見出し画像

無職引きこもり日記 ある土曜日 8月31 日

  土曜日。休日でピカッチが家にいる。朝から「なにわ男子」のDVDをテレビで流している。私がうるさいのが嫌いなのをよく知っているので、一応遠慮しているのだろう。ヘッドホンをつけて見ている。赤色のかわいいヘッドホン。ところが、寝転びながら見ているものだから、コードの長さが足りないと言う。「短いし。なんでこんな短いの買ったんだろう?誰だ?これにしようと言ったのは。」人のせいにしようとしているらしい。「正座して見れば足りるでしょ!」「やだし。新しいの買いに行こうよ」

 ああ、やれやれ。うるさいので二階に来る。すぐに気分が沈みがちになるので、本の世界に集中しようと思う。梶井基次郎の作品集を取り出して、読む。

「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧さえつけていた。焦燥と云おうか、嫌悪と云おうか。……何かが私を居堪らずさせるのだ。それで始終私は街から街を浮浪し続けていた。」(檸檬)
 
 ああ、これだこれだ。私もこれだ。じっとしていられない、そわそわした感覚。居堪らずさせているものの正体を私は寂しさと呼ぶ。私も街を浮浪し続けようかと思う。炎天のアスファルトの道をふらふらと。そんなことを考えていると、ガタガタと音がして、私の部屋の前のベランダに同居人が出てくる。同居人は上半身裸である。入道のような体。「ちょっと!やめてよ。裸でベランダに出んといて」と注意する。「わたしは東南アジア人なの」と同居人はわけのわからない言い訳をしている。「汚い裸を見せんといて」。言うことを聞かない。昨日の夜もピカッチから「乳首見せるな」と言われていた。ああ、やれやれ。私が居堪らずそわそわしているというのに、その裸かよ。

 今日も空は青く晴れ渡っている。晩夏である。太陽はギラギラ照り付けている。階下からヘッドホンのコードのことでまだ文句を言っているピカッチの声がする。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?