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雨あがりに、君を想う。

何週間か前の、あの日。
雨が降って、風が吹いて、立っているのもやっとこさ。

ポキっと、またポッキと。
音を漏らすかのように、身を守っていた傘が折れた。悲鳴を上げたのは、私か傘の方か、わからない。だって、私も痛い。


4年ほど前に、ほんのちょっとだけ奮発して買った雨傘。どんな装いだって受け入れてくれる、ネイビーとブラウンの色味が、シックでお気に入りだった。

ブラウンのレインブーツを合わせると、ぐんっと気持ちも上がって。
雨の日もなんだか楽しくなっちゃって。

そんな想い出の雨傘と、急にお別れすることになってしまったのだから、途方にもくれる。ちょっと、そっとしといてほしくもなる。



天気のいい日。
あたらしい雨傘を求めて、ようやく街に出た。

壊れてしまった傘と同じようなデザインを、見て回った。何店舗も、来る日も来る日も。

けれど、君はどこにもいない。

求めたって、探したって、見つからない。

時は過ぎた、のかもしれない。



今の姿にあうものが、きっとある。

選択肢の中から、惹かれるスタイルを手に取る。軽い、重たい、ちょうどいい。色味が好みだな、シルエットが新しい、と。ていねいに会話を重ねながら、ひとつを選ぶ。選ばられる。

淡いアイボリーに、ぐっと引き締まるブラウンカラー。手におさまる、身を守る領域に、じわじわと安心感を抱く。

今までとは違う、色味。

今の自分に合う、色味。


変わることと、変わらないこと。

それぞれが同じように存在する。

昔に囚われて、まったく同じようなものを求める。だって、好きだったし、好かれていた。これが安心だし、手っ取り早い。

ほんの少しずつ、じわじわと別れは迫る。小さな変化に気付かないフリをして、決定的なその日、突然悲劇に見舞われたように振る舞う。けれど、本当はどこかでわかっている。もうすぐかもしれない、と。


私の雨傘も、そうだった。
持ち手が少しずつ見窄らしく、華奢な骨組みがだんだん弱くなっていたこと、気付いていた。

潮時、だったのだ。


別れの言葉はいわない。

またね、元気で。

と、送り出す。“また”なんて来ないのに。


今の姿にあうものが、きっとある。

雨があがったら、傘をたたんで、君を想う。





☔️あとがき☂️
お読みいただきありがとうございました。
壊れた雨傘から始まる、ストーリー。
お楽しみいただけましたでしょうか?

正直、このように解説などと書き加えることは、おこがましいのかもしれません。けれども、この雨あがりの瞬間に、何か浸りたい想い出がおありでしたら、傘を閉じるとともに、あなたにとっての”君”を想い、また心にそっと閉じていただけたらと思いまして。

それは、大切な人だったり、想い出だったり、ものであったり、するのでしょう。


よろしければ、こちらも合わせてどうぞ^^🌂





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