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連載小説マリアと呼ばれた子ども

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第35回

連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第35回

翌日、簡単な朝食を済ませると僕たちは【ドルフィン】と名付けられたタオライアーの制作に取り掛かった。作業場所は愛さん宅のリビングルームに続くデッキだった。まずは外形を鉛筆で下絵から取ると、ジグソーで外形を切り出した。
午前中にそこまで終わらせると、【昼食がてら、ドームハウス見学に行きましょう】とアンニカ親子が提案した。
ドームハウスというのは半球状の形状の家にことだ。阿蘇にはドームハウスをたくさん宿

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第34回

連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第34回

「そうですね、今回みなさんと一緒に仕上げるタオライアーの名前を【ドルフィン】としたのは、おっしゃる通り私たちが地球に初めて転生して来た時、イルカだったからですよ。」愛さんはいつもの通り、おっとりした口調で答えてくれた。
僕以外、参加者がみな、うなづいて聞いていた。隣に座っているミッチーの横顔をそっと見ると、どこか懐かしい思い出に浸っているように、遠い目をしていた。イルカだった頃、レムリアに生きてい

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第33回

連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第33回

僕は再び、愛さんと幸子、アンニカに質問をした。
「みなさんはレムリア時代のお仲間だったとのことですが、琴座の一等星の『ベガ』と関係があるんでしょうか。いや、実は僕はマリアとともに初めてタオライアー製作ワークショップに参加した時たまたま、シュタイナーの母国語であるドイツ語ではライアーを【Lyra 】と綴ると知り、そのことに興味を持ったんです。」
僕は説明を続けた。
【Lyra 】はもともとラテン語の

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第32回

ふと気がつくと、愛さんはいつの間にか白い麻のワンピースに着替えていらした。アンニカ親子も同じようなワンピース姿だった。きっとマリアと同じく、風呂上がりに着替えたのだろう。気がつくと、ミッチーも幸子も同じような白っぽい麻の生地で出来たパンツスーツを身に付けていた。
僕の中で白っぽい麻のゆったりした装束は、ライアーハープとタオライアーを演奏する人たちの中では【制服】のように感じられる。
愛さんはタオラ

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第31回

連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第31回

僕たちが日帰り温泉から愛さんの住まいに帰ると、アンニカ親子も入浴を済ませていた。
温泉施設に向かう前に薪ストーブの上に掛けていた、大鍋に野菜スープが出来上がり、いつのまにか薪ストーブの下段にあるオーブンでは手作りパンが焼き上がっていた。
新鮮な野菜をたっぷり使ったサラダとともに、薄切りにしたハムやチーズが並べられた。平飼い卵の茹で卵も綺麗に櫛形に切られている。
「ご存知かもしれないけど、阿蘇は牧場

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第31回

僕とミッチー、マリアは、愛さんを長年サポートしている幸子の指示の下、台所で野菜スープの材料を切った。有機栽培された色とりどりの野菜は、どれもこれもピカピカした光を放っていて、生命力にあふれていた。愛さんが午前中に汲んできてくれた湧き水と共に大きな寸胴鍋に入れると、薪ストーブの上に置いた。このまま長時間、薪ストーブの火に任せてコトコト煮込めば、立派な夕飯になるはずだ。
アンニカ親子が到着したのを見計

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第30回

連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第30回

愛さんが手作りされた優しい味わいのパンケーキと熊本産の美味しいグリ茶に、僕たちの旅の疲れはすっかり癒されてしまったようだ。
僕は愛さんとライアーハープ、タオライアーのことがもっと知りたくなった。愛さんは、日本にシュタイナーのライアーハープとタオライアーが入って来た直後からずっと、ここ阿蘇の別荘で演奏会や製作ワークショップなどを開催して来られた。いわば、先駆け的な存在だからだ。
愛さんはいつものおっ

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第29回

連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第29回

僕とミッチー、マリアは幸子と羽田空港で落ち合うと、午前の便で阿蘇くまもと空港に到着した。軽く昼食をとると、僕はレンタカーを借りた。荷物を載せて乗り込むと、カーナビに愛さんに指定された住所を登録した。カーナビによると、所要時間は1時間半くらいだった。
空港を出てしばらく走ると、カーナビの指示で山道を上って行くよう案内された。ちょうど春分の日の直前とはいえ、本州の緑を見慣れた目には、阿蘇の木々の緑は非

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第28回

年が明けて、マリアは【イルカちゃん】と呼んで彫っていたタオライアーをついに彫り上げた。幸子に連絡すると、自宅近くの公共施設に予約を入れて仕上げ作業をすると言う。早くても2月の上旬から予約可能だと言う、幸子に乞われて、僕は希望日時をいくつか知らせた。
幸子の話では、仕上げのコーティングは三種類あるとのことだった。胡桃を潰しながら油を吸わせるか、ミツロウを溶かしたものを少しずつ塗り広げるか、ワックスな

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第27回

連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第27回

幸子からタオライアーの今後の製作方法について細かく教わった後は、クリスマスツリーを囲んでお茶会になった。
幸子はドイツ製のクリスマス菓子パン、シュトーレンを用意してくれていた。アンニカ親子は手作りのジンジャーマンクッキーを差し入れてくれた。僕たちがお土産に持参した無農薬のハーブティーを幸子さんは、陶器のポットで丁寧に淹れてくれた。ハーブティーは乾燥したオレンジやレモン、シナモンなどのスパイスが入っ

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第26回

連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第26回

「クリスマス会」と称して幸子の自宅でタオライアー製作ワークショップの補講がされたのは、年の暮れも押し迫った頃の昼下がりだった。
僕はマリアを伴って、ほぼ彫り上がったタオライアーの木材を幸子の自宅に持参した。例によって、幸子から指定された自宅近くの駐車場に車を停めて、そこから歩いて数分のところにあった。
このところ数年に渡って暖冬が続いていたが、この日は珍しく午後から小雪が散らついていた。湘南は比較

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第25回

連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第25回

湘南にある幸子宅でのワークショップから帰る道すがら、僕はマリアとともにホームセンターに立ち寄った。幸子から推奨された24ミリの丸ノミと木槌など、工具を手に入れようと思ったからだ。
丸ノミは工具売り場コーナーに一角に各種、並んでいた。10歳の子どもが手にするには、持ち手の部分が少々長すぎる感じがした。なるべく柄の部分が短く、マリアが握りやすい太さのものを選んだ。
マリアが実際に丸ノミで板を彫り出す作

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第24回

連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第24回

夏休みに親子で参加したタオライアー製作ワークショップでは、あらかじめ木板は外形が削られ、表面も機械によってほとんどの部分が削られていた。そのため参加者はワークショップのプログラムで仕上げ彫りを施し、ヤスリを掛けるだけとなっていた。
今回のワークショップでは、最初に参加者に手渡されたのは長方形の木板だった。まずはジグソーという工具を使って、イベント主催者の幸子さんが外形を削り取ってくれることになって

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連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第23回

連載小説 マリアと呼ばれた子ども 第23回

「では、ライアーを製作する木の精霊と繋がる瞑想中に、どんな映像が見えたり何を感じられたか、お一人ずつ、シェアして行きましょうね。」
参加者は幸子に促されて、順番にシェアして行った。
僕の番が回って来た。僕は先程メモに認めた、ケヤキの大木が切り倒されるまで過ごしてた、森の中での一生について、見えたことをシェアした。森の奥深いところで生を受けたケヤキの木は、大地と水と空気、陽の光に育まれた。ケヤキの木

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