ウィズコロナの時代に考える、”幸せのメカニズム”

前野隆司教授の「幸せのメカニズム 実践・幸福学入門」を読みました。

前野教授のお話を初めて聞いて「幸せの4つの因子」を知ったのは、2017年に開催された「第1回shiawase2.0シンポジウム」だったと記憶しています。
(今見返してもワクワクするプログラムで、また参加したいなあと思っていたら、今年はオンラインで開催されていたようです。動画アーカイブも上がっているのであとで見よう…!)

「幸せの4つの因子」とは、以下の通り。

・「やってみよう!」因子
・「ありがとう!」因子
・「なんとかなる!」因子
・「あなたらしく!」因子

3年前にお話を聞いて以来、なんとなく頭の片隅にはあったものの、それ以上深く掘り下げることはしませんでした。
しかしこのタイミングで、 #朝渋オンラインnote部 の課題図書に選定されたこともあり、改めて読んでみました。

幸せになるためのキーワード

まず読んでみて驚いたことは、「幸せ」という主観的になりがちな対象を扱っていて、かつ「幸せの4つの因子」が非常にやわらかい言葉でアウトプットされているにも関わらず、研究のプロセスが客観的、かつ科学的であること。
ある特定の哲学者が、ウンウン考えてひねり出したものではないからこそ、誰もが自分ごととして取り入れやすいのではと思います。

この本を通じて、重要だと感じたキーワードを2つご紹介します。

”フォーカシング・イリュージョン”

フォーカシングは焦点をあわせること。イリュージョンは幻想。だから、フォーカシング・イリュージョンとは、間違ったところに焦点を当ててしまうという意味です。つまり、「人は所得などの特定の価値を得ることが必ずしも幸福に直結しないにもかかわらず、それらを過大評価してしまう傾向がある」[Kahneman, et al., 2006]ということ。「目指す方向が間違ってるよ」です。

"地位財と非地位財"

地位財は、所得、社会的地位、物的財のように、周囲と比較できるものです。一方、非地位財とは、他人が持っているかどうかとは関係なく喜びが得られるもの。
そして、地位財による幸福は長続きしないのに対し、非地位財による幸福は長続きする、という重要な特徴があります。

わたしたちは、目に見えて比較しやすい地位財によって「幸せ」や「豊かさ」を測りがちですが、それは「フォーカシング・イリュージョン」なのだと、この2つのキーワードは語りかけているような気がします。

では、どうして地位財にばかり目を向けてしまうのか。要因はいろいろあると思いますが、テレビやSNSなどメディアの影響は非常に大きいと思います。
そして、わたしたちはメディアを通じてだけでなく、実社会でもたくさんの情報のシャワーを浴びています。意識的にも、無意識的にも。
家族や友人、同僚などとの会話もそうでしょうし、ふとすれ違ったひとが素敵な服を着ているなとか、視覚情報として入ってくるものも相当に多い。

そういった様々な情報から、「他者が持っているけど自分にはないもの」(きっとほとんどが地位財でしょう)に気付き、うらやましく感じたり、「持っていない自分」を不幸せだと判断しがちなのではないかと思います。

「人との接触を8割減らす」ことが求められる環境下で

そろそろ世の中が平常運転に向かっているなという感覚はありますが、緊急事態宣言が1ヶ月半に渡って続きました。
これからも「コロナ以前」に戻るのではなく、いわゆる「ニューノーマル」「新しい生活様式」へのシフトが求められます。

幸いにしてわたしは自宅で仕事が成り立つ状況だったため、外出自粛期間はほぼ電車にも乗らず、徒歩10分圏内でおおよそすべてを済ませることができました。「人との接触を8割減らす」は概ね達成できたと思います。
(ただこの「8割」は何を母数として考えたらいいのかずっと分からなくて、結局今に至るまでモヤモヤしてます)

そうすると、当たり前ですが「人と会うことで得ていた情報」がめちゃくちゃ減ります。これは「自ら情報を取りにいかないと、必要な情報が得られない」側面もあれば、「知らず知らずのうちに受け取っていた必要のない情報を、受け取らずに済むようになった」とも考えられます。

また生活がミニマルになったことで、本当に必要なものとそうでないものについて、改めて考え直すきっかけになったのではないかと思います。

だからこそ、実は今こそが自分の中の「フォーカシング・イリュージョン」に気付き、地位材と非地位財をバランスよく追い求める方向にシフトしていく、良いタイミングなのではないでしょうか。

これは本の中で紹介されていた、「引き算のワークショップ」にも通じると思います。

自分が日常使っていて、ないと困ると思うものを、一週間か二週間、なしで過ごす、というワークショップです。
本来は、いつもと違う生活をすることによって、普段は気にせず、気づいていない、町や自分の特徴に気づこう、という主観的フィールドワーク体験のための活動なのですが、「独立とマイペース」の力を鍛え、人の目を気にしない自分を作るためのエクササイズとしても有効ですね。

本の中では靴を引き算する、右手を引き算する、家を引き算するという例が紹介されていましたが、わたしたちがここ1ヶ月半経験していたのは、「人と会う」という行為が強制的に引き算されていた状況でした。そしてこの状況は、幸せになるために有効なエクササイズでもある、と。

誰もが幸せになれる

この本の大半を占めるのが、最初に挙げた「幸せの4つの因子」に関する詳しい説明です。
これ以上はもう、ぜひ読んでくださいというだけなのですが(笑)「幸せの4つの因子」を理解し、自らの行動を変えていくことで、誰もが幸せに近づけるのだということをメッセージとして受け取りました。幸せになるということは、決して限られた一部のひとにのみ許されるのではないのだと。
気持ちや考えを変えるよりも、小さな行動を変えることの方がずっと簡単です。だからこそ、多くのひとに幸福学の考え方を知ってもらいたいな、と思いました。

最後に、「幸せ」と聞いてわたしがいつも真っ先に思い浮かべるものをご紹介して、この記事を結びます。

2016年の瀬戸内国際芸術祭で、女木島という小さな島に建てられた、「OKタワー」。タイ人アーティスト、ナウィン・ラワンチャイクン氏の作品です。

港からひと山超えた先の静かな海岸にある、女木島の住民のみなさんが描かれたタワーを登っていくと、こんな歌が聞こえてきます。

幸せはどこにある いろんなところ さがしたけれど
本当は僕らの心にある 遠いとこじゃない

一度聞くとなかなか頭から離れませんが、幸せについての核心を、シンプルな言葉で表しています。
歌はYoutubeにアップしている方がいたので、こちらをどうぞ!

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今回題材とした本はこちらです。

*この記事は #朝渋オンライン の「note部」活動の一環で書きました!


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