"PIE" ってなに?

NBA.com/Stats で見ることができるスタッツの中に "PIE (Player Impact Estimate)" というものがあります。このスタッツはいったいなんなのか?そしてこのスタッツをどう解釈してどう活用していけばいいのか?ぼく自身まだまだ勉強中なのですが、自分の中で整理をするためにも、PIEにフォーカスした話をしていこうと思っています。ということで今回の記事は、PIEについて以前いくつか(けっこう)ツイートしたのですが、それらを丁寧に塗りなおしていく作業です。

2016-17シーズンにおけるPIE個人ランキング上位15傑(出場試合数30試合以上の選手を対象)

そもそも "PIE" とはどう定義されたスタッツなのでしょうか?NBA.com/Stats 内では次のように紹介されています。

It is a simple metric that gives an excellent indication of performance at both the team and player level. … PIE shows what % of game events did that player or team achieve. (太文字は原文まま)

つまりPIEとは "選手(又はチーム)のパフォーマンス・レベル"を表す指標であり"ゲーム内で起きた出来事のうち何%がその選手(又はチーム)によってもたらされたか"を表す指標であるようです。また、PIEを計算する数式は次のようなものです。

PIE=(得点数 + フィールドゴール成功数 + フリースロー成功数 - フィールドゴール試投数 - フリースロー試投数 + ディフェンスリバウンド数 + (0.5 × オフェンスリバウンド数) + アシスト数 + スティール数 + (0.5 × ブロック数) - パーソナルファール数 - ターンオーバー数) / (ゲーム内総得点数 + ゲーム内総フィールドゴール成功数 + ゲーム内総フリースロー成功数 - ゲーム内総フィールドゴール試投数 - ゲーム内フリースロー総試投数 + ゲーム内総ディフェンスリバウンド数 + (0.5 × ゲーム内総オフェンスリバウンド数) + ゲーム内総アシスト数 + ゲーム内総スティール数 + (0.5 × ゲーム内総ブロック数) - ゲーム内総パーソナルファール数 - ゲーム内総ターンオーバー数)

…分かりにくいですね。ということで、具体的なシチュエーションを考えてPIEを咀嚼していきましょう。

まずはチームのPIE値を例にとって考えます。ある試合において、Box Scoreの項目が得点以外の全てにおいてAチーム(以下A)とBチーム(以下B)で同じ値だったとします。この時、もしもAの得点数が100点、Bの得点数が100点だった場合、AもBもPIEは50%です。PIEは"ゲーム内で起きた出来事のうち何%がその選手(又はチーム)によってもたらされたか"を表すので、全てのスタッツが均衡状態の場合、その試合におけるPIEはお互い50%になります。

それではAの得点数が110点、Bの得点数が90点の場合はどうでしょうか。AのPIE値は、50%よりも大きくなります。得点以外のスタッツが同じなので、AはBよりも得点数の差分だけたくさんの出来事を記録しているわけです。それではBのPIE値はいくらになるのでしょうか。得点数の差分がマイナスである、つまり得点という出来事の数がAよりも少ないので、BのPIE値は50%よりも小さい値になります。それ以上に重要なのは、BのPIE値が100% - AのPIE値 として求められることです。試合中に起きる出来事はすべてAかBによって記録されるため、AのPIE値とBのPIE値を足すと必ず100%になるのです。

これがなぜ重要か。バスケットボールの勝敗は、試合におけるチームのPIEが50を超えるかどうかで決まることになるからです。バスケットボールというスポーツを、総和100%を2チームで奪い合うスタッツ陣地取りに置き換えて考えることができるのです。相手よりたくさんPIEを稼いだ方が勝つ、様々な要素が絡んだスポーツをシンプルな基準に落とし込んで考えることができるのです。

「PIEが50を超えるかどうかで勝敗が決まるはずがない」と感じるでしょうか。ここでNET RTG(100ポゼッションあたりの得失点差)とPIEの関係性を見てみましょう。NET RTGは得失点差なので、プラス方向に大きい値であるほど勝率が高い、マイナス方向に大きいほど勝率が低い傾向にあります。

(2016-17シーズンにおける、チームのNET RTG(横軸)と勝率(縦軸)の散布図)

勝率との相関から、NET RTGは強いチームかどうかを表す指標と言うことができます。さてそれでは、PIEと勝率の関係を見てみましょう。

(2016-17シーズンにおけるチームのPIE(横軸)とNET RTG(縦軸)の散布図)

PIEが50よりも大きいチームは勝率が50%以上であり、PIEが50を下回るチームは勝率が50%以下である傾向が見て取れます。すなわち、総和100%のスタッツ陣地取りであるPIEが、見事にチームの勝率と対応している、チームの強さと関係した指標として機能しているのです。(ただしもちろん、PIEが50を超えたら絶対勝つ、というわけではありません。NBA.com/Stats 内では "A team that achieves more than 50% is likely to be a winning team."と表現されているように、PIEが50を超えた試合では勝っている場合が多い、くらいの扱いだと考えた方が良いのでしょうね。それを踏まえたうえで次のお話)

個人スタッツの陣取り合戦的スタッツであるPIEで勝敗を表現できるという事実は、とてつもない可能性を秘めています。

NET RTGの問題点として「真に勝利(得失点差)に貢献している選手が誰なのかは分からない」ことが挙げられます。NET RTGはただの得失点差であり、それじゃあその得失点差は何によってもたらされたのか、までは分かりません。また、ちょっと極端な言い方ですが、プレイヤーのNET RTG値の大小は、その選手の貢献度を表しているとは限りません。その選手が果たした役割が大きくなくてもただ出ているだけでNET RTGが跳ね上がる場合もあります。逆に、劣勢の中で大奮闘しても負けてしまえばNET RTGは悪い値となるため、矢張り、その選手が試合の中で果たす役割、言い換えると試合における支配力といったものはNET RTGの範囲外なのです。

ここで登場するのがPIEです。PIEはスタッツ陣地取り、試合中に起こった出来事のうち何%を生み出したかを表す指標であり、チームのPIEが50を超えると勝利と考えられると紹介しました。チームで50と言うことは、5人の影響力・支配力・貢献度がみな同じとすると、勝利のために必要なPIEは1人あたり10ということになります。言い換えると、PIEが10より大きいならばその選手の影響力・支配力・貢献度は並み以上であると推定できるのです。それだけではありません。もしPIEが25の選手がいるとして、PIEが50より大きいと勝利と考えるならば、その選手はチームの勝利に必要な試合の支配力のうち半分を個人で発揮していることになります。もしもチームが負けた(NET RTGが低い)としても、「負けちゃったけどこの選手のおかげでここまで戦えている」と言った実感を、影響力・支配力・貢献度の指標であるPIEはきちんと表現できるかもしれないのです。

ここで最初に出した表、2016-17シーズンにおけるPIE上位15傑を振り返ってみましょう。

1位のウェストブルックは、PIE値が23%です。すなわちウェストブルック出場中に起きた events のうち23%が彼によるものです。また、PIE値が50%以上だと勝つと考えられるので、ウェストブルックは勝利のための支配力のうち半分を一人で担っていたことになります。なんと凄まじい…。実際彼のNET RTG値も+3.3と、彼のPIE(支配力)がチームのリードに貢献していたことが分かります。PIEの解釈の仕方を分かったうえで見てみると、同じ表でも見えてくるものが違ってきます。あの選手はどうなんだろう、この選手はこうなんじゃないか、推論(妄想?)は尽きません。どうですか、支配力を表す指標としてのPIEに、ワクワクしてこないですか?してくる?してこない?どうでしょう?

PIEの素晴らしさはここでは書ききれません。また、PIEの問題点ももちろんあるでしょうし、PIE値の解釈の仕方も様々あり得ます。そういったことも含めて、PIEについては以前ツイートしているので、興味のある方はそちらも見てみてください。

久々に長い文章を書いたので表現として内容として不足している部分はあるかと思いますが、もう疲れたのでここまでとします。これからは、PIEのゲーム・ログを使った「何か」をやりたいと思っているのですが、その「何か」を現在は模索中です。この模索してる時間が一番楽しいんですけどね!

【おわり】

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