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無職引きこもり日記 日曜日の夜ラン 9月3日

 夜ランする。陸上競技場の周辺のランニングコース。日曜日の夜だから、人は少ない。みんな明日からの仕事に備えているのだろう。私は、無職だから平気で日曜の夜にも走ることができる。

 空には月が出ていた。今日は黄色い月の周りに暈がかかって、輪郭は二重にも三重にもぼやけている。いつもの白いランニングシューズを履いて、ゆっくりと走りだす。

 友だちが音信不通になって二週間。友だちのことを思わない日はない。というか、いつも考えている。今頃どうしてるかなとか……。走っているときも、なんとなくそんなようなことを考えている。今日の月のようにはっきりしないぼやけた思いが頭の中を通り過ぎていく。

 林の前に来ると、カイヅカイブキの緑の匂いが鼻を衝いた。木の幹を立ち割ったかのような濃いにおい。木の体臭。その下の叢から聞こえて来るのは無数の虫の鳴き声だ。硬い金属を叩いているかのような甲高い澄んだ音。キーンキーンキーンキーン。冷えた金属の寂しい音が、私の空洞と共鳴し出して、どうにもこうにもいられない気持ちになる。キーンキーンキーンキーン。痛みの音。澄んだ痛みの音。

 いけないいけない。慌てて思考を消し去る。走ることに集中しよう。のろのろ走ってるからこうなるのだ。私は足に力をこめる。何も考えられないくらいまで呼吸が苦しくなれば、こんな寂しい音は聞こえなくなるはずなのだ。誰もいない日曜の夜のランニングコースを私は一人で全力疾走する。ぼんやり暈がかかった月が、滲んだように見えている。

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