブルックの獲得によりレブロンの負担が軽減しシュートの質が向上することが期待される。

  • ただし,レブロンがここまで特定の選手に「依存」しているのは初めてのことなので,今後の動向に注目したいところ。

しかし,もしかするとなかには「そんなのお前の予想でしかねえだろ」とお思いの方がいらっしゃるかもしれません。そこで調べてみたのが eFG% です。eFG% とは3Pシュートに重みづけをして算出されるシュート成功率です。今季のレブロンは,キャリアのなかでも非常に高効率にシュートを沈めているシーズンでもあります。次の表は,レブロンの eFG% をリストにしたものです。

表4:LeBron James の eFG%

ウェストブルックというパスの供給源を得ることで,アシストを受けながらのシュートが増え,自分で自分のシュートをクリエイトする負担が軽減される。そしてレブロンのシュートの質が向上する。キャリア3番目に高い今シーズンの eFG% の理由として,このストーリーが妥当だと(少なくとも僕は)思うのですが…いかがでしょうか?

ただ,ここまでの話はすべてデータのみにもとづいた議論です。冒頭に言った通り,僕はオクラホマシティサンダー・ファンでありレイカーズの試合をまったく見ていない(いや1試合は見たかな(待って,3試合くらいはみたかも…(だってほら,やっぱり気になるから…ウェストブルックのことが)))ため,実際のところどうなのかはさっぱり知りません。まったく見当違いのことを話してきたのかもしれないし,あるいは思わぬ気づきを引き出せたのかもしれません。もしそうであれば幸いです。

ここはぜひともレイカーズ・ファンやレブロン・ファン,ウェストブルック・ファンでたくさん試合を見てらっしゃる方たちから,試合を見ている実感を基にしたコメントを頂けると嬉しいところですね。

ということで次回は,じゃあどのように「レブロンのオフェンスの質の向上」が起こっているのか?というについて,考えていこうと思います。ご期待ください!

…と言いながら,過去の経験上,ほんとにちゃんと「次回」を書けたためしがないので,あまり期待はせずに…。

おわり。

補足:今回用いたバスケットボール指標の定義一覧

“科学において定義というのは奇妙な代物で、真でも偽でもないが有用であってほしい。”
“それでも定義は、この世界を新たな形で見つめることを可能にし、深い意味で有用になりうるのだ。”

スチュアート・A・カウフマン『WORLD BEYOND PHYSICS』

一般に用いられている指標については,ここの定義を引用しています。

FGM AST%:The percentage of field goals made that are assisted by a teammate

eFG%:Measures field goal percentage adjusting for made 3-point field goals being 1.5 times more valuable than made 2-point field

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