何故、エロティック・ビブリオバトルを始めたのか? (1) ある大型書店で

 何故、エロティック・ビブリオバトルを始めたのですか?

というご質問をしばしば頂戴します。

 2つの理由があるのですが、本稿では、第1の動機を。

 【高尚なエロ本とは?】

 以前、ある大型書店にお勤めの方から、興味深いエピソードを伺いました。男性のお客様がその書店に訪れて、こう質問されたそうです。

「息子にプレゼントする、『高尚なエロ本』が欲しい。」

 各分野の専門書を豊富に取りそろえるような有名書店ですから、いわゆるエロ本の在庫はありません。またそのような店舗だからこそ、その男性客も、「高尚な」エロ本を探しに来たのでしょう。しかし「高尚なエロ本」って何だ?という話になるのは当然です。その場に居合わせた書店員さんと相談されて、男性客は、深田恭子さんの写真集を購入されたそうです。

 色々と不思議な問合せをされる方がいらっしゃるものだなぁ、と思うと同時に、私ならその問いにどう答えるのか、と考えてみましたが、的確な回答は出てきませんでした。

 紫式部『源氏物語』。高尚とは言えるでしょうが、エロ本でしょうか?

 谷崎潤一郎『痴人の愛』、川端康成『眠れる美女』。高尚かつエロティックですが、性癖が特殊すぎないでしょうか?

 エロ本というからには写真集。ロバート・メイプルソープ、荒木経惟。芸術的でエロティックですが、やはり性癖に偏りが。いっそのこと、村田兼一、一鬼のこ・・・。

 これぞ、という回答は得られませんが、あれでもない、これでもない、と考えることは実に楽しい。知人と議論をすると、さらに楽しい。思わぬ作品が登場し、何をエロティックと感じるかは人それぞれ、という、きわめて当たり前のことを再認識します。

 何がエロティックな本なのか、を議論する、この楽しさを様々な人たちと共有しよう、というのが、エロティック・ビブリオバトルを発案した動機です。

 【エロスの多様性】

 ですので、できるだけ多くの方々にバトラーとして参加いただき、思いがけない、エロティックな本をご紹介いただきたいと考えています。男性と女性では、エロティシズムに対する観点も違うでしょうし、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの方々にも、ぜひご参加いただきたいと願っています。

 ビブリオバトルは、チャンプ本を決める、というイヴェントですが、エロティック・ビブリオバトルは、チャンプ本に大きな比重を置いていません。エロスは多様であり、優劣を競うものではありません。また高尚か低俗かも問いません。人それぞれに多様なエロティシズムを持つことを再確認し、互いのエロスを尊重しながら、和やかに本を楽しめる場でありたいと考えています。



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