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ベトナムは猫年【第2回】ベトナム人はどう音楽を聴いている?CDの意外な人気についても解説!

ベトナムでは、音楽を聴くときにヘッドホンを使っている人をほとんど見かけません。
スマホや持ち運びできるスピーカーで音楽をそのまま流して聴いている人が多く、街のあちこちで音楽が鳴り響いていて、とにかくいろんな音楽が耳に飛び込んできます。

ベトナムに住み始めた頃には、ベトナムの人たちがどんな音楽を聴いているのか知りたくて、気になった音楽が聞こえてくると、いそいそとスマホを出してはShazamなどの音楽検索アプリで、どんな曲を聴いているのかな?と調べたものでした。

ちまちまと耳にした音楽を調べるのがまどろっこしく感じはじめた頃、ふとあることに気がつきました。サイゴンに立ち並ぶ店の中に、はたまたいくつもある大型ショッピングモールの中に、日本では当たり前にあるはずのCDショップが見当たらないのです。

どうやって音楽を聴いてるんだろう?最近は有料の配信サービスを利用している人が多いんだろうか?と思っていましたが、タクシーの運転手さんも、どうやら店内BGMでさえも、大体Youtubeを流していることに気がつきました。
おしゃれなカフェで雰囲気の良いBGMが流れていると、音楽が突如ブツリと切れ、捲し立てるような早口で通販サイトやサプリの広告が流れてきてせっかくな雰囲気が台無しに…。
日本ならありえないことですが、周囲を見渡しても特に誰も気にしている様子も無く「あ、これがこの国の当たり前なのだ…」と納得しました。

そのせいか人気アーティストのヒット曲のMVのYoutube再生回数を見てみると、億を超えるものも珍しくなく、再生回数だけで言えば、全世界をターゲットに活動しているKpopアーティストの実績にも見劣りしないほどです。

人に聞いてみると、かつてはCDで音楽を聴いていた時代はあったものの、すぐにmp3に移行したため、市場の中には必ずといっていいほどあったカセット・CD・DVDを売る店も姿を消してしまったとのこと。
Youtubeという無料で音楽が聴ける媒体があり、日本に比べると携帯電話の通信費用も格段に安価なベトナムにおいては当然の結果なのでしょう。

なるほどYoutubeで聴いているならCDショップは見当たらないはずだと納得していた頃、街を歩いているとリアカーを引いた行商のおじさんが目に入りました。
リアカーの荷台にかかった看板を見て二度見しました。なんとCD販売と書かれていたのです。
おじさんを呼び止めて荷台を見るとそこにはぎっしりと詰まったCDが!
まさかこんな形でCDにお目にかかれるとは!

リアカーでCDを売り歩くおじさん

販売していた音楽ジャンルは、ベトナムのご年配の方に好まれる歌謡曲的ジャンル「ボレロ」のCDでした。ボレロは日本で例えるなら、演歌やムード歌謡的なポジションでしょうか。
やはりCDは今のベトナムにおいては年配の方達のためのメディアなのだな、と私の中でベトナムCD巡りはひと段落していました。

購入したボレロのCD

そんなある日、ベトナムの若者の間で人気の歌手、MINのCDの写真をSNSに投稿している人を見つけました。どうやら音源制作レーベルの投稿で、すでに音源配信済みのアルバムのCDを、ファンアイテム的に受注生産しているようでした。

さっそく取り扱い店舗を訪問してみると、そこはレーベルが運営するCDショップで、基本的に受注製作したCDの在庫を販売しているお店で、日本のCDショップとは趣が異なる店舗でした。

今回訪れたホーチミンのレコードショップ「Hãng Đĩa Thời Đại(Times Records)」
店内の様子

早速 購入したMINのCDは豪華なボックスに入った、ブックレット、トレーディングカードやステッカーなどがセットになったもので、KpopのCDのように、CDはどちらかというとおまけのような位置付けの商品でした。
お値段は特装盤が45万ドン、通常盤が28万ドン、大学生のアルバイトの時給が大体2万ドン程度なのを考えると、決して安くはない価格ですが、数ヶ月後には特装盤はちゃんと売り切れていました。

MINの豪華なボックスセット。CDに加え、ブックレットやトレーディングカードも入っている。

昨今の日本では配信が中心になりつつあり、フィジカルなCDが売れなくなってきているという話をよく聞くようになりました。
CD文化で育った私は、未だお気に入りのアーティストのCDは手元に置いておきたいという気持ちが強く、そういう話を聞くたび寂しく思っていたのですが、すでに配信中心の音楽業界になったベトナムでもCDを手元に置きたいという気持ちを持った人がまだいるんだなと思うと、少し心強いような嬉しい気持ちになりました。

というのがベトナムの音楽におけるCDの話なのですが、余談でもう一つ。
私はKpopファンで、ベトナムに来てからというもの推しグループのCDが買えないのが悩みでした。
音源は各種音楽配信サイトでダウンロードして聴くことができるのですが、どうしてもCDというより 、CDについている写真集のようなブックレットが欲しかったのです。

ベトナムにおけるKpopのCDの購入方法を調べてみたところ、渡越当初の2019年時点、KpopファンたちはFacebook上で購入希望者を募り、必要情報や場合によっては必要金額の送金証明をGoogle Formsに入力、代表者がまとめて輸入したものを到着後購入者に送付するという形を取っていました。もちろんやりとりはベトナム語オンリーで、語学ができないと手も足も出ませんでした。

やっとのことでCDショップを探し当てると、ショップとは名ばかりで、上記のような共同購入の際にキャンセルで在庫に余りが出たものを売っている個人宅の倉庫や、仮に店舗であっても別のお店の間借りスペースのようなものばかり。
当然、希望のCDが必ずあるとは限らず、お店を訪ねて好きなアーティストのCDがあればラッキーくらいの状況でした。

ところが、2021年あたりからプレオーダーで希望のCDを購入できるお店が通販サイト「Shopee」上に増えてきました。
コロナ禍で人の往来が激しく規制されていた頃、韓国にお住まいのベトナムの方がKpopグッズや韓国コスメをShopee上で売ることが増えていたのですが、同じような流れでCDも販売するようになり、以前は個人が取りまとめていた共同購入も他の通販サイトよりも出店料が安価な「Shopee」でのプレオーダー制に移行したのだと思われます。
コロナ禍で翻弄された身としては皮肉でもありますが、ベトナム語での煩雑なやり取りをしなくてもKpopのCDが買えるようになったのは嬉しい限りです。

日本でも、Kpopファンが共同購入を募って、購入実績がチャート順位に反映されるオンラインショップからCDを購入することはよくあるのですが、ベトナムのKpopファンたちも同じようなことをしてるんだなと嬉しくなりました。

ベトナム音楽においても、Kpopにおいても、日本でも、CDというメディア自体は音楽を聴く上で必ず必須というものではなくなりました。
ただ、ベトナムでもCDの流通を見ていると、好きな音楽を所有できる、という意味でのCDの付加価値はまだこれからも残り続けるのかもしれないと感じています。

オオシマチズ
ベトナム・ホーチミン在住。おいしいものとおもしろいものを探して、キョロキョロしながら街をあちこち探索する日々を過ごしています。

Instagram:https://www.instagram.com/milkmilkmilkcoffee

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