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midnightblue その3

「あ〜ご無沙汰です〜」

って庄司さんがみっちーのメガネ屋さんに入ってきた。あいだにコロナもあったから超久しぶりだった。

庄司信也てのは古市コータローを兄貴と慕うクリエイターでソロの四作目と五作目のジャケも担当してる。
一見マルチになんでも出来る人に見えるんだけど、実は筋が通ったこだわった仕事をしてる。

なんでテメェにそんなことがわかるんだって話なんだけど、庄司さん飲んでる時に億の仕事来たのに俺やりたくないですってダダこねてたから。
庄司信也の仕事のモチベは金じゃねーんだろな。
まあ近年のコータローさんの活動のキーパーソンのひとりなのは間違いない。
数少ない歳下でもやってることがいいなって思う人。
てか「東京」のジャケットで俺の中では殿堂入りした。

コータローモデルのサングラスも庄司さんが絡んでた。

「暮れにサングラスのお披露目会を行ったことないけどdownbeatってとこでしよかなと思ってんすよ。兄貴に軽く弾き語りしてもらったりして。兄貴気に入ってるみたいで、そこ。春に一緒に行ってましたよね?」


…あのよ、あの人ついこないだビルボードで死ぬほどイカしたライブやってたじゃん?
そのつぎがdownbeatなのかよ。六本木から野毛かよ。美しい夜景のバックから場末の煙たいジャズ喫茶かよ。

でも内心俺は絶対にハマるだろうなと思った。

ずっーと博打してると勘が研ぎ澄まされすぎて、理屈じゃないんだけど次の目が赤なのか黒なのかわかる瞬間がごくごく稀にある。一万回に一度くらい。
オカルトや思い込みじゃない。ラリってる人間の戯言でもない。
そん時はいつだってテーブルのバランス目一杯にチップ積んできた。

その時の確信めいた感覚に似てるなって思った。


暮れのクリスマス前にコータローさんはまた横浜にやってきた。


ホテルのロビーで待ってたら太源でラーメン食ってきたらしくご機嫌の様子。
downbeat入りして軽くリハしたんだけど、よくわかんねーバカでかいスピーカーから出る音はやっぱ抜群にいい。

スタートまで時間あるからぴおシティで軽く飲んで。「年内にdownbeatでやれたなあ」
って言われて嬉しかったね。


弾き語りはいい感じにほろ酔いのコータローさんが楽しそうでリラックスムードで始まったんだ。
客席もちと早めのクリスマスパーティって感じで皆幸せそう。
俺はDJブースで庄司さんと酒飲みながら観てた。

ふいにコータローさんがMCで、

「あー次なにやろっかな。あ、今日サトル来てんのか。お前これ好きだからやるか。」

つって「midnightblue」を歌い出した。


何年も前に、初めてコータローさんと酒飲んだ時に、
俺が一番好きな曲なんすよねって言ったことがあった。馬鹿な真似した後によくあの曲に救われたもんですよって。

リハでも全くやんなかったのにさ。
しかもよくもまあそんな前のこと覚えてんなって。

その瞬間、色んなこの街での思い出がフラッシュバックして涙が出てきた。

ゲロ吐くくらい博打で負けすぎて死にそうになったこと、オンナに死ねクズと言われたこと、ツレが飛ぶ前に連絡してきて最後の太源のラーメンを一緒に食ったこと。

なんであの多幸感あふれる空間でひとり泣いてたんだろうな。自分でもよくわかんない感情だった。

他になんの曲やったかマジでなんも覚えてない。


でもなんだろうな。

今深夜にあの日のこと綴ってて、自分がまたあんな感情になることもあんのかなって。
あんな気持ちになったことは今までなかったから。


これが去年あった忘れられない出来事。
ちなみにサングラスは5月3日に発売されます。
素晴らしい出来なんで是非。









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