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幻想  エレクトリック・ドラゴン

冬が好きだ。
空が澄んで星が冴えるように
私の五感も澄み冴える気がする。

暖かいリビングのハンモックに身を委ねながら
オルゴールの音を浴び、
万華鏡の色に溺れる。

音には色があると思う。
色には音があると思う。

聴こえない音を聞きながら色を見るのも
見えない色を視ながら音を聴くのもいいけれど

音の色を探し
色の音を求めなくてはいられないこの渇きが唯一残った飢餓だから
私はこれを趣味と呼ぶ。失くしたくない愛おしい飢餓。

今宵もオルゴールの奏でる色と模様を万華鏡の中に出現させるための光を選ぶ。

オブジェクトにあてる光は電球色か、昼白色か。
右からか左からか上からか下からか。

苦労の末に音と色の奇跡の瞬間に立ち会うと
仙骨に眠る電龍が背骨を駆け登り、頭頂を突き抜けヴォイドに消える。

たった一瞬。
電光石火のエクスタシー。

深い溜息と共にすべてを放ち
セックスの後の親しみで宇宙と抱き合う。

オルゴールを煙とヤニから守って香を焚き
ハンモックを揺らして余韻に浸ると
ハートから愛が湧き上がる。

嗚呼、あの女性(ひと)に
あの万華鏡を贈ろうか。
きっと彼女は恍惚とするに違いない。

待って。でも…

あの女性(ひと)は、私を嫌いなんだっけ・・・


厭(イヤ)ね。
綺麗なものへの感覚が澄み冴えるだけならいいのに
エゴ人格の心の傷の痛みまで冴えて来る。

だから冬が嫌い。そしてだからこそ冬が好き。


彼女に嫌われていることが、少し痛い。

でも彼女に好かれてはいけないことも知って居る。
彼女が好きなのは自分をおびやかさない人。
はっきり言えば見下せる人。



ずっと前のこと。

「隠さなくていい。私を嫌いなことを知ってるわ」

「ごめんなさい。そうなの。嫌いなの。
 バレてるよね。バレないわけないのにバレるのが怖かった。
 嫌いなくせに頼ってごめんなさい。頼るくせに嫌ってごめんなさい…」

そう言ってしゃくり上げる彼女を
私がどれほど愛おしいと感じたか

きっと彼女は死ぬまで解かりはしない。


嫌う事も、嫌われる痛みも、愛おしい幻想。

性能の悪い“脳”に縛られた人間を終えるまでの儚いユメ。


そういえば。
彼女と一緒に、
万華鏡づくりのワークショップに参加したことがあった。

彼女は【青】一色だけを封入したがった。

私は言った。

「青が好きなのね。でも青だけじゃ綺麗じゃないの。
 つまらない万華鏡になる。
 嫌いかもしれないけれど、緑や黄色も入れてごらん?」

彼女はあからさまに嫌がって、
それでも極小サイズの緑や黄色のオブジェクトを少しだけ混ぜた。


後日、
「やってみたかったの。青一色。
でもやっぱり青だけじゃダメなんだね、綺麗じゃないの、わかったよ」
こんな事を言った事、彼女は憶えているだろうか。


好きな人だけ、好きなものだけじゃ
人生は輝きはしない。

私は彼女の嫌いな色を放つ人のままでいい。
ちっぽけで、でも目障りな私の色で、光で、彼女の好きな色が輝くように。
愛しいひとに嫌われる痛みが、私の世界を輝かせてくれるように。


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