よっしーも

屈折した存在証明、あるいは存在理由の捏造

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最近の記事

『蜜月』 ある一つの時代

今日は『密月』という映画を紹介したい。 2022年の『密月』ではない。1984年に公開された、佐藤浩市主演の『密月』である。小説家の立松和平が自らの体験を元に書き上げた自伝小説が原作で、それを本人自ら脚本化し、『海潮音』の橋浦方人が撮影した。 時代 時代は1970年代後半から80年代初期、昭和で言えば50年代。1969年の全共闘による東大安田構堂占拠事件を頂点とする熱い政治の時代は、1972年連合赤軍による浅間山荘事件により突然の悲鳴にも似た終焉を迎え、一握りの者たちの呻

    • ゴーギャン、破滅の人生 - その現代における意味 …

      [ 1 ]  後期印象派を代表する画家ポール・ゴーギャンの最も有名な絵に『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』(1898年)という絵がある。「ヨーロッパ文明と人工的・因習的なものすべて」に疑念を抱き、反文明的で素朴な生活に憧れ続けたゴーギャンは晩年、彼にとって憧憬の地であるタヒチを二度にわたって訪れる。そして最後は、ヨーロッパから遠く離れたマルキーズ諸島ヒヴァ・オア島で、経済的身体的精神的苦境のどん底で、誰にも看取られず、一人その生涯の幕を閉じる。それ

      • ミニマルミュージックはどこへ行く?

         今日は私のお気に入り現代音楽を Youtube で何曲か紹介したい。まずは Youtube で演奏を見ることのできる中では一番のお気に入り。 "Cheating, Lying, Stealing" 作曲:David Lang 演奏:Bang on a Can All-Stars    Ashley Bathgate : cello    Vicky Chow : piano    Ken Thomson : bass clarinet    David Cousin :

        • 攻略できないから無理ゲーなんだ(この世は所詮ヴァーチャル)

           先日買った橘玲の『裏道を行け ディストピア世界をHACKする』を一日で読み終えてしまった(この記事は、2022年5月7日に別ブログに投稿したものを転載、加筆修正したものです)。現在、仕事がそれほど忙しくないとは言え、中身があまりに薄いというか、これまでの焼き回し感が非常に強い。一応は前作の『無理ゲー社会』の続編のようだが、発展性が全くなく、お得意のネタを披露しただけの自己満足にすぎない。  現代のこの社会は多くの者にとって、理不尽な親ガチャで生まれ、攻略不能の無理ゲーであ

        『蜜月』 ある一つの時代

          トライアングル 再び!

          (2020年2月20日投稿の別ブログより転載。一部加筆修正。)  何も、過去の三角関係がもつれ、女が斧持って復讐に来たのではない。(「トライアングルとろくでなし」参照のこと) 「TRIANGLE / トライアングル」というタイムループもののシチュエーションホラーである。 監督:クリストファー・スミス、主演:メリッサ・ジョージ、製作:2009年、英豪合作  DVDで最初に見たのは今から7年も前の2015年なのだが(日本公開自体は2011年)、それ以来どこか頭の片隅にずっとこ

          トライアングル 再び!

          Long Last Date [1]

            じゃあ、逃げてくれる?一緒に。 亜津子は、私がタバコに火をつけたあと、ちぎらずにそのままにしてある、先の黒くなった紙マッチの軸を一本一本ちぎり灰皿に捨てながら、顔も上げず、わざと投げやりに言ったであろうと容易に推測のつく少し上ずった調子で呟くように言った。 私には、片手で紙マッチの軸をちぎらず半分に折り、先の火薬の部分を親指で茶色の部分に押しつけ、はじくようにこすりつけて火をつける癖があった。いや、厳密に言えば癖ではなかった。そうすることが様(さま)になると思っていた

          Long Last Date [1]

          さすらいの二人(The Passenger)

          「一つ聞いていい?」 「一つだけなら」 「一つだけ。いつも同じ。  一体何から逃げてるの?」 「後ろを振り向いてごらん」  今日は映画を一本紹介したい。ミケランジェロ・アントニオーニ監督による「さすらいの二人」という生涯で最も好きな映画である。 製作公開は今から半世紀近くも前の1975年。主演男優は、当時まだ38歳のジャック・ニコルソン。主演女優はベルナルド・ベルトルッチの「ラストタンゴ・イン・パリ」でマーロン・ブランドの相手役を務めたマリア・シュナイダー。  この映画、

          さすらいの二人(The Passenger)

          Replay (リプレイ)

          (過去ブログより。2018年11月4日)  大腸癌の手術で一ヶ月ほど入院し、退院後、食事のこともあり、3週間近くも実家に厄介になって毎日ぶらぶら怠惰に過ごしていたが、永久にそうしている訳にもいかず、数日前誰もいない自宅に戻ってきた。だが相変わらずのダラダラ生活、これでかれこれ二ヶ月近くも仕事もせずに毎日自堕落な生活をしていることになる。「小人閑居して不善を成す」と言うが、私の場合、積極的に不善をなす訳ではないが、このようにたっぷり有り余った時間を、徒然に散歩したり本を読んだり

          Replay (リプレイ)

          トライアングルとろくでなし

          (別のブログより転載。オリジナルは「Triangle」のタイトルで 2018年3月2日投稿。一部修正しています。)  マンションとは名ばかりの、6畳に狭いキッチンがあるだけのアパートの一室、窓際に置かれたベッドに私はTシャツにパンツ一枚という姿で横になり微睡んでいた。暑い夏の昼下がりであったが、開け放した窓からは風が時折りレースのカーテンをわずかに揺らし、私の頬を柔らかく撫でていった。その蒸し暑く重い、だが不快ではない空気と一体となった半覚醒状態の意識が、その微睡みの心地よ

          トライアングルとろくでなし

          青い壜

           明日も忙しいというのに、とうに夜半を過ぎて、この時間、何をやっていることやら。  本屋でふと、R・ブラッドベリの「とうに夜半を過ぎて」という短編集を手に取り、つらつらと読んでいる。  その第一話は「青い壜」という短編。今から少し遠い未来、人類が開拓し、そして棄て去った火星の、廃墟となった都市を、一人の男が伝説の「青い壜」を捜し求めて、あてのない旅を続けている。  それが何なのか、中に何が入っているのか分からない、ただ伝説の「青い壜」を捜し求めて。 『その部屋を終り、