Rookie Sensation / 17-18ルーキーは「豊作」なのか

 「今年は豊作」との声がちらほら聞こえる17-18NBAシーズン。それでは過去のルーキーと比べて今季のルーキーはどうなのか,データを通して考えてみたいと思います。

 以下,Basketball-Reference の Traditional Stats のページと Advanced Stats のページの,現地 12/30 時点のデータを使用していきます。対象は 1946-47 シーズン以降のNBA(または前身のバスケリーグ・NBA)のルーキーのうち,Basketball-Reference にデータの記載がある選手です。選手データの総数は4146,ただしルーキーシーズンの途中で移籍した選手は,複数選手としてカウントされています(例:1949-50のルーキー Bob Harrison は,シーズン中に1回移籍したため,2選手としてカウントしている)。また,3Pシュートが採用されていない年代は 3P 関係のデータがないし,その他データのないシーズンがちらほらありますがそこはご了承ください。

Ⅰ. 平均得点

 まずはルーキーの平均得点に注目してみましょう。ちなみに17-18シーズンのルーキーのうち,平均 15 点以上を記録している選手は3人います。

Pct.2PA は総シュートに占める 2P シュートの割合[%],Pct.3PA は総シュートに占める 3P シュートの割合[%]Pct.FT.PTS は総得点に占めるフリースロー得点の割合[%]です。ドノバン・ミッチェル(UTA)とカイル・クズマ(LAL)が3PA の頻度が高い現代的な点の取り方の選手である一方,ベン・シモンズ(PHI)は総シュートのほぼすべてが 2Pシュートという,比較的クラシックな点の取り方をしていることがうかがえます。また,17-18 シーズンの平均得点が 10点より高い選手は上記の3選手を合わせて全9人です。

 さて,そんな17-18シーズンですが,過去のルーキーと比較したときの立ち位置はどうなっているのでしょうか。横軸に平均出場時間,縦軸に平均得点をプロットした散布図を見てみましょう。黒の大きなデータ点が 17-18シーズンのルーキーを表しています。

 グラフから,過去5シーズンのうち平均 15 得点以上の選手を最も多く輩出しているのが17-18シーズンだと分かります。やはり17-18シーズンは,得点力の面でいうと豊作ルーキーなのかもしれません。

【2009-10シーズン以降のルーキーのうち,平均得点が15点より高い選手一覧。ここに名前が出ているルーキーの多くが,スター級の選手になっている】

Ⅱ.3Pシュートとフリースロー

 「効率的」という観点から近年注目されている 3Pシュートとフリースロー。この2つについて,歴代ルーキーのデータを見ていきたいと思います。

まずは横軸に総シュートに占める3Pシュートの割合[%]を,縦軸に平均得点をプロットします。ただし総シュート数が100本以上のルーキーが対象です。

 グラフより,総シュートのうち25%(4本に1本)以上の頻度で3Pシュートを放ちながら平均10得点以上の選手は,17-18シーズン(黒くて大きい点)が多そうだ,ということが読み取れます。13-14シーズン以降のルーキーで平均 15点以上 & 3P頻度25%以上を達成しているのが2選手だけであることからも分かるように,歴代でも達成者が多くないことが分かります。

【13-14以降のルーキーのうち,平均 10点以上 & 3P頻度25%以上 を達成している選手一覧。13-14で2選手,14-15で3選手,15-16で4選手,16-17で2選手が達成した中,17-18ルーキーは8選手が達成している。しかも17-18ルーキー当該8選手はみな,3P頻度が30%以上(およそ3本に1本が3Pシュート)である。ルーキーの大きな転換期,つまり,バスケットボールの変革期,なのかもしれない】

【歴代ルーキーのうち,3Pシュート頻度が25%以上の選手を対象とした平均得点ランキング Top10。なんと,17-18ルーキーから2選手(ドノバン・ミッチェル(UTA),カイル・クズマ(LAL))がランクイン。過去のメンツを見ても,この2人のルーキーは相当すごい選手になる…予感がする】

【逆に,13-14以降のルーキーのうち,平均 10点以上 & 3P頻度25%未満 を達成しているのはこれらの選手。とはいえ「今となっては3P頻度がかなり上がっているだろうなあ」と思わせる過去のルーキーもちらほら。このうち,ボールハンドラーなのに3P頻度が10%未満なのはベン・シモンズ(PHI)だけ。10%未満,というか,ほとんどまったく3Pを撃っていない。ボールハンドラーの次点はマイケル・カーター=ウィリアムス(PHI)の19.7%。さてさて,ベン・シモンズの未来はいかに…】

 次いで,総得点に占めるフリースローによる得点の割合(% FT PTS)を見ていきます。歴代ルーキーについてはフリースローをトータルで100本以上,17-18ルーキーについてはフリースローを50本以上撃った選手を対象に,横軸に % FT PTS を,縦軸に平均得点をプロットしました。

 グラフから分かるように,17-18ルーキー(黒い大きい点)は,% FT PTS が25%以上の選手が1人もいないことが分かります。フリースロー以外の手段で得点を重ねている,あるいは,フリースローのもらい方が上手ではない,と推測されるでしょうか。この傾向は今季だけではなく,過去5シーズンも同様であるようです。

【過去5シーズンのルーキーのうち,得点数に占めるフリースロー得点の割合が25%を超える選手は全部で9選手のみ。また,フリースロー得点の割合が25%以上かつ平均10得点以上となると,ジョエル・エンビード(PHI)と二コラ・ミロティッチ(CHI)の2選手だけである】

【歴代ルーキーのうち,平均15点以上の選手を対象とした% FT PTS が低い選手 Top 10。17-18ルーキーからはカイル・クズマ(LAL)とドノバン・ミッチェル(UTA)がランクイン】

 最後に,横軸にフリースロー得点の割合を取り,縦軸に3Pシュート頻度をプロットしてみます。対象は,フィールドゴール50本以上かつフリースロー50本以上を撃った選手です。

 17-18ルーキー(黒い大きいデータ点)のトレンドが「フリースロー得点率25%以下&3Pシュート頻度25%以上」であることが分かります。逆に,過去には多くいた「フリースロー得点率25%以上&3Pシュート頻度25%以下」には絶滅の兆しがあるようです。また,歴代ルーキーの中でも「フリースロー得点率25%以上&3Pシュート頻度25%以上」は激レアの部類に入るみたいです。

【NBA史の中で上記の「激レアルーキー」なのはこの14選手。そのうち3選手はコービー・ブライアント(LAL),ジェームス・ハーデン(OKC),ヤニス・アンテトクンポ(MIL)。彼らは,のちにスター選手になったが,ルーキー時代は平均10得点未満だった。3PとFTは「効率的」な点の取り方と言われており,これら2つを武器とする選手のなかからスター選手が生まれるのは必然的である,ような気がする。アンドリュー・ハリソン(MEM)などの若手・激レアルーキーの中から,スターに成り上がる選手が出てくる…かもしれない】

Ⅲ. アシストとリバウンド,得点との関係

 まずは歴代ルーキーの平均リバウンド数に注目してみましょう。横軸に平均出場時間を,縦軸に平均リバウンド数をプロットします。

 過去5シーズンのうち,ルーキーながら平均リバウンド数が10本を超えたのは1選手だけ(カール=アンソニー・タウンズ(MIN))で,過去ルーキーの中でも平均10リバウンドはなかなか達成できない記録のようです。そんな中,17-18ルーキー(黒の大きいデータ点)は近年の中では比較的,リバウンド数の多い選手がたくさんいるようです。

【最近5シーズンのルーキーのうち,平均6リバウンド以上なのはこの15選手だけ。そのうち5選手は17-18ルーキーなので,リバウンドの能力的にも17-18ルーキーは豊作といえる,かもしれない】

 次いで,横軸を平均得点,縦軸を平均リバウンド数としてプロットしてみます。ただし,まともにプロットすると平均30得点20リバウンドの化け物データのおかげでグラフが見にくくなるため,平均15リバウンド以下の選手を対象としてグラフを作りました。

 最近5シーズンのルーキーのうち,15得点10リバウンド以上を記録したのはカール=アンソニー・タウンズ(MIN)ただ1人のようです。しかし,平均10得点6リバウンド以上のルーキーに注目すると,その多くが17-18ルーキーであることが分かります。17-18シーズンのルーキーには,得点力とリバウンド力の両方を備えた選手が多いことが分かります。

【最近5シーズンのルーキーのうち,平均10得点6リバウンド以上を達成した11選手中6選手が17-18シーズン。やはり17-18は豊作なのかもしれない。また,PHIの選手が5選手も名を連ねており,サム・ヒンキー様様である】

 また,同様に歴代ルーキーのオフェンスリバウンドにも注目してみます。縦軸に平均出場時間,横軸に平均オフェンスリバウンド数をプロットしました。

 最近5シーズンのルーキーのうち,平均オフェンスリバウンド数が2本以上だった選手は多くありません。そんななか,ジョン・コリンズ(ATL)は平均3オフェンスリバウンドを記録しています。これは歴代ルーキーの中でも相当すごい記録であることがグラフから分かります。17-18ルーキーの華々しい活躍として語られることは多くないジョン・コリンズですが,今後注目すべき選手の一人かもしれません…。

【最近5シーズンのルーキーのうち,平均オフェンスリバウンドが2本以上の選手はこの14選手のみ。うち17-18シーズンのルーキーは1選手のみ。17-18ルーキーは3P頻度が上がってる分,オフェンスリバウンドに飛び込む機会が減っているのではないか,と推測される。ビッグマンが名を連ねる中ジャバリ・パーカー(MIL)の存在が興味深い】

【25分以下の平均出場時間で3本以上の平均オフェンスリバウンドを記録したのはこの8選手のみ。ガンバれジョン・コリンズ(ATL)】

 次に,歴代ルーキーのアシスト数にフォーカスしてみましょう。横軸に平均出場時間,縦軸に平均アシスト数をプロットしました。

 グラフから,平均アシスト数が5を超えるルーキーは,歴代の中でも多くないことが分かります。そんななか,17-18ルーキーからは現在3選手が5アシスト以上を記録しています。アシストという観点でも,最近のルーキーの中では今季のルーキーが抜けていることがうかがえます。

【最近5シーズンのルーキーのうち,平均アシスト数が4以上の11選手をリストアップ。このうち4選手が17-18シーズンのルーキー。特に,ベン・シモンズ(PHI)とロンゾ・ボール(LAL)は平均アシスト数が7を超えており,達成すれば最近5シーズンのルーキーで初の達成となる】

 ここで,横軸に平均得点,縦軸に平均アシスト数を取ったグラフを見てみましょう。

 歴代ルーキーの中でも,平均15得点以上&平均7.5アシスト以上を記録しているのはわずか10選手だということが分かります。そんなレアなスタッツを残している17-18ルーキーがベン・シモンズ(PHI)です。

 【歴代ルーキーのうち平均15得点以上&平均7.5アシスト以上の達成者一覧。オスカー・ロバートソン(CIN),アイザイア・トーマス(DET),アレン・アイバーソン(PHI)などのスター選手たちが名を連ねる。ベン・シモンズも彼らに匹敵するスター選手になる…かもしれない】

 さらに,横軸に平均リバウンド数,縦軸に平均アシスト数をプロットしてみます。

 グラフのように,平均5リバウンド以上&平均5アシスト以上は,歴代でも17選手しか達成していないレアな記録です。しかし,2名の17-18ルーキーがこのレアな記録を達成しています。すごい。

平均5リバウンド以上&平均5アシスト以上の達成者一覧。ジェイソン・キッド(DAL)やマジック・ジョンソン(LAL),アンファニー・ハーダウェイ(ORL)やグラント・ヒル(DET),レブロン・ジェームス(CLE)など,オールラウンダーの代名詞である選手たちが多く居並びます。ここにランクインする17-18ルーキーはベン・シモンズ(PHI)とロンゾ・ボール(LAL)。彼らも歴史に残るオールラウンダーになる…かもしれない】


 ということで,歴代ルーキーと比較した17-18ルーキーの立ち位置を見てきました。分かったことは大きくまとめてこの2点。

ドノバン・ミッチェル(UTA)とカイル・クズマ(LAL)は,新時代のスコアリングエースになる…かもしれない。

ベン・シモンズ(PHI)とロンゾ・ボール(LAL)は,往年のスターに匹敵するオールラウンダーになる…かもしれない。

 他にも,注目すべきルーキーがいました。やはり,17-18ルーキーは(少なくともスタッツの面では)豊作と言えるのだと思います。

 もちろん,ここでは単にスタッツを比較しただけなので,ここで取り上げた17-18ルーキーがほんとに大成する保証はありません。ですが,歴代の選手と比較しても劣らないほどの輝きを,現時点で放っていることは間違いないと思います。彼らがどんな選手になっていくのか,期待しながら見届けていきましょう。

おわり。

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