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いつかきっと

「ねーねー、ふたりでどっか抜け出そうよー、キャハハ!」

イナフのシャツを着てジントニックを飲んでるおれは目の前にいる金髪ショートの優香似のクッソマブい女の子から逆ナンされてる最中だ。
マジの勝負所。
90年代後期の夏真っ盛り、青山のクラブでのある夜のことだった。

紙でも舐めてぶん曲がってんのかな、瞳孔がひらいちゃってブサイクなおれでもカッコよく見えたのかね。
90年代のクラブってあり得ない可愛さの子がいたよね。

でも今日だけはダメなんだよ。

「あー、ごめん。向こうにツレがいるんだ」
優香似は胸の大きさまで優香だった。
「え、全然話してないじゃん。あたしも彼氏と来てるけどあんなの置いてくからさ、キャハ♡」
めっちゃいい匂いすんな、おい。
「そーしたいのは山々なんだけど…あれ妹なんだよ」
「えーマジで!ウケるんだけど〜保護者〜。でも彼女じゃないなら余計あたしの彼氏に押し付けちゃえばいいじゃん!」

…ったくなんでテメーはおれが遊びに行く場所についてくんだよ。
この時ばかりはおまえの存在に本当にムカついたよ。
おれは涙をのんで優香似と別れたんだ。


おれには3つ下の妹がいる。

女のくせに物事を掘り下げる癖があって、おれが好きな音楽や映画をきっかけに入り込んで、気がつくとおれの百倍詳しくなってることが沢山あったな。
この日もクラブに遊びに行くおれについて来やがったもんだから、目の前の優香を泣く泣くリリースする羽目になっちまった。そんでおれがブチ切れてそれ以来一緒に出かけることはなくなったけど、優香似ほどの大物には会うことがなかった。

妹はクラブミュージックにハマって学生の頃からディープハウスのライナーノーツを書いたりしてたから、そのまま文筆を生業にしてて、まあ結構ガンガンやってるみたい。
本屋でたまに立読みすると妹の記事に出くわす事がちょいちょいあるからさ。
こないだの草間弥生のインタビューはよかった。
おれの駄文とはやっぱ違うもんだよ。

年に1、2回は会って酒飲んだり。
こないだはダストのユイちゃんと3人で飲んだよ。
なんか仕事ねーのかってよ。
そーいやコータローさんの話もしたことがあったな。

「へー、コータローさんってそんな苦労してたんだね。元ピチカートなのに。」
「…おまえ田島貴男と勘違いしてね?」
「してないよ。野宮さん抱っこしたりしてたじゃん」

よく覚えてんなあ。おまえ中学生だったのに。

まあおれはベタべタの家族関係てのが本当に嫌いなんだけど、コイツとはいい距離感でいれてるな。

そもそも博打資金として、結構な金額を当時借りてるしな 笑。
ちゃんと返すよ。いつか。

いつかきっと。

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